Vol.47で紹介した「世界哺乳類和名辞典」は哺乳類の基礎資料としてありがたいものです。今回はこの辞典をもとにちょっと調べものをしてみましょう。
この辞典に掲載されている哺乳類類は、20目132科4282種にのぼります。「目」という分類が一番大きな分類で、その下の分類が「科」、さらにその下が「種」という分類になります(実際はこれらの中間にも多くの分類レベルがある)。哺乳類に限らず、動植物一般に言えることですが、それぞれの「目」に含まれる「科」や「種」の数はかなり片寄ったものです。論より証拠、「目」別にそれぞれに含まれる「種」の数をランキングしてみました。それが次の表です。
順位 目 種 代表的な動物 1 齧歯目 1749 ネズミ、リス 2 翼手目 993 コウモリ 3 食虫目 360 トガリネズミ、モグラ 4 食肉目 271 イヌ、ネコ、クマ、アザラシ 4 有袋目 271 カンガルー 6 偶蹄目 211 ウシ、シカ 7 霊長目 181 サル 8 クジラ目 79 クジラ、イルカ 9 ウサギ目 59 10 貧歯目 29 アルマジロ、ナマケモノ、アリクイ 11 奇蹄目 20 ウマ、バク、サイ 12 ツパイ目 16 13 ハネジネズミ目 15 14 ハイラックス目 8 15 有鱗目 7 センザンコウ 16 カイギュウ目 5 ジュゴン、マナティー 17 単孔目 3 ハリモグラ、カモノハシ 18 長鼻目 2 ゾウ 18 皮翼目 2 ヒヨケザル 20 菅歯目 1 ツチブタ ご覧のように、囓歯目、つまりネズミの仲間が圧勝です(約40%)。続いてコウモリの仲間の翼手目、トガリネズミ、モグラなどの仲間の食虫目が続きます。
齧歯目をさらに見ていきますと、圧倒的に多いのはネズミ科で1130種にもなります。2番目のリス科は256種ですので、ネズミ科が非常に多いことがわかると思います。哺乳類全体で見ても、ネズミ科だけで約26%になり、哺乳類の種の1/4はネズミということになるのです。
今回は説明しませんが、ある動物分類群の中で特定の種が非常に多いということは珍しいことではなく、鳥では「スズメ目」、魚(硬骨魚類)では「スズキ目」、両生類では「無尾目(カエル)」の種の数が非常に多くなっています。
念のため注意しておきますが、「種」の数と生息数は同じものではありません。「種」は分類上での単位であって、生息数とは関係無いものなのです。とは言え、実際の生息数でもネズミは非常に多いでしょう。ネズミの種の数が非常に多い理由は、繁殖力が強いということだけではなく、ありとあらゆる環境——高地から低地まで、都市から無人地帯まで——に適応し、その環境に合わせて分化していったからなのでしょう。特殊な動物と思われがちな有袋目(カンガルーの仲間)の種の数が多いことにも注意してください。オーストラリア大陸(とその周辺の島々)は早い時期に他の大陸から分離してしまったために、古い時代の哺乳類だけで独自の進化・分化が進んでいったと考えられます。後の時代に現れた他の大陸の哺乳類が海を越えて来ることはなく、有袋目単独でさまざまな分化が起こりました。そのため、カンガルーやコアラのような草食動物もいれば、フクロネコのような肉食動物もいる、という多様な動物が含まれることになったのです。
分類というのは生物学の最も基礎的な部分です。分類についての知識があれば生物についての理解の助けにもなります。分類は外見的特徴にも反映されるため、初めて見る動物に出会った場合でも、その外見から「これは〜の仲間だ」という推測をすることが可能になります。
図鑑などを見るときには、「分類」にも気をつけて見てみると新しい発見が得られるかもしれません。※このような話題は「観察」とは言えないかもしれませんが、広い意味での「観察」ということで、「今日の観察」としてとりあげました。今後も狭い意味での「観察」ではなく、いろいろな視点からの「観察」をしてみる予定です。