Vol. 175(2003/5/25)

[今日のアニメ]地球少女アルジュナ

この「いきもの通信」でアニメ作品を取り上げるのは初めてです。動物に関係するアニメ作品は、動物映画よりもさらに少ないので、次に取り上げるのはいつになるかわかりません。
もちろん、動物アニメがまったく無いわけではありません。
例えば「ポケットモンスター」(ポケモンは架空の生物だが、明らかに現実の生物を模倣している)。動物をカプセルに閉じこめるなんて虐待です。よく米国で受け入れられたものだと思います。カプセルの中は気持ちがいい、という設定があるという話を聞きましたが、奇弁だなあ。また、目の前で生物が「進化」するというのも非科学的、というか科学教育上問題があります(笑)。
例えば「ハム太郎」。私はこの手の「動物を擬人化する」ものは大嫌いなのです。
例えば一時期マニアを狂喜させた「エヴァンゲリオン」。あ、これはもちろん動物アニメではありません。この作品の中核のひとつが、全人類の魂を統合する「人類補完計画」というものでした。さて、それでは動物の魂はいったいどうなったのでしょう? 人間を他の生物から切り離した特殊な存在に祭り上げているこの作品、私には魅力は感じられませんでした。

今回紹介する「地球少女アルジュナ」は2001年1月〜3月にテレビ東京系で放映されました。もう2年も前の作品なのですが、2年たってもまた見たい作品なんてそうそうありません。これが動物アニメかというとそうでもないのですが、ここ「いきもの通信」で取り上げるだけの内容であるということです。


ストーリー

主な舞台は神戸。高校生・有吉樹奈(ありよし・じゅな)が主人公。ある夏の日、ボーイフレンドのバイクに乗って遠乗りをしていた樹奈は、突然の事故で死んでしまう。臨死体験の中、クリスと名乗る少年からもう一度生命を与えられ彼女は生き返る。その条件は「ラージャを倒すこと」。普通の人には見えない、謎の生命体(?)ラージャと戦っていく樹奈だが、クリスは「なぜ戦う?」と問いかけ、樹奈を混乱させる。
終盤では日本がカタストロフィーによって壊滅してしまう。その混乱の中、ラージャの真の姿が明らかになる。


この作品の主人公は美少女ではありません。いや、そうでもないかな? つまり、いわゆる「萌え」系のキャラクターではありません。変身はしますが、魔法のステッキもなければ変身呪文もありません。その変身した姿も普通の人には見えません。変身も完全に本人がコントロールできるわけではないようです。そもそもストーリー内容からいって、これは魔法少女モノではないと断言できます(笑)。
ロボットというかそれっぽいものは出てきますが、ミリタリー系とかリアル系とかヒーロー系とかそういう文脈からかけ離れています。そもそも、この「アスラ」というモノはこの世のものではなさそうです。
キャラクター、メカのいずれにもコアなアニメ・ファンを引きつける要素が無いため、かなり苦戦を強いられる作品であるのは目に見えていました。しかし、制作関係者がアニメ素人だったということではなく、監督(河森正治)は業界ではかなり有名な人です。DVDの解説書を見ると、制作スタッフは確信犯的に作っていたようです。
技術的には、当時のテレビ向けアニメとしては大幅に3DCGを取り入れた画面作りは驚くものがありました。第1話冒頭のポートアイランドの空撮、同じく第1話のバイクが走るシーンにはおおっと思ったものです。今回あらためて見てみると、各所で3DCGが使われているのがわかります。

ついでに言いますと、音楽はアニメサントラ界では超有名な菅野よう子。彼女が繰り出す音楽は多芸多彩なことで知られますが、「アルジュナ」では神秘的な雰囲気をかもしだす音楽がぴったりです。また、主題歌の「マメシバ」はこれまたポップな名曲だと今も思っています(ということでサントラもお勧めです)。(さらについでに言うと、この作品、オープニング曲がないというのも異例です(ただし1回だけオープニング曲があった)。エンディング曲も主題歌「マメシバ」の他に何種類かあるというこれまた異例なものでした。)


「アルジュナ」は環境問題をかなり意識した作品で、全面的にそういったキーワードが登場します。環境問題を扱う作品の場合、ストーリー構成の最大の問題は「絶対悪」が存在しないことです。自然環境全体を見渡してみると、あらゆる存在に良い・悪いという価値基準は存在しません。人間の作り出したもの(例えば「文明」)を「悪」に仕立て上げてもいいのですが、それでは人類の存在を否定することになってしまいます。「絶対悪」が存在しないということは、ストーリー的には「敵をこてんぱんにやっつける」ことができず、爽快感が得られないためけっこうやっかいなのです。
かつては、例えば「宇宙戦艦ヤマト」のように絶対悪がいるのがアニメでは当たり前でした。しかし、「機動戦士ガンダム」あたりからは、敵も同じ人間という意識が強くなり、絶対悪を描きにくくなりました。「アルジュナ」にもラージャという「悪しき存在」が登場しますが、もし本当に悪だとすれば、この物語はまったく成り立たなくなるわけで、最終回でどう解決するかが期待されました。作品中、頻繁に繰り返される「なぜ戦う? なぜ殺す?」というクリスのセリフからは、ラージャが絶対悪ではないということが想起されましたので、私も最後の解決が気になったのです。
結局のところ、最終回、最後のセリフがすべてを物語っています。ネタバレになるのでここでは書けませんが、このセリフが作品全体のメッセージだと言えます。このセリフを理解した上でもう一度最初から見直すと、一貫した矛盾の無いメッセージが発せられ続けていることがわかります(だから、「アルジュナ」は最低2回は見るべきなのです)。
このセリフは、理解できない人にはタチの悪い冗談にしか聞こえないでしょう。そのようにしか受け取ることができないとしたら、その人はとっても不幸だなあ、と私は思います。


私が「アルジュナ」を肯定的にとらえるのは、自然観察などを通して構築してきた私の自然観に近い、と感覚的に感じたからです。もし、製作スタッフが上っ面の知識だけで作ったとしたら、このような感想は持たないでしょう。この作品を通して思ったのは、スタッフはかなりよく取材しているな、ということです。
例えば、第4話に登場した無農薬農業ですが、エンディングに実写映像が登場したことからもわかるように、これは本当に実践している場所を取材しているようです。でなければ、今のアニメ業界の水準であれだけ精密な描写ができるはずがありません。
この第4話は、「アルジュナ」の物語の中核とも言えるものです。この回は、一見「無農薬農業礼賛」に見える内容です。本当かいな?と思うほどの内容ですが、本当なんでしょうね。ただ、本放送では十分語り尽くせなかった面があったらしく、DVD第2巻では「間奏(インターアクト)」「後奏(エピローグ)」が追加され、内容を補完しています。

取材の成果で自然の描写は全体によくできていますが、誤りも散見されます。
第3話で、山中の池(生物のいない死の池)でカイツブリのつがいの鳴き声が聞こえます。しかし、画面上にいるのは別の鳥(カモ類かカモメ類かも判別不能)。また、直後にこの鳥は死んで水没しますが、普通は死体は沈みません。
第4話では、アゲハチョウ(ナミアゲハ)の幼虫がキャベツを食べていましたが、これはありえません(アゲハチョウの幼虫は柑橘系の植物の葉を食べる)。また、同じ回でシオカラトンボが老人の指先にとまるシーンがありますが、これも実際はありえません。指先にとまるのならば、アキアカネ、ノシメトンボなど別の種類であるべきでしょう。
こういった誤りは他にもありますが、しかしそれでも、他のアニメ作品よりはるかにましです。(一般のアニメ作品のレベルでは、街中の小鳥すら正確に描写できていない。)


さて、この作品の世間の評判はというと、「説教くさい」とか「宗教っぽい」という批判がかなり多かったようです。まあ、確かにそういう印象を与えることは否定できません。
例えば第2話で、原子力発電所が暴走しかけているのを止めようとするシーンでこんな会話があります。

テレサ(SEED隊員)「でも、原子炉はリスクが大きすぎるわ。それに建設コストや核廃棄物の保管を含めれば、ほとんど採算が取れない。現に欧米では原発の建設を中止したり、廃止したりする国が…」
堂島(発電所所長)「君に言われなくてもわかっている! 15年…たった15年前に、バブルがはじける前の、この国が一番豊かと言われた頃の電力消費量に戻すだけで原発をひとつ残らずなくせるのに。」
テレサ「それとも真夏の2週間、冷房を我慢するか…。でもたったそれだけのことが私たちにはできない。」
堂島「だから俺達がせめて安全だけでも守らなくては。」

SEED=地球保全機構、というのは表向きの名称で、ラージャから地球を守るための活動を超法規的に行っている国際組織。

うーん、危機が迫っている状況下でこの会話はちょっと不自然かもしれません(笑)。こういう説教っぽいシーンが毎回のようにあるので敬遠されることもあったようです。
ただ、セリフに注意していると、

第3話・樹奈の母「それにしても、地球を守るやなんて、テレビの見過ぎやね。」
第4話・老人「テレビばかり見ておるから、目の前のものが見えんのだ。」

という、視聴者を挑発するようなセリフもしっかりまぎれこんでいます。制作側も、視聴者の反応をある程度は予想していたのかもしれません


「アルジュナ」の本放送が終わってから思うのは、「アルジュナ」と現実世界の妙なシンクロです。放映前後の関連事件を並べてみました。

1995年12月 高速増殖原型炉「もんじゅ」でナトリウム漏れ事故
1999年5月 「買ってはいけない」発行
1999年9月 東海村JCO臨界事故
2000年2月? マクドナルド、平日ハンバーガー半額
2000年6月 クリントン米大統領がヒトゲノム解析の完了を宣言(実際は完全完了ではなく概要版(ドラフト)の完了で、完全解読の発表は2003年4月)
2000年6月〜7月 雪印乳業食中毒事件
2000年 牛胎盤エキスがはやったのはこの頃だったっけ? 2001年前半には狂牛病との関連が問題になったことも
2001年1月〜3月 「アルジュナ」テレビ放映
2001年春〜夏 牛丼200円台に
2001年8月 「ファストフードが世界を食いつくす」発行(原書「Fast Food Nation」は2001年1月の発行だったようなので、翻訳は早かったみたいです)
2001年9月 国内初の狂牛病(BSE)確認。「肉骨粉」という言葉が有名になる。
2001年9月 9.11同時多発テロ
2001年10月 アメリカで炭そ菌による死者が出る
2001年後半〜2002年前半 テレビで大食い選手権番組が話題に
2002年夏 牛肉偽装事件、続発
2002年9月 東京電力の原発トラブル隠しが発覚

「ファストフードが世界を食いつくす」やBSE事件よりもアルジュナの方が早かったというのは驚きです。まるで予言のようにも見えますが、世の中のありかたを真剣に模索した結果なのでしょう。本放送の時はあまり感じなかったのですが、今あらためて「アルジュナ」を見ると、Mハンバーガーを食べる気がおきません。

そういえば、作品中で主人公がメリケンバーガーを食べられない体質になってしまうというエピソードがあります。メリケンバーガーどころか、無農薬食品しか食べられないというある意味悲惨かつこっけいな状況なのですが、これも空想のものではないんですね。「化学物質過敏症」という病気が実際にあるのです。排ガス、化粧品、プラスチック、農薬(農薬を使用した農作物も)、化学繊維の服などなど、さまざまなものに反応する病気で、症状は目まい、頭痛などだそうです。これは笑い事ではありません。ますますMハンバーガーが食べられなくなった私です。

メリケンバーガー=作品中にしょっちゅう登場するハンバーガー。頭文字の「M」からもわかるように某大手店のパロディである。


この物語はフィクションのようであって、実は限りなく現実に近い物語だと私は感じました。それは、私が動物の存在を意識しながら生活しているからかもしれません。

どこかの空想世界で無邪気に戯れているそこらのアニメ作品とは違うのだよ。そういうことです。


製品情報

「地球少女アルジュナ Director's Edition」
DVD、ビデオで発売中。全6巻。各巻5000円。
発売:バンダイビジュアル

「Director's Edition」ということで、TV放映時のものに幕間が追加されたり、本編映像でも追加や削除があったようですが、どこがどう変わったかはさすがにわかりません。謎の健康飲料「天晴れ元気」のCMも収録。
第4巻ではテレビ未放映の第9章「生まれる前から」が収録されています。この回のテーマは「妊娠・出産・中絶」。平日夕方6時からという放映時間では内容がきわどすぎるために放映できなかったのではないかと思います。本放送の時は気付かなかったのですが、この回が無かったとすると、前後のつながりが若干わかりにくくなります。ほとんど独立した話なので、影響は大きくありませんが。

残念ながら、「アルジュナ」はレンタル屋さんではあまり見かけません。中古DVD屋でもほとんど置いていません。第1巻は比較的見つけやすいのですが、それ以外が置いていないんですよね。とりあえず、第1巻を見かけたらレンタルするなり買うなりして見てください。そして、結末が気になったら全巻見てください。私はDVD全巻そろえました(内、5巻は中古で購入。メーカーさん、ごめんなさい)。

天晴れ元気=作品中に登場する健康飲料。が、主人公は添加物が入っていることを見破ってしまう。チープな感じのCM曲がいい感じ(笑)。


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