Vol. 110(2001/11/18)

[OPINION]もしパンダが凶暴肉食獣でもあなたはパンダを愛せますか?

先日、上野動物園に行ってきましたが、パンダの人気は相変わらずです。私はパンダに興味はないので、少し写真を撮ってさっさと次に移動しました。どうしてパンダはこんなにも人気があるのでしょう? 「かわいいから」というのが一般的な答でしょう。では、もしパンダが赤と緑の毒々しいしま模様だったらこのような大人気になったでしょうか? いや、きっとそうはならなかったでしょう。かわいいからOK、かわいくないのはダメ。これがほとんどの人にとっての動物観なのです。これは非常に主観的な考え方と言えるでしょう。体の色の好き嫌いを言うのは人間ぐらいのものだからです。
また、こういう場合はどうでしょう。もしパンダが凶暴肉食獣だったら、パンダは大人気になったでしょうか? 多分そうはならないでしょう。どんなに愛らしい顔をしていても、猛獣は恐怖の対象にしかならないでしょう。ひょっとしたら、動物パニック映画にも登場するかもしれません。おとなしいのはOK、猛獣はダメ、という動物観もやはり主観的な考え方です。これは「人間にとって恐ろしい」ということでしかないからです。

また別の日にこんなことがありました。都内某公園で、私はいつものように水鳥の種類を確認していました。すると、すぐ近くにおばさんが来て、水鳥たちにエサ(食パン)を投げ始めました。おばさんの目にとまったのはカイツブリでした(「小さい=かわいい」という法則があるので、こういう場合カイツブリは非常に有利)。おばさんはカイツブリに向けてエサを投げます。しかし、カイツブリは食べようともせず、まわりのカモがどんどん横取りしていきます。するとおばさんがこう言ったのです。
「あの鳥はバカねえ。」
はあ〜? 何言ってるの? カイツブリは動物食なの! パンなんか食べないし、食べても栄養的に問題があるの! バカはあんただろ! とは口にはしませんでしたが(笑)。人間の思い通りに動かないとバカ呼ばわりされるなんて、まさに人間中心思考の極みです。

このように、人間は動物たちに対して勝手に解釈してしまいがちです。もちろん私たちは人間ですから、多少の主観的な見方は仕方のないことです。しかし、動物に対する好き嫌いが極端になりすぎるというのは問題があります。ある動物ばかりに人気が集中したり、特定の動物が嫌われたりするというのはありがちな傾向ですが、これでは自然や生態系全体を正しく把握することが難しくなります。
例えばパンダのように特定の動物ばかりが注目されていては、他の動物の存在が薄れてしまいかねません。もちろん、パンダをきっかけに他の動物にも興味を持ってくれるようになれば(これを「客寄せパンダ効果」と命名しておきましょうか)、それはそれで結構なことですが、必ずしもそうはならないことも多いわけです。
逆に、ゴキブリやコウモリのような動物を理由もなく嫌うのも困ることです。こう考えてみてください。「ゴキブリやコウモリはなぜ存在しているのか?」と。これらの動物が意味もなく存在しているわけはありません。彼らなりの役割をちゃんと持っているのです。そして、それは人間にとって有害なものばかりではないのです(具体的な説明は今回はしません。興味ある方は自分で調べてみてください)。

動物に対して、多少の好き嫌いはあってもかまいません。しかし、特定の動物だけをえこひいきするというのは止めてほしいことです。そして特定の動物を毛嫌いするのも避けてほしいことです。たとえパンダが毒々しい模様でも、凶暴肉食獣であったとしても、他の動物と同じように接してほしいものです。


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