今回から登場の[今週の勉強]では、動物についての生態などの知識を解説していきます。動物についてもっとよく知ってもらおうという趣旨です。なるべく難しくならないように説明していきますので、気楽におつきあいください。
ライオンやトラは肉ばかり食べ、ウシやヒツジは草ばかり食べる。そんな偏食をしていると栄養のバランスがとれないのではないだろうか?と思ったことはありませんか。人間の場合は「いろいろなものをバランスよく食べましょう」と言われているのに、あの動物たちはそうではありません。小さな子に「野菜も食べなきゃダメよ」と言っても、「でもライオンさんはお肉しか食べてないよ」と反論されて答に詰まったことはありませんか。
「動物食」と「植物食」、これらは究極の偏食です。しかし、そのような動物たちが栄養失調になることはありません。そうならないような仕組みがあるからなのです。「動物食」と「植物食」の仕組みや食性についてを3回に分けて解説していきたいと思います。
なお、ここでの内容は特にことわりが無ければ哺乳類に限った話と考えてください。その他の動物については改めて説明します。まずは動物食から。「ライオンやトラなど肉食獣は肉を食べる」と思われがちですが、これは正確ではありません。これらの動物は肉(筋肉、脂肪)だけでなく、内臓や血、小さな骨までも食べているのです。内臓にはビタミンや各種の栄養素が、血には鉄分が、骨にはカルシウムが含まれています。彼らは偏食どころか、バランスの良いとても理想的な食事をしているのです。そもそも生きている動物は、自らの身体を正常に維持するために体内にさまざまな栄養素などを蓄えています。それをほぼ丸ごと食べるのですから、動物食はとても優れた食事方法と言えます。
動物食のポイントは、「生でほぼすべて食べてしまう」ということです。残るのは皮と大きな骨だけです。人間がどんなにがんばっても、このような食べ方はできないでしょう。人間の食べ方は、おいしいところだけを調理して食べるというものですから、いくら肉食をしたところで本来の動物食には程遠く、栄養のバランスも悪いのです。
動物食動物の食べ物になるのは哺乳類や鳥類、魚類などの脊椎動物ばかりではありません。小型の動物(イタチ、動物食コウモリ、モグラなど)の場合は、自分より小さな動物を捕まえるしかありませんから、昆虫やカニやミミズなどの無脊椎動物を食べます。こういった獲物も生きている動物ですから栄養的なバランスは良いのです。もう一方の植物食はどうでしょうか。こちらは植物しか食べません。ウシやヒツジは草だけで生きていけます。植物の場合、動物と構造が異なりすぎていて、丸ごと食べても栄養のバランスは不十分です。植物食動物は明らかに偏食なのです。しかし、偏った栄養では生きていけるはずがありません。
植物食動物の秘密はその消化器官にあります。ほぼあらゆる動物の消化器官内には微生物がいます。腸内細菌あるいは腸内バクテリアと呼ばれるものです。人間で言えば大腸菌やビフィズス菌などです。ウシのなどの場合は胃にもいますので、ここではまとめて「消化器官内微生物」と呼ぶことにします。植物食動物が食べた植物はこの消化器官内微生物によって発酵され、その結果多種多様な栄養素が体内で生産される仕組みになっているのです。つまり、体の中に化学工場を持っているようなものなのです。植物食動物は消化器官内微生物を体内に共生させ、消化器官を特殊化させてきました。そのような進化の結果、植物だけ食べても偏食にはならない仕組みができあがったのです。
植物食動物の中でも特に変わっているのはゾウです。ゾウはなんと木(木質の固い部分)さえ食べることがあるほどです。いったいどんな頑丈な消化器官を持っているのか私も知りたいですね。動物ばかり食べても、あるいは植物ばかり食べても偏食にはならない仕組み、おわかりいただけたでしょうか。動物たちが生きていくには栄養のバランスのとれた食事が必要なのです。あらゆる動物はそれぞれの方法で多種多様な栄養を得ているわけなのです。
さて、「動物食」と「植物食」という言葉は、以前は「肉食」「草食」とも呼ばれてきました。今もそう呼んでいる人が多いかもしれません。厳密な言い方をするならば、「動物食」「植物食」の方が正確です。「動物食」は肉だけを食べるのではなく、内臓や骨も食べます。また、昆虫を食べるのも「動物食」です。「植物食」の方も草だけを食べるのではなく、芽や果実や木の皮を食べますし、植物プランクトンも含まれます。これからは「肉食」「草食」ではなく「動物食」「植物食」という言い方を使っていただけたらと思います。
次回は、動物食でも植物食でもない食性の話です。