Vol. 159(2003/2/2)

[今日の勉強]自然保護か、動物愛護か

こういうカタイ話はいやがられる傾向にあることはわかっているのですが、動物のことを語るにあたってはいつかは説明せねばならない、避けられないのがこの問題なのです。
「自然保護」と「動物愛護」。この違いをあなたは説明できますか?

これらの解釈には幅があるのですが、私はこう定義しています。
・自然保護
動物・植物を保護するには、特定の動植物だけを守るだけでは不十分です。動物が食べる別の動物や植物も保護しなければなりません。植物の花粉を媒介する動物の保護も必要になるかもしれません。つまり、生態系を考慮して、それ全体を守らなければならないということです。自然環境を考えるにあたっては、最近では常識的な考え方です。

・動物愛護
「自然保護」よりもかなり狭い意味です。特に、飼育動物に対して使われる言葉です。
特定の動物(1個体や小集団)にしぼって守ること、しかも「愛」という言葉がつくので、徹底的に可愛がるというニュアンスが含まれます。

これらの定義を比べてみると、「動物愛護」という言葉は特殊なものだということがなんとなくわかるのではないでしょうか。特にひっかかるのは、「愛」という語です。「愛」が付くと「必要以上にかまってやる」という過保護なイメージがあります。
「愛護」という言葉は、「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護法)」という法律がらみで使われることが多い言葉です。ところで、よくよく調べてみると、法令の名称(タイトル)で「愛」という語が使われているのは「動物愛護法」とその関連法のみなのです。ここで「あれっ?」と感じた方はなかなかカンがいい人です。そう、「愛」は法律で定義できるのでしょうか? 「愛」という抽象概念は、厳格・客観的な定義が必要とされる法律にはなじみにくいものなのではないでしょうか。
実際に動物愛護法ではどのように書かれているのか見てみますと…。


(目的)
第一条  この法律は、動物の虐待の防止、動物の適正な取扱いその他動物の愛護に関する事項を定めて国民の間に動物を愛護する気風を招来し、生命尊重、友愛及び平和の情操の涵養に資するとともに、動物の管理に関する事項を定めて動物による人の生命、身体及び財産に対する侵害を防止することを目的とする。

(基本原則)
第二条  動物が命あるものであることにかんがみ、何人も、動物をみだりに殺し、傷つけ、又は苦しめることのないようにするのみでなく、人と動物の共生に配慮しつつ、その習性を考慮して適正に取り扱うようにしなければならない。


「愛護」の定義はまったくされていません。あえて言えば第2条が定義に近いものだといえそうです。ただし、気をつけていただきたいのは、この動物愛護法は飼育動物(ペット、家畜)に対して適用されるものであって、野生動物は対象外であるということです。

法律の話はさておいて、「動物愛護」という言い方だと、「動物を愛さなければならないのか?」という問題にぶつかります。動物や自然というのは、愛していようがいまいが、大切にしなければならないもの(「資源」あるいは「共有財産」とも言えるか)であるので、「愛」という言葉を持ち出す必要はないでしょう。これは単に「動物保護」と言えばいいことなのです。「動物保護」という言葉なら過剰な干渉のイメージはありません。
自然問題・動物問題の関係者の中には「動物愛護」という言葉を避ける人は実際少なくありません。野生動物関係者はほとんど使わないでしょう。飼育動物を扱う関係者でも使いたがらない人は少なくないと思います(「日本動物愛護協会」という団体は実際にありますが)。

今回、このように言葉の細かいことにまでこだわるのは理由があります。多くの人は「自然保護」と「動物愛護」の区別がついておらず、この混同が自然保護の観点から見て問題を引き起こしているからです。
一番わかりやすい例が、以前からたびたび私が言っていること、「野生動物には食べ物を与えてはいけない」ということです。
「自然保護」の立場では、野生動物はもともと自然環境の中で生きていけるので、人間がわざわざ食べ物を与える必要はありません。食べ物を与えてしまうと人間に依存することになりかねず、野生の生き方から逸脱するからです。
一方、「動物愛護」の立場だと、飼育動物でも野生動物でも食べ物を与えるのは良いことになってしまいます。まあ、一種の「施し」を与えているような気にさせてくれる行為というわけなのです。
どちらが正しいかというと、これは間違いなく「自然保護」の方です。ここでの「動物愛護」は「自然破壊」と言ってもいいものなのです。
勘違いしないでいただきたいのは、私は「動物愛護」が間違った考えであると言っているのではないのです。ただ、「動物愛護」は飼育動物だけに限られた、範囲の狭い概念であることを知っていてほしいのです。本当に自然や動物のことを大切に思うならば、個別の動植物だけにフォーカスするのではなく、もっと広く大きなものにも目を向けてほしいのです。


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