今回はまたまたカラスの話です。この「いきもの通信」では何度も登場するカラスですが、これを取り上げるのは身近な動物問題として格好の材料であるからです。この問題を解決できずに他の動物問題・環境問題を解決できるでしょうか。東京カラス問題は東京住民自身の自然環境に対する認識・感覚が問われている問題でもあるのです。
さて、今回の一連の東京カラス問題を見て思うことは、「カラスを殺せば問題は解決する」という誤解が根強いことです。カラス=邪魔者、悪者というイメージが強すぎるため、積極的にカラスたちを弁護する人は少ないようです。よく言われることですが、もしカラスが白くて、美しい声でさえずるならば、彼らを殺してしまえ、という声は断然少ないだろうことは間違いありません。多少ゴミを荒らしても大目に見てもらえるでしょう。事実、「平和の象徴」と思い込まれているハト(ドバト)は繁華街や住宅地にカラス並に住みついていますが、ハトを殺せと言う人はまずいないでしょう。この待遇の差はいったい何なのでしょう。
例えば、ライオンはシマウマやヌーを襲って食べますが、ライオンを悪者だと非難する人はいないでしょう。カラスのさまざまな行動も自然なものであって、それを善とか悪とかに決めつけることはできないはずです。冷静に事態を見つめて、カラスの行動が人間との軋轢を生まない方向に誘導するのがカラス対策の本筋でしょう。「カラスを殺す」という方法の問題点のひとつは、この方法が「終わりが無い対策」だということです。カラスを殺すといっても、わなによる捕獲では効率が悪すぎますし、銃による狩猟は住宅地では不可能です。殺した後も、周囲から新たなカラスが流入したり、繁殖したりで数が回復するでしょう。つまり、この方法ではいつまでたってもカラス被害はなくならないわけです。
動物問題においては、動物を殺しても一時的な解決でしかない場合がほとんどです。「動物を殺せば問題解決」というのは誤った認識であり、これを主張するのは詭弁である、ということはぜひ覚えてもらいたいことです。
「動物を殺せば問題解決」論はまた、「悪いやつは追い出せばいい」「邪魔者は排除しろ」といった論調につながる危険性もはらんでいます。排除の対象が人間にすりかわることも考えられるわけで、非常に危うい論だと思います。カラス被害を完全になくす方法、それはすべてのカラスを絶滅させることです。しかし、皆さんは本当にそれを望んでいるのですか? 自然保護・動物保護とは、生態系を構成するあらゆる要素を守ることです。カラスもその一員です。
いまだに「カラスを殺せば問題解決」という暴論が登場するというのは、自然保護・動物保護の考え方が浸透していないということなのです。私も含め、自然保護・動物保護関係者はこの現状を切実に受け止めるべきでしょう。では、カラス問題をどう解決するのか。これは既に書いてきたことですので今回はあらためて書きません。関連ページをご覧になって、読者自身が理解し、判断していただければと思います。この問題を正しく理解できれば、「カラスを殺せ」という結論は出てこないでしょう。