[ON THE NEWS]
「チョコエッグ」というチョコレート菓子のおまけの動物フィギュアが人気になっているが、9月から10月にかけて、講談社、平凡社、小学館から関連本が続けて出版された。
(SOURCE:朝日新聞・東京版(夕刊) 2000年10月7日付)[EXPLANATION]
近所のスーパーでもコンビニでも目立つ所にも置かれているほどの重点商品になっているらしい「チョコエッグ」ですが、全国どこでもこういう状況なのでしょうか? それはさておき、そもそも「チョコエッグ」とは何かを知らない方のために説明しましょう。
「チョコエッグ」は大阪のフルタ製菓株式会社が発売しているおまけ付きチョコレート菓子です。その名の通り、卵型をしたチョコレートで、その中のカプセルに動物のフィギュアが入っています。何が入っているかは開けてみないとわからない仕組みで、しかも何種類もフィギュアがあるので、どんどん買わないと全部の種類をそろえることはできません。
「日本の動物コレクション第1弾」が発売されたのが昨年1999年。その後「第2弾」「第3弾」が発売されましたが、このときは流通経路も数も少なく、知らない人も多かったかもしれません。今年の夏、商品形態を変えて(キャンデーになって、パッケージも大きくなった)「レッド・データ・アニマルズ」という商品を出しましたが、このときから流通も増えて入手しやすくなりました。そして秋から「チョコエッグ」が再開、「日本の動物コレクション第4弾」と「ペット動物コレクション」が現在発売中となっています。この手の「おまけ菓子」は昔から存在するものですが、このシリーズが評判になっているのはそのおまけの出来の良さにあると言われています。このシリーズを企画し、フィギュアの原型を製作しているのは大阪の株式会社海洋堂です。この海洋堂という会社、模型好きの方ならほとんどの方が知っているのではないかと思われるくらいの有名企業です。ホームページをご覧になるとわかりますが、アニメや特撮もののキャラクター・フィギュアを数多く製作しています。
そして今回の動物フィギュアの原型を製作しているのは同社所属の造形家、松村しのぶ氏です。彼は動物模型の造形家で、博物館の展示模型もてがけている専門家です。海洋堂では恐竜のフィギュアも発売していますが、その多くも彼が原型を製作しています。私も動物模型好きで、海洋堂の恐竜ものはいくつか持っています。そのうちのいくつかは彼の原型によるもののはずです。というか、きっとそうに違いない! 同社の恐竜フィギュアはいいかげんな考証のおもちゃとは一線を画す出来でしたので、私も気に入っています。さて、冒頭の新聞記事に話を戻しますと、この「チョコエッグ」の本を有名出版社が立て続けに発売しました。このような便乗本は珍しくもないのですが、今回の3冊にはいずれにもおまけフィギュアがついていて、「チョコエッグ」マニアのコレクション欲をさらに刺激するものになっています。3冊とも買うマニアはかなりいるのではないかと思います。これら3冊の内容ですが、基本的にはこれまでのシリーズのフィギュアの解説がメインで、内容的な差がわかりにくいものです。マニアにとってはそれほど重要な情報が載っているわけでもなさそうです。それでもこの本がけっこう売れそうな気配なのは、やはりおまけの特製フィギュアのおかげでしょう。この安易にも思える本作りを批判することは私にはできません。それほど日本の出版事情は不振で、なりふり構わぬ便乗本に頼るのも仕方のないことでしょう。まだまだ類似本が出てくるのではないかと思われます。
肝心の動物フィギュアの出来について、私の意見を書いてみましょう。
そもそも150円程度で、大きさ5〜8cm程度のフィギュアですので、精密さを求めるものではありません。また、どんなに原型が優れていても、量産化の過程で精度は犠牲になるものです。このような事情は差し引いておかなければならないでしょう。その上で評価すると、「この値段と大きさにしてはなかなかの出来」と言えます。私も動物模型好きとしていろいろな商品を見てきましたが、考証や造形がいいかげんなものが非常に多い中で、このフィギュアはかなり正確なものだと言えるでしょう。ただ、「これはちょっと変では?」と思うものもいくつかないわけではありませんが。細かいことを言えば、パーティングライン(成型時にできる線状の盛り上がり)やパーツの分解線(小さなパッケージに入れるためにパーツ分解している)や彩色が気になるのですが、商品の性格上仕方ないことでしょう。
私はいいかげんな作りの動物模型は買わない方針を持っていますが、このチョコエッグは(時々不満を感じながらも)買っています。
上の写真は彩色の点で見て特にいいものを選んでみたものです。それでもシマウマの模様には少々不満があるのですが、不満の一例として見てみてください。「チョコエッグ」よりも「レッド・データ・アニマルズ」の方が出来はいいです。これはパッケージが大きいためにフィギュアのサイズもやや大きく、無理なパーツの分解も無いからです。
ところで忘れてはならないのは、このような低価格で出来のいいフィギュアを買えるのも、生産をしている中国の人件費の安さのおかげ、ということです。そうでもなければこのような商品は存在すら不可能だったでしょう。このような商品ができるのも今の内だけかもしれません。
このようなブームは動物の知識の普及を願う私としても悪いものではありません。ただ、不思議に思うのは「日本人ってこんなに動物好きなんだっけ?」ということです。私が常々感じている日本人の動物への関心からすると、今回のブームは盛り上がり過ぎのように思えるのです。実は潜在的な動物好きは多いのか、あるいは巧妙な商品戦略に踊らされる人が多いのか、単に日本人はコレクションものに弱いのか? 判断のしにくいところです。もっとも、店頭の動きを見ていると今のところは爆発的なブームとも言えないようなので、「動物好き+模型好き+ブームに乗せられた一般の人」を合計した程度のブームのようにも見えます。どちらかというと子供よりも大人が熱中しているらしい様子なので、ブームの広がりも大したことはないかもしれません(つまりポケモンには勝てないということ)。
これで動物への関心が高まればいいのですが、単なる収集品の一つとして終わりそうな予感がします。もし、このブームを動物や自然への関心へと結びつけようとするならば、もっと踏み込んだ仕掛けも必要なのでしょう。今回のチョコエッグ関連本は残念ながらその役割までは期待できそうにありません。
最後に個人的なことを書きますと、私も「レッド・データ・アニマルズ」から集め出しているのですが、全然お金持ちではないのでなにがなんでも全部集めてやろうとまでは考えていません。それよりも、イラストレーターとして、モノを作る側の人間として、他人が作ったものを集めて喜んでいていいのか?という自戒もあります。もちろん私も消費者の一人ですからモノを買うのも仕方ないのですが、作る側にいるのなら自らモノを作ることにもっと自覚的でないといけないと思うのです。私もいずれはこれに負けないようなものを作ってみたいですね。