(前回より続く)
東京カラス問題の解決方法はゴミをどうにかするということに尽きます。この議論もここでは繰り返しません。
現在、東京都下で進められているゴミ関係の施策は、主にゴミネットの普及とゴミ出しマナーの徹底です。しかし、東京都の人口は約2000万人、通勤人口を加えるとこれをさらに上回る全員にこの施策を徹底させることは極めて難しいでしょう。現実的には効率が非常に悪く、ほとんど解決には結びつかない方法です。私が以前から主張しているのは「ゴミの夜間回収」という方法です。住民の自主的な取り組みに幻想的な期待を抱くのではなく、ゴミ収集のシステムそのものを変更し、カラスとゴミの接点を断つのです。
夜間回収を実行するために必要な金額は、既におおざっぱな試算をしています(雑誌「リラティオ」連載「動物事件の読み解き方」第3回)。予想される額は全予算(一般会計)の0.92%程度、つまりおおよそ500億円以上が必要になります。現在の石原知事のカラス対策は1億円、文字通り桁の違う話なのです。これだけの金額になると議員たちも腰を上げ、本格的な政策論争も期待できる…といきたいところですが、実際にはそういうことには決してなりません。というのも、2000年度から23区の清掃事業は各自治体の事業となったからです。つまり、都のレベルでは清掃事業に関して何の権限も無くなったのです。カラス問題が最も深刻な23区において、統一的な対策を講じることができないのです。当時このことを知った私は、これでカラス問題の解決は遠のいたと思いました。
各自治体に対して「ゴミの夜間回収」を働きかければいいのでは、と思われる方もいるでしょう。しかし、財政難のこの時勢、各自治体は予算がぎりぎりのため、たかがカラス対策のために少ないとはいえない金額を使うことはできないのです。
カラス問題が解決できないのは、このような経済的な事情があるのです。同時にこれは行政組織上の事情というべきものかもしれません。結局、現在実行されているのは都のカラス捕獲対策と各自治体のばらばらで控えめな対策だけなのです。前回も書きましたが、事態は石原知事の思い通りになっているのです(本当によくできた仕組みでしょう?)。
現状のままでは、カラス問題が当分解決不可能であるのは確実です。私にとってはカラス問題は答えのわかった極めて簡単な問題です。なのに行政がそれを解決できないというのは非常に不思議なことです。
私が行政に希望するのは、とにかく
専門家の意見をちゃんと聞いてほしい
ということです。「専門家」とは私に限ったことではありません。優れた鳥類研究者らの意見をきちんと聞いて理解すれば解決法は見えてくるはずです。
そして、「ゴミの夜間回収」にはカラス対策という意味だけでなく、街の美観上も意味があるということを訴えておきましょう。そもそも、
昼間から路上にゴミが大量に放置してあるというのはとても変なことと思いませんか?
2回にわたり、カラス問題を政治・行政・経済の面から見てきました。カラス問題が解決できないのはカラスの頭が良いからだけではありません。むしろ、人間側の誤った(時には意図的に誤った)やり方にこそ原因があるのです。人間が知恵を持つ動物ならば、もっとスマートにこの問題を解決できるのではないでしょうか。