Vol. 94(2001/7/8)

[今日の事件]ガラパゴス諸島に学ぶ自然保護と観光の両立

6月、石原慎太郎・東京都知事は東京都議会選挙の真っ最中にもかかわらずガラパゴス諸島へ視察に行きました。選挙の応援演説が面倒だったというわけではないのでしょうが、石原知事はこの視察にはとても乗り気だったと伝えられています。石原知事が動物好きであるという話は聞いたことがないので、どうしてガラパゴス諸島に興味があるのか私にはわかりません。ただ今回の視察は、ガラパゴス諸島の自然保護と観光の両立を見ることにあり、その方法を小笠原諸島などで導入するための検討材料にするため、という大きな目的がありました。石原知事は帰国後、条例化も含めた新しい観光方式の検討を表明しています。


ガラパゴス諸島。ガラパゴスゾウガメ、ウミイグアナ、ガラパゴスペンギンなど世界的に非常に貴重な動物が生息する場所です。といっても場所も知らない人も多いんですよね。南アメリカ大陸の西岸から赤道に沿って西へ向かうとすぐにガラパゴス諸島に着きます。これまたあまり知られていないのですが、エクアドルの領土です。日本人にとってはなじみのない場所ですが、アメリカ合衆国からは裏庭のような所で、アメリカ合衆国からの観光客はとても多いのです。
ガラパゴス諸島はいくつもの島から構成されていますが、最大のイザベラ島は沖縄島とだいたい同じぐらいの大きさです。人が定住しているのはプエルト・アヨラ(サンタ・クルス島)、プエルト・バケリソ・モリノ(サン・クリストバル島)といった一部地域のみで、他は完全な無人地帯です。

ガラパゴス諸島で注目すべきは、貴重な動植物だけでなく、自然保護と観光がうまく両立しているということです。観光とは人間が自然と接することを意味しますが、人間が多すぎると自然へのダメージも大きくなります。かといって、人間が来なくては観光も成り立たない。そこで、ガラパゴス諸島では観光客に対して厳密なルールを設定し、それを遵守させることで自然への負荷を軽減するようにしたのです。そのルールとは次のようなものです(引用元は末尾に掲載の参考文献より。一部表現を変更しています)。

島を訪れる人が守るべきルール
1 植物、動物、石、骨、木片、サンゴ、貝などの自然物はいっさい持ちださないこと。観光船からの釣りも禁止。
2 エクアドル本土から来るときや、島間を移動するときに、動植物、昆虫、種子などいかなる生物も持ちこまないように注意すること。ペットを島に連れていくのも禁止。
3 無人の島に食べ物を持ちこまないこと(同時に昆虫や他の生物も入りこむ危険性がある)。
4 動物に触れないこと。
5 動物にエサを与えないこと。
6 休息中の動物や、巣にいる動物のじゃまをしたり追いたてないこと。
7 いかなるゴミも捨てないこと。
8 木材から作った品物を除き、島の動植物から作った土産物を買わないこと。
9 岩に落書きをしないこと。
10 国立公園を訪れるグループはすべて、国立公園管理局の認定をうけたナチュラリストガイドと一緒に行動しなければならない。旅行者は、小さな杭で示されたトレイル(通行路)から出ないこと(全陸地の95%が国立公園なので、事実上どこへ行くにも適用されるということです)。
11 ナチュラリストガイドの指示に従うこと。
12 キャンプをする場合には、国立公園管理局の許可を得ること(実際、大規模な火災になったことがある)。
13 保護意識を実践するのをためらわないこと。
14 上記に違反する行為を目にしたときは、国立公園管理局に知らせること。

これらの他にも次のようなルールがあります。
まず、国立公園区域に入れるのは日の出から日没までの時間帯のみです。そのため、宿泊はプエルト・アヨラのような町か、観光船上ですることになります。ガラパゴス諸島は広いので、夜間に船で移動し、昼間に島に上陸するという行動が一般的です。例外はアルセド火山登山で、このトレイルは距離が長いため、テント1泊が許されています。

もうひとつ、これはルールではないことですが、ガラパゴス諸島への交通が限られているために観光客の総数がむやみに増えないことも自然保護には役立っています。ガラパゴス諸島へは飛行機で行くしかありませんが、諸島に空港は2つしかなく、いずれもエクアドル本土からの便だけです。その結果、観光客数には上限があることになります。それでも1996年の訪問者は6万人を超えたそうです。

上記のようなルールは1969年に一般向け観光が始まって以来、かなりよく守られてきたといえるでしょう。かなり厳しいルールに見えるかもしれませんが、自然環境に与える人為的な影響を最小限にするためによく考えられた内容です。自然を保護するためにはこれだけの配慮が必要なのだという好例になるでしょう。日本でも自然保護が叫ばれてますが、ここまでのルールを実践することができるでしょうか。
石原・東京都知事が小笠原諸島に持ち込もうとしているのは、このガラパゴス諸島のルールの一部のようです。「入場制限地域の指定」「ガイドによる観光」などを採用していきたいようです。このルールの採用は自然保護には好都合です。是非検討を続けてほしいものです。
ただ、これが観光産業の振興に役立つかといえば、それは難しいかもしれません。小笠原諸島とガラパゴス諸島を比較してみると、ガラパゴス諸島の方が圧倒的に商品価値が高いのです。ガラパゴス諸島はそこに生息する独特の動物の種類数や、世界的な知名度(ブランドと言ってもいい)、一通り見て回るには2週間はかかる広さ、などウリになる要素がとてもたくさんあるのです。一方の小笠原は、相対的に商品価値が少ないと言わざるを得ません。小笠原にいる動物なんてどれだけの人が知っているでしょうか?(これは沖縄の西表島などでも同様です)
本当は観光客なんか来ない方が自然環境には一番いいのです。しかし、それでは自然への関心を高めることはできず、逆に自然保護にはマイナスという面もあります。自然保護と観光の両立は理想論とはいえ、追求していくべきものなのです。
小笠原に限らず、日本で観光を振興するにはどうすればいいのか。まずはブランドイメージの確立です。その場所がいかに特別なものであるか、ということをアピールしなければなりません。そして商品開発です。商品といっても、グッズを作れということではありません(それも一部にはあるけれども)。観光ツアーや体験ツアーといった、そこでしか経験できない「商品」のことなのです。そして同時に徹底した自然保護のルール作りも必要です。なぜなら、「自然環境」自体がその地域独特そして最大の「商品」なのですから。自然環境を失うということは商品(ブランド)を失うということ。最優先で守らなければならないのは「自然環境」なのです。

日本でもこういう考え方が理解されるようになることを期待したいものです。まずは小笠原での取り組みに注目したいと思います。


参考文献

ガラパゴス大百科
著:水口 博也(みなくち・ひろや)
発行:TBSブリタニカ
価格:4700円
初版発行日:1999年7月8日
ISBN4-484-99300-7

同じ著者で、CD-ROM書籍(書籍扱い=書店で売っているCD-ROM)も出ています。こちらは、実は編集担当が私なのです。ただし、発行が古いので、最新のOSで動作するかどうかは不明です。Windows3.1、Windows95、漢字Talk7.1以上(CPUは68LC040以上)という動作環境になっています。

マルチメディア図鑑シリーズ ガラパゴス
著:水口 博也(みなくち・ひろや)・大川 潤子(おおかわ・じゅんこ)
発行:アスキー
価格:4800円
初版発行日:1996年?月?日(手元に資料無し)
ISBN4-7561-1497-0


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