Vol. 116(2002/1/6)

[今日の観察]狛犬はやっぱりライオンなのだ

お正月恒例の行事といえば神社への参拝、という方も多いと思います。その神社に行くと、たいてい狛犬が鳥居のそばにペアで鎮座しています。さて、この狛犬、その正体について考えてみたことはあるでしょうか? 立派なたてがみのある姿はライオンのように見えます。しかし本物のライオンとは容貌が異なるので、想像上の動物と思われる方もいるかもしれません。
狛犬の由来というのは、古代オリエントにさかのぼるらしく、力の象徴としてライオンの像が用いられたことが起源だったようです。それが東方へ伝来し、中国を経由し日本にやって来たのです。ただ、当初は「狛犬」ではなく「獅子」だったようなのですが、やがて「獅子+狛犬」という組み合わせが発生し(ただし、その区別はよくわからない)、現在では「狛犬」という名称が一般化しています。ところで、「狛」は「高麗」とも書きますが、これは朝鮮という意味ではなく単に外国一般を指すのだと思われます。以上は狛犬関係のホームページからの受け売りです。インターネットで検索してみると狛犬ホームページがいくつも見つかりますので興味のある方は探してみてください。
さて、ここ「いきもの通信」は真面目に動物をとりあげているホームページですので、私なりにきちんと狛犬=ライオン説を検証してみたいと思います。実は狛犬はたてがみ以外にも明らかにライオン的特徴を持っているのです。それについて解説しましょう。

・前脚の後ろ側の毛
ほとんどの方は気づいていないようですが、たいていの狛犬の前脚の後ろ側には毛が生えています。もともと毛深そうな狛犬ですから、前脚に毛が生えていてもそう不思議ではないかもしれません。しかし、本物のライオンにも同じ場所に毛があるとしたらどうでしょう。
私は以前、狛犬の絵を描いたことがあるので狛犬の毛のことはよく知っていました。一方、ライオンのこの毛の存在に気づいたのはその後、テレビの動物番組を見ている時でした。この毛は狛犬のようにふさふさしているのではありませんが、色が濃く目立つものです。また、はっきりと確認したわけではないのですが、この毛はオスだけにあるようなのです。今度動物園に行くときに確認しておきます。
ライオンが様式化されかなり容貌が違ったものになっても、この毛がしっかりと残っているというのは面白い特徴だといえるでしょう。

・短い鼻
狛犬の顔を見ると、動物の骨に詳しい人ならあることに気づくはずです。「イヌにしては鼻が短い」ということに。イヌの仲間とネコの仲間を比べてみると、イヌの方が鼻が長いというのはすぐにわかることです。狛犬のあの鼻の短さはイヌ系ではなくネコ系に由来するものと考えた方がよさそうです。これも狛犬=ライオン説を補強する証拠でしょう。
ところで、イヌとネコの違いというのをご存じでしょうか。外見から両者を見間違うことはありませんが、具体的な違いとなると説明できる人は少ないでしょう。違いにもいろいろありますが、「鼻の長さ」は重要な相違点です。鼻の長さ、これは奥歯の数と関係があります。イヌとネコを比べるとイヌの方が奥歯の数が多いのです。その分だけ鼻が長くなっているということなのです。これはつまり、ネコの方がより動物食に適したつくりになっているといえます。実際、ネコ科(ライオンやヒョウなどを含む)は(おそらく)すべて動物食であるのに対して、イヌ科は大半は動物食であるものの、タヌキやフェネックのように雑食の種類もいます。
イヌの中にもブルドッグやパグ、チン(狆)のように鼻が短い種類もいますが、これらは品種改良の結果生まれたものです。このような品種では頭骨の構造上、奥歯の数が少なくなってしまっているようです。
鼻が短いというネコ系の特徴が狛犬にも引き継がれているというのは面白いことです。ただ、今となってはその顔はライオンからかけ離れてしまっています。狛犬の造形が様式化される過程でイヌらしい姿形もミックスされていった、ということでしょうか。

以上のような点から、私は狛犬=ライオン説を支持します。動物学的に説明できるということはなかなか面白いことではないでしょうか。
前脚の毛、鼻の長さに注目すれば、狛犬もライオンも今までとは違った視点で見ることができると思います。動物園で、神社で、両者をよく観察してみてください。


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