この新しいコーナー「動物の常識・非常識」では、動物のことについて常識だと思い込まれていることについて、意外な真実を紹介しようというものです。動物について、その特殊性を強調するあまり、事実ではないことが常識として広まっています。動物の本当の姿を知ってください。
「ネズミ算」という言葉があります。ネズミは繁殖力が強いため、急速に数が増えることを指して「ネズミ算」といいます。ハムスターを飼ったことがある人はご存じかもしれませんが、ハムスターのオスとメスをいっしょのケージに入れておくと次々に子どもが産まれ、飼い主は悲鳴を上げることになります。
ネズミがネズミ算で増える、というのは常識ではあります。しかし、よく考えてみましょう。ネズミが本当にネズミ算で増えるとすれば、地球はとっくにネズミの惑星になっているでしょう。でも実際にはそうではありません。長期的に見ればネズミは増えているのかもしれませんが、「爆発的に」増えているわけではありません。ネズミ算という言葉からはかなりかけ離れているのが実態なのです。
別の例を考えてみましょう。魚は卵を非常にたくさん産みます。その数は数百から数万といった数になります。これはネズミ以上の増え方です。しかし、海が魚であふれることはありません。
どんな動物もそうですが、ある種類の動物の数は長期的には安定しているとみなされます。つまり、つがいの2匹から産まれた子どもは、平均すると2匹生き残ると考えていいでしょう。増えもせず、減りもせず、これが自然界の普通の姿なのです。ネズミや魚が多産だとしても、成長する過程で死亡する個体が非常に多く、最終的には2匹しか生き残らないのです。他の動物に食べられる、病気や事故で死亡する、栄養が足りずに死亡するといったことが原因で、成長の途中に数は減ってしまうのです。
人間が飼うネズミはネズミ算的に増えてしまいますが、これは他の動物に食べられることがないため、健康管理が良いため、食べ物が豊富なためといった理想的環境(と同時に非自然環境)で暮らしているからです。どんな動物も自然環境下では爆発的に増えることはほとんどありえないはずです。もしそういうことが発生したならば、何か特殊な要因が関わっていると考えていいでしょう。ネズミ算の誤解はもうひとつあります。実はネズミの仲間すべてが多産というわけではありません。先程の例えに出したハムスター(ゴールデンハムスター)は1回に8〜10匹産むのですが、これはネズミの仲間(齧歯目)の中でも多い方のようです。齧歯目には1、2匹しか産まない種類もいます。齧歯目には1700種以上も含まれるので、その生態が多様であるのは当然のことです。
齧歯目の中でもリスやビーバーやヤマアラシなどを除いた狭い意味でのネズミの仲間である、ネズミ科だけでも1100種以上にもなります。一口にネズミ、ネズミといってもその種類はとても多様なのです。私たちが普通「ネズミ」と呼んでいるのは、クマネズミ、ドブネズミ、ハツカネズミの3種のことだ、ということも知っておいた方がいいでしょう。クマネズミ、ドブネズミはいわゆる「ラット(rat)」、ハツカネズミはいわゆる「マウス(mouse)」です。これらはいずれも害獣として広く世界に分布しているネズミです。ただし、ハツカネズミは飼育または実験用としての方が数が多いのかもしれません。