Vol. 181(2003/7/6)

[今日の観察]動物フィギュアを批評する(前編)

あいかわらず食玩ブーム、フィギュア・ブームが続いています。最近はキャラクターものが増えていますが、元々「キャラクター商品」なのですからこの方向性は間違っていません。それでも「元祖」として動物ものは根強く残っています。
さて、そんな動物フィギュアをまとめて批評してみたいと思います。このところ、フィギュアを売ることばかり優先させて、質が追いついていない傾向が見られます。この現状をましなものにするためにはちゃんとした批評が欠かせないのではないでしょうか。
ただし、動物フィギュアを真面目に語ると少なくとも新書1冊分の量が必要になります。そこで今回はかなり要点を絞って批評しています。それでも前編・後編と分けなければならない量です。もっと詳しい内容を読みたい場合は、出版の企画を持ってきてください(笑)。

ところで、公正を期すために言っておかねばならないことがあります。私は、小学館の「日本の天然記念物」などで海洋堂製品とかかわっていますが、私の仕事は末端であり、フィギュア製品の企画・製造には何か意見を言える立場ではありませんでした。以下では海洋堂製品に高い評価をつけていますが、これは仕事とは関係なく批評しての結論です。


フィギュアの何を評価するのか、その基準をまず書きましょう。ポイントは「企画」「原型」「製造」の3つです。

・企画
テーマや製品ラインアップのことです。ただ動物を並べればOKというものではありません。商品としての楽しさ面白さの多くは企画にかかっています。

・原型
ずばり造形力のことです。正確さと同時にデフォルメ能力が問われる、高度な技術が必要となります。
もっとはっきり言うと、誰が作っているか?ということになります。原型製作者が有名かどうかが問題なのではありません。フィギュア作品の出来不出来を左右するのは原型製作者です。ですから製品には原型製作者の名前を明記すべきなのです(ジャンルは違うが同じ創作者である私の希望でもあります)。以下の評価では原型製作者が不明の場合は評価を低くしています。

・製造
工場での作業のことです。原型に忠実な製造、ていねいな塗装といったことが評価対象です。

この他に、個人的には「イラストのための資料になるか?」ということも評価の対象になります。ただし、フィギュアの大きさではスケール感が違いすぎるため、現実には資料としては不十分です(フィギュアを見て絵を描いてもリアルな動物は描けない)。しかし、フォルムや各部の大きさ比率を確認するには役立つものです。

評価はA、B、Cの3段階です。「チョコQ」を基準の「B」とし、相対評価しています。


チョコQ(タカラ/海洋堂)
原型:松村しのぶ
評価:B

・ここで評価の対象とするのは、最新の「日本の動物第7弾」と「ペット動物第4弾」とします。これ以前のチョコQ(チョコエッグ)は評価B−とします。
なぜ、最新のものだけを評価を高くしているのかというと、製造技術に進歩が見られるからです。特に「より自然な位置での分割」を評価します。チョコQはカプセルに入れるために部品を分割しなければなりませんが、以前の部品分割は機械的で、組み立て後に分割線がかなり目立ってしまうものでした。最新版では、分割位置がより自然になり、目立たなくなりました。また、最新版では原型の再現度、塗装も向上したように思えます。
・製品のラインアップは、「日本の動物」が約200、「ペット動物」が約100、という充実ぶりです。しかも、その内容は「人気ものや可愛いものをあえて避けている」と一見してわかるユニークさです。「ペット動物」では魚やニワトリといったジャンルもカバーしているあたり、マニア受けする製品群となっています。その一方で、リクガメが入っていないという点も忘れてはならないでしょう。これは明らかにわざと除外しており、何か主義主張が伝わってくるようです。
・今さら言うまでもありませんが、このシリーズは食玩ブームの先頭ランナーであり、原型の松村しのぶ氏の腕が光る傑作シリーズと言えます。


チョコエッグ(フルタ製菓)
原型:不明
評価:C

※旧チョコエッグではなく、海洋堂離脱後のシリーズについてです。
・監修はムツゴロウ先生。だが、申し訳ないが彼はもはや過去の人です。今どき引っ張り出してもそれほどのネームバリューはありません。この時点でかなり的外れな印象です。
・ラインアップの動物の選択は悪くありませんが、造形がそれに十分応えておらず、意味不明なものになってしまいました。
例えばアオアシカツオドリという鳥がいます。私はこの選択を「ああ、なるほど」と理解できるのですが、フィギュアからはそれがわかりません。つまり、表現すべきポーズの選択が間違っているのです。
・造形も以前の海洋堂チョコエッグと比べてかなりレベルが落ちています。例えばメイン・クーンというネコを比較してみましょう。
チョコエッグのメイン・クーンはただの太ったネコ、首の太いネコになってしまっています。メイン・クーンの大ファンである私はこれを見て非常にがっかりしました。メイン・クーンはセミロングヘアーのため太って見えますが、ペルシアなどと違って体格は普通なのです。メイン・クーンらしさを表現するには、寝そべっている姿が一番絵になる、と当時私は思ったものです。すると、その後に出たチョコQではその通りの「寝そべり」になっていたのです。さすが、メイン・クーンの魅力をよくわかってらっしゃいます。
また、アカメアマガエルの脚の指の長さがどれも同じ、というわけのわからないミスもあります。動物の体のつくりを理解していれば、このようなことにはならないはずなのですが。
・部品の精度が海洋堂チョコエッグより悪くなっており、組み立てにくい、あるいは部品が外れやすいという難点があります。フルタ製菓は海洋堂チョコエッグから何も学んではいなかったようです。


「日本の天然記念物 動物編」(小学館)
原型:松村しのぶ
評価:A

・おそらく当分は追随できないだろう、動物フィギュア・シリーズの近年の最高傑作。
売り上げはあまりよくなかったようですが、このシリーズが理解されなかったとすれば非常に残念です。海洋堂M専務の言うように「日本ではフィギュアは理解されない」ということを実証してしまったのでしょうか。本当に動物フィギュアのファンならば買っておくべき逸品ですよ。
・チョコQのような大きさの制限が緩く、サイズも大きく、造形、塗装ともにより細かくなっています。同じ原型製作者によるチョコQの同じ動物と比較してみるとよくわかります。
また、台座もセットになることで、ジオラマ的な表現ができているのも面白いところです。
・ラインアップには、二度と立体化されないのではないかと思える動物もあります。オナガドリ、トゲネズミ、ゴイシツバメシジミ、オカヤドカリ、ホタルイカ、ヒメハルゼミといったものです。「天然記念物」というくくりは一般になじみにくいものなのですが、それが逆にこのような珍しい動物の立体化につながったわけです。
・イヌワシ、オオサンショウウオは特に傑作だと思います。


黒潮コメッコ(江崎グリコ)
原型総指揮:松村しのぶ
評価:A−

・海の動物をまんべんなく紹介しています。つまり、魚類は当然として、イルカ・クジラといった哺乳類、ウミガメ(爬虫類)、カニ、イカなどバランスがいいのです。魚類の方も、見た目の面白さと分類上のバラエティーが両立しているラインアップです。
・解説に富田京一という若手研究者を起用したことも評価できます。こういう場合、名の通った人を使いたがるものですが、それを避けたのもまた企画の目利きの良さです。
・魚類は銀色のメタリックな色彩をしているものが多いのですが、塗装も上手に再現しています。


ハムスターズランチ、ハムスターズランチVer1.5(北陸製菓)
原型総指揮:松村しのぶ
評価:B

・硬い素材では本物の毛のもこもこした感じはさすがに再現できないのがつらいですね。造形自体は悪くないんですが。手足の仕草が本物っぽくてかわいさ倍増。


ペンギンズランチビスケット、ペンギンズランチビスケット2(北陸製菓)
原型総指揮:松村しのぶ
評価:A−

・ペンギンが17種類もいるなんてほとんどの人が知らないでしょう。ステレオタイプなペンギン観を見直させる企画です。ペンギンのフォルムのバリエーションがよく理解できます。だが、みんなちゃんとこのことをわかって買っていますか?
・このフィギュアでは、向きも考えてポーズを決めています。より彫像的、と言えるでしょう。


レッド・データ・アニマルズ(フルタ製菓)
原型:松村しのぶ
評価:B

・ラインアップは平凡のようにも見えますが、類似商品が他に無いため今でも貴重な作品だと思います。続編の見込みがないのはとても残念です。
・日本国内の哺乳類は種類が多くありません。哺乳類全体を見渡すには世界の哺乳類も視野に入れなければなりません。そういう意味でも貴重な企画でした。
・造形は普通です。特にこったポーズでもありません。ただし、類似商品がないため、資料としてはありがたい存在です。


原色爬虫類カメ目図鑑(ユージン)
原型:不明
評価:C

・フォルムがかなり不正確です。特に甲羅の表現がひどい出来です。甲羅を見ただけでこりゃダメだとわかってしまいます。甲羅全体の形状がただの長円だったり、甲板の境界線が単調な直線になっていたりと、カメ・マニアをがっかりさせること間違いなしです。製作者は実物を見ていないのか、造形能力が低いのか、とにかく観察力に疑問があります。


原色爬虫類トカゲ図鑑(ユージン)
原型:不明
評価:C

・上記の「原色爬虫類カメ目図鑑」と同じ系列のシリーズ。このトカゲ達もやはり不正確なフォルムです。
例えばウミイグアナのフィギュアを見れば、すぐにこれはおかしいと気づくはずです。どこがおかしいかここには書きません。この程度のことは理解して作ってほしいものです。


原色両生類カエル科図鑑(ユージン)
原型:不明
評価:C

・上記のカメと同じ系列のシリーズ。
中古店ではよく見かけるが、買う気がおきない製品。実際、ひとつも買っていません。ぱっと見てフォルムの差がわかりにくいのです。カエルは意外とフォルムのバリエーションがあるはずなのに…。作り方が悪いのか、カエルの種の選択が悪いのか?


昭和のネコ(ユージン)
原型:不明
評価:B+

・ユージン製品を続けてこきおろしましたが、この「ネコ」は一転して評価できるものです。昭和時代の日常風景を題材にした設定が面白いです。これは企画の勝利です。
・このフィギュアはリアルさを求める作品ではありません。明らかにデフォルメであるにもかかわらず、完全に3Dとして成立しているという絶妙な造形力です。ネコ以外の背景や小物とも矛盾無く共存できています。カブトムシが登場したことがあったのですが、これまた「正確にデフォルメ」されており、私を満足させるものでした。原型製作者の観察力は確かなものです。
・原型製作者は「ネコ」シリーズを通して同一であることは明らかで、その点でも安心して買える製品です。なぜ名前を公開しないのか、非常にもったいないことです。よって、評価を1段階落としました(A−をあげてもいいくらい)。


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