Vol. 113(2001/12/9)

[今日の勉強]名前の話 和名のこと・同じ動物に複数の名前がある?!

生物にはそれぞれの種類ごとに名前がついています。学問的に世界で統一された名前は「学名」といい、ラテン語で表記されます。しかし学名は専門家には意味があっても、一般にはなじみのないものです。実際にはいろいろな国でそれぞれの名前で呼ばれています。日本語での生物の名前、これを「和名」といいます。和名は「ウシ」「タヌキ」などのように日本語独自の呼び名が多いのですが、「ライオン」「ゴリラ」のように英語など外国語の呼び名がそのまま導入されたものもあります。英語での名前は「英名」「英語名」と言いますが、これは世界的に広く流通しているので実用度は高いといえます。
ところで、この「和名」はどうやって決められるのでしょうか。実際にはいろいろな場合があるのですが、「成り行きで決まる」と言って間違いではないと思います。和名は学者が決めている場合がほとんどなのですが、複数の学者がある動物に別の和名をつけたり、俗名が一般に浸透してしまったりすることもあります。また、時代とともに名前が変わってしまうこともあります。このような事情の結果、同じ動物に複数の和名があることにもなってしまうのです。

例えば、「トナカイ」。これは「カリブー」とも呼ばれます。別の動物と思っている方も多いのではないでしょうか。
「シロイルカ」はその名の通り白い巨大イルカなのですが、英名からきた「ベルーガ」という名前でも通っています。こっちの方がかっこいいかもしれませんね。ちなみに、英語でも「white whale」で通じます。英名も統一されていないのです。
もうちょっと身近な例では「パンダ」があります。今では「パンダ」で問題なく通じるのですが、「ジャイアントパンダ」という名前もあります。これは「レッサーパンダ」(小さいパンダ)と区別するためにつけられた名前です。もともとは、「パンダ」は「レッサーパンダ」のことを意味していたのです。ところが「ジャイアントパンダ」の方が圧倒的に人気となってしまったために、今では「パンダ」=「ジャイアントパンダ」となってしまったのです。このように、時代とともに和名が変化することもあるのです。
もう少し例を挙げると、「イヌ」は「イエイヌ」とも呼ばれますし、「ネコ」は「イエネコ」、「オオカミ」は「タイリクオオカミ」とも呼ばれます。学問的厳密さが必要な場合はそれぞれ後者が使われることが多いようです。

上記の和名は、一般にもよく知られた動物の場合ですので実害はあまりないと言えます。しかしマイナーな動物で複数の名前が乱立していると面倒なことになります。
例えば、学名「Testudo horsfieldi」という陸上棲のカメがいます。これは爬虫類のペットとしては流通量が多い種類ですが、これには「ヨツユビリクガメ」「ロシアリクガメ」「ホルスフィールドリクガメ」といった名前がついているのです。爬虫類を扱っているペット店に行くと、ある店では「ロシアリクガメ」、別の店では「ヨツユビリクガメ」となっていたりで、知識がなければ非常に混乱してしまうのです。
カメの話が出たので、もうひとつカメについて。夜店などで売られている「ミドリガメ」というカメがいます。小さくて鮮やかな緑色をしています。しかしこのカメの本当の和名は「ミシシッピアカミミガメ」といいます。その名の通り、北米原産で、頭部側面に赤い模様があるカメです。小さい頃はかわいいのですが、成長すると甲長20cm超になり、体色も黒くなってかわいいとはとても言えません。

哺乳類や鳥類は、種類数も比較的少なく、分類が整理されているのであまり問題がないのですが、種類数が莫大な昆虫類などでは、ある種に3つ以上の和名がついていることもあります。例えば学名「Prosopocoilus giraffa」というクワガタムシがいます。これは南アジア〜東南アジアに生息する世界最大級のクワガタムシです(最大体長11cm超)。これには「キバナガノコギリクワガタ」「オオキバナガクワガタ」「ギラファノコギリクワガタ」という日本名がついています。さらに、「〜クワガタ」を「〜クワガタムシ」と書いたりすることもあるので、計6通りの日本名があることになります。それぞれの名前が書籍などに掲載されて流通していて、統一されていないのが現状です。最近は、種小名(学名の2番目の単語)をそのまま和名につけるという傾向にあるようです。このクワガタムシの場合は「giraffa」をとって、「ギラファノコギリクワガタ」となるわけです。

このように、和名というのは部分的には混乱もあります。しかし、動物を日本語で語るには欠かせない基本情報でもあるので、きちんとおさえておくべきことと言えるでしょう。上記のような諸事情があることも同時に理解しておけば混乱も減らせるでしょう。

ところで、和名は慣例としてカタカナで書くことになっています。学術的な文章ではこのことは常識です。一般の文章では「ニホンザル」を「日本猿」、「イリオモテヤマネコ」を「西表山猫」などと書く人もいますが、これは「ああ、専門家の文章ではないな」と思われてしまいます。科学的な内容の文章ならば和名はカタカナ表記にすべきです。この「いきもの通信」でも、例えば「犬」「猫」と書かずに「イヌ」「ネコ」と書くのはこのようの理由があるからなのです。


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