Vol. 87(2001/5/13)

[今日のいきもの]

コウモリ

なぜコウモリはそんなに嫌われるのか?

世の中には嫌われ者の動物がいます。全動物の中ではゴキブリあたりがその筆頭でしょう。哺乳類ではコウモリかネズミがトップになるでしょうか。
コウモリというと皆さんどういうイメージを持たれているでしょうか。おそらく「闇を飛び回る」「吸血鬼」「ドラキュラの手下(ペット?)」「バットマン(??)」といったあたりでしょう。特に「吸血鬼」というイメージは強固に根づいているようで、これがコウモリのイメージダウンに大きく貢献しているようです。しかし、皆さん、コウモリが普通何を食料としているか知っていますか? まさか本当に血を吸って生きていると思っていませんか?
図鑑を調べるとわかるのですが、コウモリの食べ物は花、花の蜜、花粉、果実のような植物性のもの、あるいは昆虫やその他の節足動物、小型の哺乳類・爬虫類・両生類・鳥類といった動物性のものを食べます。ただし、これらをなんでも食べるのではなく、種類によって植物食、動物食、雑食と決まっています。珍しいところでは、ウオクイコウモリという、その名の通り魚を食べるコウモリがいます。このコウモリは川などの上を低空で飛びまわり、水面に発生するかすかな波を分析して魚の位置を確認し、飛びながら足を水中に入れて魚をとらえるというアクロバティックなことをします。昨年(2000年)の12月だったか、NHKテレビ「生き物地球紀行」で紹介されたので、ご覧になった方がいるかもしれません。
コウモリというのはこのように普通のものを食べているのです。それでは、「吸血鬼」のイメージは完全なぬれぎぬなのでしょうか? 実はそうではないのです。「チスイコウモリ」という名のコウモリが本当にいるのです。体長は最大でも9cm。哺乳類(主に家畜)または鳥類の毛や羽の無い部分の皮膚を切り取り、流れ出す血をなめるのです(牙を突きたてるのではない)。唾液には血液の凝固を防ぐ物質が含まれているそうです。これぞまさしく吸血鬼です。しかしちょっと不思議なこともあります。チスイコウモリは3種類が知られていますが、どれもアメリカ合衆国南部からアルゼンチンまでの中南米にしか生息しません。かの有名な吸血鬼、ドラキュラ伯爵様はルーマニアはトランシルバニア在住だったはず。なぜ新大陸のマイナーなコウモリと結びついたのでしょうか? 小説あるいは映画で、恐怖を高めるための小道具として、夜に活動し血を吸うというコウモリが利用されたとは推測できます。おそらく、製作者の中に吸血コウモリのことを知っている人もいたのでしょう。吸血鬼映画はかなり古くからあります。1922年の「吸血鬼ノスフェラトゥ」が最初だと思います。その原作のブラム・ストーカーの小説「ドラキュラ」は1897年の作。どの段階で吸血鬼とコウモリが結びついたかはわかりませんが、そう昔のことではないようです。
しかしですね、チスイコウモリの仲間はわずか3種。コウモリは全部で約1000種もいる中で、超マイナーな存在なのです。チスイコウモリのせいでコウモリ全体のイメージが規定されているというのはとてもおかしなことなのです。コウモリのマイナスイメージをこの機会に払拭していたたければと思います。コウモリも普通の哺乳類とそう変わらないのですよ。

コウモリについて、もうひとつ。
コウモリは夜行性です。空を飛ぶ動物の代表といえば鳥類ですが、鳥類はほとんどが昼行性です(フクロウ、一部のカモ、サギなど夜行性も意外といるが)。これが偶然なのかどうかはわかりませんが、コウモリは鳥と競合しないような生活をしているといえます。昼は鳥、夜はコウモリ、と時間差生活をすることで、お互いに直接ぶつかり合うことなく共存できているのです。そういえば、コウモリの食べ物は鳥の食べ物とも重複しています。時間差による共存というのはとてもよくできたシステムといえるでしょう。

コウモリという動物はあまり注目されることがないのですが、種類数が非常に多く(ネズミの仲間・齧歯目に次いで2番目に種の数が多い)、多様な生態を持っており、調べれば調べるほどおもしろい動物です。手元に動物図鑑があれば一度コウモリの項目をじっくりご覧になってください。

参考文献:世界哺乳類和名辞典(監修:今泉吉典、発行:平凡社)


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