今週、来週もまたまたタマちゃんの話題です。
昨年以来のタマちゃん騒動を見ていると、どうもいろいろと誤解されていることがあるようです。そこで、主なものについて解説してみることにしました。
海の動物は川で生きていけない
回答:アゴヒゲアザラシの場合、普通のことです
アゴヒゲアザラシの場合、河川をさかのぼる例があることが知られています。また、他の海にすむアザラシでも川で見つかった例がわずかながらあります。実際のところ、食べ物で困らなければアザラシ類が川にいてもそう不思議なことではないでしょう。
今回のタマちゃんの場合、出現場所はいずれも河口から遠くなく、潮の干満の影響を受けるような場所にいます。このような場所の塩分濃度は海とほとんど変わりなく、川といってもほぼ海に近い環境といえます。
ところでアザラシ科全体を見てみると、カスピ海とそこに注ぐ川にいるカスピカイアザラシ、バイカル湖とそこに注ぐ川にいるバイカルアザラシという種類がいます。この2種は海から離れて孤立して生息していますが、いずれもワモンアザラシを起源にするアザラシです。カスピ海は塩水ですが、川にもいることからわかるように、淡水でも問題なく暮らしています。
水が淡水か海水かはアザラシにはあまり関係ないようです。
汚い川にいたら病気になる
回答:おそらく問題ありません
多摩川、大岡川、帷子川、いずれも「汚い」ということでタマちゃんの健康がよく心配されています。
しかし、現在の日本で、生き物がすめないほど汚染された川は存在しません。公害対策がとられるようになった1980年代以降、全国の河川の状況はずいぶん改善されました。少なくとも生き物がすめない川というのはまずないでしょう。
水の「汚さ」の定義にはBOD値(湖沼の場合はCOD値)がよく使われていますが、これは指標のひとつであり、汚さはこの数値だけで決定されるものではありません。BODの説明は難しいので省略しますが、一般の人が考えるほど日本の川は汚いわけではないのは間違いありません。生物が生息するにはそれほどの障害はないと言えます。
タマちゃんの場合は未知のことが多いので、長期的な健康状態の監視は必要だと思います。
食べるものがない
回答:人間が与えなくても十分あります
上に書いたように、川にはそれなりに生物はいるので心配ありません。また、東京湾にも生物は豊富にいます。タマちゃんの行動パターンをみると、数日間東京湾に出かけて、帷子川に戻ってくるという行動を繰り返しているようです。食べ物の多くは東京湾で捕獲していると考えて良さそうです。
アゴヒゲアザラシの食べ物は、水底の小型無脊椎動物がメインで、補足的に魚も食べるようです。小型無脊椎動物とは具体的にはエビ、カニというところでしょうか。他にはタコや貝も含まれるでしょう。とりあえず、食べられそうなものは食べているという感じだと思われます。半年以上東京湾で生存できたということは、食べるものに関しては何の心配もないと断定していいでしょう。
ところで、「タマちゃんのことを想う会」は毎日タマちゃんのエサを川にばらまいていたと主張していますが、いつも誰かがいるような帷子川で、誰にも目撃されずに何ヶ月もエサをまいていたというのは信じられません。また、エサをばらまいたところで、それをタマちゃんが食べているかというと、あまり食べていないと思われます。というのも、東京湾にいる時間の方がずっと長いわけですから、食べ物の多くも東京湾で調達していると考えられるからです。彼らがばらまいたエサは、ほとんどゴミ同然なのです。彼らが食べ物を与えなくてもタマちゃんが餓死するようなことはありません。食べ物が足りないなら、とっくに他の場所に移動しているでしょうから。
暑いところだと弱ってしまう
回答:おそらく問題ありません
アゴヒゲアザラシの通常の生息域は、日本近海ではオホーツク海が南限です。ただしこれは一般論で、何の境界もない海では簡単に生息域を離れることができます(陸上哺乳類だと、川や道路が移動の障害になってしまう)。また、アザラシは泳ぐ能力が優れていますから、海流に乗れば関東近くまで来ることはそれほど難しくないでしょう。アゴヒゲアザラシは以前、大分や長崎で捕獲されたこともあるほどです。暑すぎるのではないか、ということについては過去の例が少なすぎるためになんとも言えません。タマちゃんを見る限りでは今のところ問題はなさそうですが、やはり観察は続けた方がいいとは言えるでしょう。
さて、他のアザラシ類を見てみると、例えばゴマフアザラシは九州以北の近海も生息範囲になっています。実際は意外とアザラシは身近にいるものなのです。あまり目撃することはないのは、アザラシはほとんど上陸しなくても生きていけるからなのです。
世界中を見てみると、ハワイにはハワイモンクアザラシという種類がいます。また、カリブ海にはカリブカイモンクアザラシという種類がいましたが、1950年代に絶滅しました。アザラシというと寒い所の動物、というイメージが強いのですが、アザラシ全体を見ると必ずしもそうでないことがわかります。
ちなみに、アシカ類の場合でも、赤道直下のガラパゴス諸島にはガラパゴスオットセイ、ガラパゴスアシカ(カリフォルニアアシカの亜種)が生息しています。