[ON THE NEWS]
2002年6月11日朝、江戸川区で女性が外出しようとしたところ、玄関先に体長1.3mのワニがいた。小岩署員が捕獲し、12日に同区の自然動物園に移された。このワニはメガネカイマン(アリゲーター科)という種類で、ワニの中ではペット目的での流通が多い種類。近くにはワニが本来棲息する水場はなく、非常に不自然な状況であった。12日夕、飼い主の女性が小岩署に名乗り出た。3年前、知人から体長30cmのメガネカイマンを預かったが、その後、知人とは連絡が取れなくなったという。
東京都の条例では、ワニは全種が「特定動物」に指定され、飼育には許可が必要。このワニは無許可で飼育されていた。
(SOURCE:2002年6月12日、13日、14日 朝日新聞(東京版))[EXPLANATION]
この事件を掘り下げる前に、ワニの正しい飼い方を説明しましょう。ワニを飼うなんて常識的には信じられないことですが、実際にワニを飼う人は存在するのです。正しい飼い方を知ってもらうことは、ワニと正しくお付き合いするためにも必要なことです。
飼育する場所
ワニが活動できるだけの十分な広さが必要です。今回の事件のような体長1〜2mのワニなら最低でも8〜10畳以上はほしいところです。また、その中には水場と陸地の両方を用意しましょう。
温度
ワニは熱帯・亜熱帯の生物です。必要な温度は種類によって違いますが、メガネカイマンなら気温25度以上は必要になります。水温もあまり低くならないようにしなければなりません。
食べ物
ワニは動物食です。つまり、生きた動物をまるごと与えるのが最も適切です。小さいうちはラットやマウス、大きくなればウサギやニワトリを与えるのがいいでしょう。
動物食とは肉だけでなく内蔵や骨などもを食べるということであり、スーパーで売っているような肉ではその代わりにはなりません。普通の肉を与えるのならば、栄養剤・カルシウム剤を添加しなければなりませんが、すすめられる食べ物ではありません。紫外線
ワニに限らず、紫外線は爬虫類にとって必要なものです。外で飼育するならあまり問題になりませんが、室内で飼育するなら紫外線灯は必須のものです。
飼育設備
東京都には「東京都動物の愛護及び管理に関する条例」 (改正平成14年4月1日)という条例があります。この条例では、ワニなどの危険動物は「特定動物」に指定されており、飼育には都知事の許可が必要で、飼育設備についても細かく定められています。ワニの飼育設備については以下のように決められています。
主要構造
●形態ふた付きガラス水槽(体長2m未満のものに限る。)、ふた付きコンクリート水槽又は菱形金網おり
●規格等
1 ガラス水槽にあっては、強化ガラス製又は金網入りガラス製であること。
2 コンクリート水槽にあっては、厚さ150mm以上の鉄筋コンクリート製であること。
3 菱形金網おりにあっては、直径4mm以上、網目25mm以下のものを使用すること。
4 ガラス水槽又は金網おりは、その一部を厚さ150mm以上の鉄筋コンクリート壁又は鉄筋コンクリートブロック壁に代えることができる。
5 排水孔、通気孔等を設ける場合には、動物が脱出しないよう金網等でおおいを付けること。●出入口等
二重戸
内戸 必要(水槽のふたを内戸とする場合には、鉄格子、金網を使用し、動物の脱出を防止するために十分な強度及び耐久性をもたせること。)
隔離設備
●人止めさくとおり等との間隔1m以上
●高さ
1.5m以上
この規定の要点は、人間に対する安全性の確保です。東京都以外でも同様の条例を持つ自治体は多くあります。飼い主だけではなく家族や近隣住民の安全を考えると最低限必要な設備であるのは間違いありません。条例が無くてもこれと同等の設備は必須と考えてください。
以上がワニの正しい飼い方です。こんなに大変だとワニなんて飼えないな、と思われたことでしょう。その考えは正解です。ワニは個人で飼えるような動物ではないのです。
最初に挙げた「飼育する場所」「温度」「食べ物」「紫外線」はワニ自身の健康に直結することです。これらがどれかでも欠けた場合、一見普通の状態に見えても、健康な状態を維持することは不可能でしょう。不健康な状態がワニにとっていいことであるはずがありません。さて、こういう視点から今回の事件を見た場合、事件の別の側面が現れてくるのです。
続きは来週!
参考文献
爬虫類・両生類800種図鑑
発行:(株)ピーシーズ