Vol. 147(2002/10/27)

[今日の常識・非常識]泳ぐヘビはウミヘビだけ?

ヘビというと気持ち悪い動物ランキングの上位に必ず登場しそうな動物です。「ヘビ」=「毒がある」という連想が強く働くせいなのでしょうが、毒ヘビはヘビ全体では少数派です。ヘビはいろいろと誤解の多い動物です。これはなんとかしてやらねば、と思う私なのでした。

「ヘビは泳ぐ」というと意外ですか? 手足もないのにどうやって前進するのだ?!と思いますか?
泳ぐヘビといえば、「ウミヘビ」というグループがいます。ウミヘビは正真正銘のヘビの仲間で、分類上はコブラに近いグループです。熱帯・亜熱帯の海に生息していて、日本では南西諸島で見られます。必ずしも沿岸にいるわけではなく、遠洋にいる種類もいます。陸に上がるのは休憩の時で、食べ物(主に魚)は海中でとる、という行動のものが多いようです。
そのウミヘビの泳ぎ方ですが、体を横にくねらせて、まさに水中をはうように泳ぎます。はうといっても海底を移動するとは限らず、水中や水面を泳ぐこともできます。ウミヘビは一般的な特徴として、尾が縦に平ら、つまり魚の尾びれのように平たくなっています。つまり、魚のように体を左右に振りながら泳げるような体の構造になっているわけです。

ウミヘビが泳げるのは当然として、陸上のヘビはどうでしょう。結論を言ってしまうと、すべてのヘビは泳げます。あらゆる種類で確認したわけではありませんし、中には水を嫌うヘビがいるかもしれませんが、それでも一般的にヘビが泳げない理由はありません。と説明しても信じてもらえないかもしれませんので、私の目撃談を紹介しましょう。

東京の井の頭公園はアオダイショウをよく見かける場所ですが、同公園から流れ出る神田川にもアオダイショウがすんでいます。神田川は都会の川ですので、ほぼ全域がコンクリ三面張りなのですが、同公園付近には自然の河原がわずかに残っています。そこはよく見るとネズミ穴らしきものがよくあり、ネズミがアオダイショウの食料になっているようです。夏に水面を見下ろしていると、アオダイショウが水面をくねくねと泳いでいる姿を見ることがあります。ヘビが泳ぐことは私も理解していましたが、本物を見るとなるほど確かにくねくね泳いでいて、やっぱりヘビだなあと思ったものです。
ところで、同公園はカイツブリが繁殖する場所でもあります。カイツブリの巣はヨシの根元、水面に垂れ下がった木の枝を利用して作られ、陸地からは少し離れた水上にあります。これならネコやイヌに襲われる心配はないのですが、ヘビには通用しません。ある時、カイツブリが抱卵している様子を観察していた時のこと、巣に座っていたカイツブリが警告する「キッ、キッ」という声で鳴き始めました。この声でつがいのもう1匹に危険を伝えているのですが、頭を高く上げ、周りを見ているようすでは敵は近いようです。この時、私はカイツブリが何を警戒しているのかわからなかったのですが、突然カイツブリが巣から飛び出し、猛ダッシュで何かを追いかけていったのです。その何か、というのがアオダイショウ。水面を泳ぎながら巣に近づこうとしていたらしいのです。大きさではアオダイショウの方がはるかに大きいのですが、カイツブリの気迫には勝てなかったようです。アオダイショウはすいすい〜っと岸に逃げていきました。泳ぐスピードはかなり速かったです。こんなところにも敵がやって来るとは、カイツブリも大変です。

実際にはヘビが泳ぐ姿というのはなかなか見られないでしょう。池や川がある、草がよく茂っている、ネズミや鳥の卵(地上・水上に巣を作るもの)などの食べ物がある、といった条件の場所をこまめに観察すれば目撃できるかもしれません。


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