Vol. 164(2003/3/9)

[今日の常識・非常識]アシカとアザラシ、どう違う?

アシカとアザラシといえば、誰でも知っている動物ですが、これらはどう違うの?の聞かれると、ほとんどの人は正しく答えられないのではないでしょうか。さらに、トドは?オットセイは?セイウチは?と聞かれて正確に答えられる人はもっと少ないでしょう。
では、どう違うか見ていくことにしましょう。

英語では普通、アザラシは「seal」、アシカは「sea lion(海のライオン)」と言います。これは一般的な言い方です。学問的な言い方をすると、
アザラシは「earless true seals」(耳の無い真のアザラシ)
アシカは「eared seals」(耳のあるアザラシ)
となります。とてもわかりやすいですね。あまりにも単純なようですが、アザラシとアシカの違いはまさに耳の有無なのです。「耳」と言いますが正確には耳たぶ(耳介)のことで、アザラシにももちろん、聴覚器官である耳はあります。図鑑などがあれば見てほしいのですが、アシカには小さな耳たぶがあることがわかると思います。一方、アザラシにはありません。

英語ではまた、別の言い方もあります。
アザラシは「crawling seals」(はうアザラシ)
アシカは「walking seals」(歩くアザラシ)
とも言います。例のタマちゃんをよ〜く思い出してください。上陸している時はいつも寝そべっている姿ばかりですが、アザラシははうことしかできないので、それも当然なのです。一方のアシカは、水族館などでいろいろな芸を披露しているアシカ(カリフォルニアアシカ)を思い出してください。ひれを使ってしっかり歩くことができますし、スピードは遅いものの走ることもできます。
この移動方法の違いは、体の作りの違いによるものです。アシカは前脚が長く、上体を起こすこともできます。そして、後脚は前方に折り曲げることができます。だから歩けるのです。アザラシの方は、前脚は短いし、後脚は後ろにのばしたままにしかできません。これでは歩くことはできず、はうしかないのです。

さらにもう一つの違いは泳ぎ方です。
アシカは主に前脚で泳ぎます。アザラシは主に後脚で泳ぎます(ヒョウアザラシは例外的に前脚で泳ぐ)。テレビで時々泳ぐ姿が登場したりしますが、これを知っていればすぐに「アシカだね」とか「アザラシか」とすぐにわかるわけです。

他にも違いはいろいろあって、アザラシは前脚に爪がある(例外がいくつかある)、アザラシの脚(ヒレ)は毛皮でおおわれている、アシカの脚は完全には毛でおおわれていない、といったこともあります。

ところで、アザラシとアシカは哺乳類の中ではどのような位置付けになるのでしょう。実は、アザラシ・アシカは、イヌ・ネコ・クマと同じ食肉目に分類されるのです。この食肉目の仲間をリストアップしてみました。

イヌ科 37種 タイリクオオカミ、キツネ、タヌキなど
クマ科 7種  
アライグマ科 13種  
パンダ科 2種 レッサーパンダ、ジャイアントパンダ。現在ではクマ科に組み込む説が有力。
イタチ科 64種 オコジョ、テン、アナグマ、スカンク類、カワウソ類、ラッコなど
ジャコウネコ科 35種 ハクビシンなど
マングース科 37種スリカータ(ミーアキャット)など
ハイエナ科 4種  
ネコ科 8種 ヤマネコ類、ライオン、ヒョウ、トラなど
アシカ科 14種 オットセイ類、カリフォルニアアシカ、トド、オタリアなど
セイウチ科 1種  
アザラシ科 19種 ゴマフアザラシ、モンクアザラシ類、ゾウアザラシ類など
(出典:「世界哺乳類和名辞典」平凡社)

下の3つが海にいる種類です。食肉目全体の共通点は、その名の通り動物食であることです。ただし、クマやパンダのように極端に植物食に偏った種類もいますが、これらも遠い先祖は動物食だったわけです。動物を食べることに特化した結果、食肉目の仲間は犬歯を発達させました。イヌやネコの歯を見れば一目瞭然ですね。

セイウチについて説明しませんでしたが、セイウチはアシカでもアザラシでもない仲間とされています。耳たぶが無いのはアザラシに、歩くことができる(といっても体が大きすぎて上手に歩けない)のはアシカに似ています。セイウチの一番の特徴は巨大な牙(=上あごの犬歯)ですので、アシカやアザラシと見間違えることはないでしょう。この牙はオスにもメスにもあります。

さて、オットセイ、トド、オタリアといった動物がいます。これらは「〜アザラシ」とも「〜アシカ」とも言いませんので、一体何の仲間かわかりにくいのですが、ずばり答えを言うと、どれもアシカの仲間なのです。トドは北太平洋、オタリアは南米に生息しています。オットセイは世界各地に何種類も散らばっています。オットセイは英語で「fur seal」と言うように、毛皮に特徴があります。オットセイの毛は長い毛と短い毛の両方がある二重構造になっているのです。他のアシカは毛皮は一重です。オットセイの毛が二重なのは寒冷地に適応しているようにも思えますが、赤道直下にもガラパゴスオットセイが生息しているのでそうとも言えません。もっとも、ガラパゴスオットセイはやはり暑いのは苦手なのだそうです。一重か二重かなんて、見てもわからないよ!と思うかもしれませんが、これが意外と見分けられるのです。海から上陸すると、オットセイは下毛に空気が残っており、また、上毛は硬めであるため、すぐに毛皮が乾くのです。アシカの方は上陸しても毛はべたーっと体にはりついたままで、すぐには乾きません。図鑑の写真、あるいは動物園などでぜひ確認してみてください。

ところで、アザラシとアシカを比べるとアシカの方が大きい印象があると思いますが、実際は種によって大きさはまちまちです。体長2m程度の種類はアシカにもアザラシにも多くいます。アシカ・セイウチ・アザラシの中で、最大になるのはアザラシの仲間のミナミゾウアザラシです。オスは体長最大5.8m、体重は3000〜5000kgにもなるそうです。ちなみに普通サイズの乗用車は1000kgぐらいの重さです。以前、ニュージーランドでミナミゾウアザラシが港に上陸し、何台もの車に寄りかかって破壊するという事件がありました(2000年3〜4月。TVでも紹介されたことがあった)。このときのミナミゾウアザラシの体重は2000kgだったそうですが、こうなると大迷惑な動物です。もっとも、ミナミゾウアザラシは保護動物ですので殺すわけにもいきません。この事件の続報は知らないのですが、いったいどうなったんでしょうねえ。
それにしてもタマちゃんは小さくて良かったですね(笑)。ただし、アゴヒゲアザラシも成長すると300kg(お相撲さんよりも重い!)を超えるそうですので、「タマちゃんと添い寝した〜い」などと考えるのは絶対にやめましょう。寝返りうったら確実に圧死です。


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