Vol. 86(2001/4/29)

[今日の観察]これが本当のヒョウ柄ってもんでしょ?

以前もVol. 46「それは豹柄?」でヒョウ柄について書きましたが、今回はその続きのようなものです。

以前の記事を書いてからというもの、ヒョウ柄の服を見るとチェックせずにはいられなくなっている私ですが、ヒョウ柄フェチというわけではありません(笑)。今でもヒョウ柄は好きになれません。それはヒョウ柄に違和感があるためです。どことなく不自然な感じがするのです。幸か不幸か、私の住む高円寺は若い女性向けの古着屋がたくさんあって、土日ともなるととても繁盛しているようです。おかげで店頭にヒョウ柄の服が並ぶこともあって、ヒョウ柄ウォッチャーとしてはうれしい限りです。しかし、男がひとりでヒョウ柄服を丹念にチェックするのはどう見ても怪しいだけですので、通りを歩きながらちらっと観察するしかありません。まあ、観察のポイントはわかっているので、それだけでも十分なのではありますが。

私の観察のポイントは「どれだけリアルか?」ということにしぼられます。私はイラストも描きますから、動物の模様には特別の関心があります。本物のヒョウの模様はどのようなものか、手元の書籍で調べてみたこともあります。そこでわかったのは、「ヒョウ柄服の模様は全然リアルではない」ということです。私が感じていたヒョウ柄服への違和感はこの非リアルさのためだったようです。
どこがどう不自然なのか、イラストを描いてみましたのでそれで説明しましょう。

[図A]は一般的なヒョウ柄です。梅花状の黒斑が全体を覆っています。「梅花状」とは、イラストを見ていただければわかると思いますが、濃い黒斑が花びらのように見えることからきている名前です。黒班の大きさ、密度は商品によって大小がありますが、実際のヒョウでも変異がいろいろあるようなのでこだわるほどのことでもないと思います。ここで注意して見ていただきたいのは、黒班が全体を均一に覆っているということです。
[図B]は私がデザインしてみた「リアルな」ヒョウ柄です。違いがわかりますか? 一見して違うということはわかると思いますが、具体的にどこがどう違うのかわかるでしょうか。
ポイントは次の3つです。

・梅花状黒斑が見られるのは背中を中心とする部分だけで、他は普通の黒班である。
・黒班は身体の末端(脚の先端、頭部、尾)にいくほど小さくなる。
・地の色は腹側が薄い。

[図A]と比較してかなり印象が違っている理由がおわかりいただけたでしょうか。これらのポイントは模様を持つ他の動物(主に哺乳類)でも同じ傾向が見られ、一般的な法則と言えるでしょう。[図B]は、描いていて私自身が「うわっ、なんか生々しいな〜」と思ってしまったほどで、リアルさを目指すならば、服飾デザイナーもこれぐらいはして欲しいところです。もっとも、現在の服飾製造システムは大量生産を前提にしていますので、[図B]のようなややこしい柄は現実的には不可能なのかもしれません。しかし、世の中にはとても多種多様なヒョウ柄服があるにもかかわらず、[図B]のようなリアルなものを私は一度も見たことがありません。これはやはりデザイナーの怠慢ではないのか?と私は疑っています。デザイナーの方々は「ヒョウ柄とはこういうもの」という既成概念にとらわれてしまっているのではないでしょうか。動物のイラストを描く私から見ると、服飾デザイナーは動物に対する観察力が足りないと思えてしまうのです。
ヒョウ柄にある程度の人気があるのは、これを着ると「ヒョウになったような野性的な雰囲気」になれるからだと思います。なるほど、その気持ちわからないでもありません。しかし、私から見れば「嘘っぽい模様の服を着ているだけ」であり、本物のヒョウには似ても似つかぬ柄を喜んでいるだけとしか見えないのです。ヒョウ柄ファンの皆様には申しわけありませんが、[図A]のような服を喜んでいるのはちょっとこっけいに思えるのです。まあ、そう思っているのは私だけでしょうから、あまり気にする必要はないのですが。
だからといって、[図B]のような服が実際にあるならば、それはそれで生々し過ぎて怖いものがあるかもしれません。まるで本物の毛皮を着ているように見え、これはこれで悪趣味です。

さて、動物柄といえばもうひとつ人気なのがゼブラ(シマウマ)柄です。ゼブラ柄を着るとどういう気分になれるのか、私には理解できないのですが(足が速くなるような気分とか、身体が軽くなるような気分とかでしょうか?)、それはさておき[図C]をまずはご覧いただきましょう。これが最も普通に見られるゼブラ柄です。
こっ、これがシマウマ?? どこがシマウマなんだか……。これはヒョウ柄よりもひどいデザインです。本物のシマウマは[図D]のような模様をしています。一口にシマウマといっても、3つの種があってそれぞれ模様が異なっています(上から順に、グラントシマウマ、ハートマンヤマシマウマ、グレビーシマウマ)。よく見ていただきたいのですが、本物のシマウマでは黒のラインはとても長いのです。[図C]のゼブラ柄は短い黒ラインをつなげただけで、これまた本物とはかけ離れた模様なのです。やはりデザイナーの観察力に疑問を持たざるをえません。

ヒョウ柄もゼブラ柄も名ばかりで、全然本物と似ていない。こういう変な模様ばかりあるので私は動物柄が好きになれないのです。まあ、こういうことに気づいている人はほとんどいませんし、私も声高に否定したりはしませんので、動物柄が好きな方はこれまで通り楽しんでいただければいいと思います。ですが、この文章を読んで動物柄をちゃんと観察する人がちょっとでも増えればうれしいことではあります。自然観察でも大切なのは観察力なのですから。


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