以前、東京都内某公園でトンボがどれだけいるか観察した結果を紹介しました。この時は12種を確認できましたが、さらに何種類かが生息しているだろうと私は推測していました。そして、その生息しているであろうトンボを探すために、観察は続行していたのでした。そう、冬の間も——。
冬にトンボがいるの?と疑問を持たれるのはごもっともです。普通、トンボの成虫は夏〜秋に見られ、それ以外の季節は幼虫(ヤゴ)として水中生活をしています。しかし、私が探しているのは幼虫ではなく、成虫のトンボです。トンボの中には成虫で越冬する種類がいるのです。
その名前は「オツネントンボ」。「オツネン」とは「越年」という意味で、成虫のまま年を越すことに由来します。日本で見られるオツネントンボの仲間には、「オツネントンボ」「ホソミオツネントンボ」の2種がいます。いずれもアオイトトンボ科に属します。他に「ホソミイトトンボ」(イトトンボ科)も越冬するトンボです。これらの越冬トンボを探すのがこの冬の課題となったのでした。しかし、生態を知っているわけではありませんので、ひたすら注意深く観察するしかありません。とは言っても、時間が十分あるわけではありませんのでそれにも限界があります。こういう場合は偶然を期待するしかないのです。
1月のある日、私はいつものごとく撮影機材をかかえて某公園内を歩いていました。すると、目の前を小さなトンボがすーっと飛んでいくではありませんか(作った話のように思われるかもしれませんが、自然を相手にしているとたびたび信じられないような偶然に遭遇するものなのです)。そのトンボは低木の葉の陰に隠れてしまいました。機材を置いて、カメラの準備をして、トンボを見失ったあたりをよく探してみます。いました[写真]。ううーん、これはまるで木の枝です。巧妙なカムフラージュではないのですが、わかって観察しないと間違いなく発見は不可能でしょう。大きさは3〜4cmといったところ。アキアカネのような一般的なトンボよりも小さいので、通常のトンボのイメージを想像していると確実に見落としてしまうでしょう。
ともかく、こうして某公園13種目のトンボを確認できたのです。さて、次の問題はこのトンボの種名です。「オツネントンボ」または「ホソミオツネントンボ」のどちらかであることは確実です。しかし、これらを区別する情報がなかったため、どちらであるのかはわかりませんでした。このトンボを発見したのは流水のそばなのでホソミオツネントンボの可能性が高そうに思えるのですが、止水も近くにあるので断言できません。
先日、某プロ・ナチュラリストに写真を見てもらったところ、「ホソミオツネントンボ」と教えていただきました。翅と腹の長さの比率で判別できるのだそうです。なるほど。
その後もトンボ探しは続けていますが、それ以来トンボは目撃できていません。
「都会には自然が無い」というのは間違った常識である、というのが私の持論です。こんな所でも10種以上のトンボを見ることができたのです。自然はすぐそこにあるのです。私のトンボ探しは今年も続く予定です。