Vol. 172(2003/5/4)

[今日の観察]カメを観察してみよう その2

甲羅で個体識別

甲羅の名前

カメの観察、今回はもうちょっと専門的な話をしましょう。カメを語るにあたって欠かせないのは甲羅です。甲羅を観察すると、小さい板から構成されているのがわかるでしょう。その1つ1つを「甲板」(こうばん)と言います。この甲板の名前と数と並び方はすべてのカメに共通しているものですので、カメの勉強にあたっては必ず覚えなければならないことです。この際、覚えてしまいましょう。

椎甲板(ついこうばん)=背甲の中央の甲板。名前の通り、椎骨(背骨)に由来する。
肋甲板(ろっこうばん)=椎甲板の両側に並ぶ甲板。名前の通り、肋骨に由来する。
縁甲板(えんこうばん)=背甲の縁を取り囲む甲板。
項甲板(こうこうばん)=頭側に最も近い甲板。
臀甲板(でんこうばん)=尾側に最も近い甲板。

数字は甲板の番号で、「第1縁甲板」といった具合に使います。
甲板は、名前からもわかるように椎骨と肋骨が変化したものなのです。正確には、骨は甲板の内側にあって、甲板=骨ではありませんが、甲羅の構造自体は骨に由来するものなのです。背骨は背甲の内側と一体化していてはずれることはありません。マンガではカメの体が甲羅からすっぽーんと抜けたりしますが、そんなことは現実には起こりえません。
ところで、カメのイラストとか置物を思い出してほしいのですが、そういったものでこの甲板が正確に表現されているものはかなり少ないです。意外と皆さん、正しいカメの甲羅を知らないものなのですねえ。
カメの中にはスッポンやオサガメのように、甲羅が外皮に覆われて甲板がないものもいます。が、その他では甲板はほぼ共通です。ただし、すべてのカメの甲板が同じではなく、甲項板があったりなかったり、肋甲板の数が1つ多かったりなどの差があり、これが種の判別の決め手にもなります。甲板だけですべて種の判別ができるわけではありませんが、わかりやすい判別方法のひとつです。

甲板異常

カメの甲羅を観察していくと、時々甲板配置が通常と異なる個体を見つけることがあります。よく見るのは、図のように椎甲板が2列になった例です。わかりやすいように、横に赤線で甲板の形を示しました。井の頭公園では少なくとも2個体でこの異常がありました。甲羅を確実に確認できる個体の中での2個体ですので、出現率は高く、それほど珍しいものではないようです。この甲板異常の形を記録しておけば、その特定の個体を識別することができます。
甲板の異常には、他に縁甲板が欠けている、穴があいている、縁甲板の数が1つ少ないといった例がありますが、これは甲羅全体が見えなければ確認できないため、実際の観察ではあまり役に立ちません。
さらにまれな例では、写真下のように、甲羅の一部が異常に盛り上がっていることがあります。この個体の盛り上がりは左右非対称なので、病気のせいかもしれません。が、この個体はかなり目立つので個体識別にはわかりやすいという利点があります。

個体識別は簡単なようでいて、実は爬虫類の場合は簡単ではありません。実際、カメの個体識別は上記のような外見上の異常がないと不可能でしょう。
一般に、哺乳類は個体を見分けることができると言われますが、爬虫類や鳥類では不可能とされています。鳥には研究用に足輪をよくつけますが、あれがないと個体識別ができないから付けているのです。カメの場合は背甲に番号をペンキで書くというやり方があるそうです。

カメの個体識別ができれば、生活場所の範囲の特定、行動追跡、寿命の推定といったことができるようになります。ただ漫然と観察するよりも、具体的な観察目標ができるわけです。カメの種類判別ができるようになったら、このような観察にも挑戦してみてください。カメの個体識別から新たな発見があるかもしれません。


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