植物の名前(特に日本での名前)はかなり混乱しています。「〜キク」という名前でも菊の仲間ではなかったり、「〜サクラ」という名前でも桜の仲間ではなかったりという例がとても多くあります。
動物の場合はそれほどでもありませんが、まぎらわしい例はあります。例えば「トガリネズミ」。名前の通り、口先がとんがっている、ネズミのように小さくて尾が長い動物です。どう見てもネズミの仲間に見えるのですが、これはモグラの仲間、「食虫目」に分類されます。ネズミの仲間の特徴は上下4本の長い前歯です。これは死ぬまで伸び続けます。モグラの仲間は前歯だけが大きくなるということはありませんので、ネズミとは区別できます。トガリネズミも歯を見ればネズミでないことがわかるわけです。
また、「プレーリードッグ」という動物がいますが、これはイヌの仲間(食肉目)ではありません。大きなリスのような外見からもわかるように、ネズミ・リスの仲間(齧歯目)です。なぜ「ドッグ」という名前がついたのかというと、鳴き声が「キャン、キャン」とイヌのように聞こえるからなのです。他にはまぎらわしい例はないか、哺乳類で調べてみました。
●単孔目
ハリモグラ
モグラ(食虫目)ではない。カモノハシと同じで、卵を産む哺乳類。●有袋目
フクロネコ、フクロオオカミ、フクロモグラ、フクロモモンガなど多数
カンガルーやコアラなど、お腹に子どもを育てるための育児嚢(のう)を持つ仲間です。オーストラリアは哺乳類が発展する前に他の大陸から切り離されたため、有袋目の動物が独自の進化をしてきました。その結果、オオカミみたいなものやモグラみたいなもの、モモンガみたいなものが現れたのです。カンガルーは大きさといい、食べ物といい、ウシやシカに相当する動物と言えそうです。●食虫目
ハリネズミ、トガリネズミ、ジネズミ、ジャコウネズミ、カワネズミ
ネズミ(齧歯目)ではない。トガリネズミ以外にもまだまだいるんです。ややこしいですねえ。●皮翼目
ヒヨケザル
サル(霊長目)ではない。ムササビのような皮膜があって、滑空飛行ができる動物です。昔は霊長目に分類されたこともあったようですので、仕方のない命名かもしれません。●管歯目
ツチブタ
ブタ(偶蹄目)ではない。鼻先がブタみたいだからついた名前。でも体形はブタとは全然違います。●ハネジネズミ目
ハネジネズミ
ネズミ(齧歯目)ではない。ハネジネズミはトガリネズミと同じ食虫目に分類することもあるようですが、いずれにせよネズミではありません。以上は「目(もく)」という大分類レベルでの例です。こうして見ると、まぎらわしい例は少ないようです。ひとつ下の「科」のレベルではどうでしょう。
●食肉目
アライグマ
クマではなくアライグマ科。
アナグマ
クマではなくイタチ科。アナグマは外見でもイタチっぽくありません。
ジャコウネコの仲間
ネコではなくジャコウネコ科
ミーアキャット
ネコではなくマングース科。そもそも英語のつづりは「meerkat」なのでネコのはずがない。「スリカータ」という別名もあるので、そちらで呼んだ方がいいかもしれません。●偶蹄目
カモシカ
シカではなくウシ科。かなり誤解されている例です。ちなみにアフリカにいるガゼルやインパラといったシカっぽい動物たちもウシ科です。アフリカにはシカ科はあまりいないみたいですね。ていねいに探せばもっと例はありそうですが、それでも意外と少ないようです。哺乳類に関していえば、まぎらわしい命名は限られたものだけのようです。
爬虫類、両生類、鳥類あたりでもまぎらわしい名前は少ないと思います。魚類や無脊椎動物となるとまぎらわしい命名はずっと増えそうです。ヤツメウナギはウナギではないとか、ウミグモはクモじゃないとか、「〜ムシ」といっても昆虫ではないとか……。世の中には無数ともいえる生物がいるので、ひとつひとつにユニークな名前をつけるのも大変ですし、覚える方もまた大変です。他の生物を連想させる命名も仕方がない面があるとは言えるでしょう。