クモが好き
[DATA]著:福島彬人(ふくしま・あきと)/発行:無明舎出版/価格:1800円/ISBN4-89544-218-7/初版発行日:1999年7月10日[SUMMARY]アマチュア研究家がつづるクモ雑記
著者は1929年生まれで、教員、記者、編集者、古美術商などの経歴の一方、50年以上もクモの研究にたずさわっきた。本書は個人誌、学会誌、新聞などに発表した文章をまとめたもの。現在は秋田県在住で、本書の内容も秋田県のクモに関する内容がほとんどである。本書の内容は以下の4部から成る。
「クモ紀行」…さまざまなクモについてを紹介。
「クモと民族」…秋田県のクモに関する民話、わらべ歌などを紹介。
「クモのフィールド・ノート」…「クモ紀行」よりもやや詳しい解説。
「クモたちの横顔」…クモの種類を簡単に紹介。[COMMENT]動植物学を支えるアマチュアたち
クモというと動物嫌われ者の上位には必ず顔を出す動物でしょう。しかし、クモは人間に危害を与えないし、毒も持ちません(少なくとも日本産のクモには致死性の毒を持つものはいない)。農業的にいうと、クモは害虫を食べてくれる益虫ですし、住居的にいいますと、ダニはハエやダニを食べてくれるいいやつなのです。それでも嫌われるのは網を張って獲物をつかまえ、むしゃむしゃ食べてしまうというあたりが残酷に見えてしまうのでしょうか(でもそんなことを言ったら肉食動物はみんな残酷ということになってしまう)。クモというと、たいていの人は植物に網を張った姿を思い浮かべるでしょうが、クモのバリエーションは非常に多岐にわたっていて網を張らないクモもとても多くいます。このような色々なクモについては本書でもたくさん紹介されています。
しかし、この本の面白いところは、単にクモについてのうんちくの羅列ではなく、「クモ日記」的な内容にあると言えるでしょう。この本に書かれている内容は、基本的に著者自身が観察し、採集し、飼育したことです。飼育についても時系列的に書かれているので、まさに「クモ日記」。この本はクモについての本なのですが、アマチュア研究家の生活ぶりも垣間見えてくるようで、そこが読んでいて面白いところです。しかも、「クモの研究」という誰も知らないような世界、いったいどのようなことをやっているのか…というあたりが興味をひきます。私は動物好きですし、動物にかかわっている方も多く知っているのですが、それぞれの人の動物とのかかわりあい方というのは千差万別です。今回、この本を読んでみての私の一番の感想も「クモの(アマチュア)研究者はこういうことをしているんだ!」というものでした。日本に限らず、動植物学の世界ではアマチュアの役割は低いものではありません。アマチュアの研究家が採集したり、飼育したりした結果が学会でも認められるということは珍しくはありません。そもそも、プロ(主に学術機関)の人数も限られていますし、彼ら自身も研究で忙しい。そして、この世の中には大量膨大無数の動植物が存在しているのですから、アマチュアの力無しに研究は進みません。アマチュアといっても、その能力にはピンからキリまであって、質の上下があるのは難点です。が、本当に優れた業績を残す例も多数あるのです。本書の著者もその研究熱心には頭が下がります。
この本は某書店で開催された地方出版社の出版物を集めた特設売り場で見つけたもので、以前紹介した「サルとつきあう——餌付けと猿害」もここでいっしょに買ったものです。今の日本では、東京の出版社、しかも大手といわれる少数の出版社ばかりが市場のほとんどを占拠しているのですが、地方にも数多くの小出版社が存在することを忘れないでいたいものです。彼らがいなければ、出版物は東京発信のものだけしか存在できなくなるのですから。]