Vol. 183(2003/7/20)

[今日のカラス]検証・カラス捕獲トラップ 2003年版

カラス捕獲トラップのことを取り上げるのは久しぶりです。私も常に情報には気をつけていたのですが、報道されることが極端に少ないのでなかなか私の手持ち情報も増えません。
2002年度(平成14年度)の捕獲結果についてももっと早く取り上げるべきだったのですが、別のことを調べていたため遅くなってしまいました。調べものについては来週報告するとして、今回は2002年度の結果について見ていきましょう。

2002年度の結果について、東京都からの発表は5月27日にありました(報道発表資料)。

まず、捕獲数は次の通りです。

トラップ設置数 120基
捕獲目標 9,000羽
捕獲実績 12,000羽

2001年度は4210羽でしたので大幅増です。その理由は、

・2001年度は12月後半から順次トラップを100台設置していった。2002年度は9月から120台すべてが稼働できる状態だったので、捕獲数も増えた。
・捕獲数が少ない所のトラップを別のたくさん捕獲できそうな場所に移動させた。

というもので、急にカラスが捕まりやすくなったわけではありませんので誤解のないよう。

発表ではカラスの生息数も書かれてありました。

区部
多摩地区
平成13年 29,400羽 7,100羽 36,500羽
平成14年 25,400羽 10,000羽 35,400羽

それぞれ各年末に調べた数字です。トラップ設置時期とのずれを考慮しても、この2つの調査の間には約10,000羽が捕獲されていると推測できます。
発表には「生息数が昭和60年以降はじめて減少」と書かれています。行間から「減ったぞ万歳!」という気持ちがにじみ出ている記述です(笑)。しかし、減少数1100羽というのは誤差の範囲内です。自然の状態のままにしておいてもこれ以上の増減は普通に起こりえます。減少ではなく「横ばい」というのが正しい見方です。
また、「はじめて減少」とされていますが、昭和60年の「7,000羽」という数字以降、平成13年までは全数調査がなく、その間の増減はまったくわからないのです。途中の増減がわからないのに「はじめて減少」というのは統計的には根拠の無い話です。
カラスの生息数調査は、冬に寝ぐらに戻ってくるカラスの数を数えて調べます。この方法では取りこぼしが若干でてくるため、ある程度の誤差のある数値になります。
さらに言うと、13年と14年では調査した団体が異なるため、単純に比較していいものか疑問もあります。いずれにせよ、「減少」と言い切ることはできないのです。

科学的な正確さを期すには、捕獲などの実力行使の前に少なくとも2〜3年は通常の状態で生息数のデータをとっておく必要があるでしょう。それをやらずにいきなり捕獲を始めてしまったために、科学的な分析ができなくなってしまいました。つまり、捕獲が生息数に与える影響が全然わからないのです。
実はこの現状は、都当局にとっては非常に都合が良く、どうにでも説明できる状態なのです。たとえば当局は「トラップで捕獲しなければ45,000羽以上に増えていただろう」と主張することもできるわけです。この説に従えば毎年1万羽増え続けることになりますし、逆算すると4年前にはカラスの数はゼロだったことになります。現実にはそんなことはありえません。都当局はこのことについて特にコメントはしていないようですが、うのみにしないよう注意する必要があります。

なぜ、1万羽以上捕獲してもカラスは減らないのか。その理由はすでにVol.117Vol.119で書いてきた通りです。つまり、「トラップ捕獲で減少した分は、他地域からの流入や、繁殖率の上昇で帳消しになっている」からです。カラス捕獲の結果は、私が言ってきたことを証明することになったと言えるのです。
逆に、カラスを捕獲しないとカラスが増えるのかというと、それもちょっと考えにくいことです。動物の生息数は一般的に食べ物の量に制約されると考えられます。具体的な数字を持ち合わせているわけではありませんが、カラスの生息数は現状が上限に近いのではないかと私は推測しています。都当局は「カラスを捕獲しないとどんどん増えてしまう」と言うかもしれません。しかし、カラスが無限に増え続けることはありえませんし、それなりにゴミ対策が進んでいる現在、生息数が現状を大幅に上回るほどに増えるとは思えません。

一方で、発表にはゴミ対策が進展しているとも書かれています。これはカラス捕獲の評価をさらに難しくします。つまり、カラスを捕獲したから生息数が変化するのか、それともゴミ対策をすれば生息数が変化するのか、わからないのです。複数の対策を同時に進めるのは悪いことではありませんが、効果もよくわからないことを同時にやっていては後で評価分析ができません。「やったらやりっぱなし」というのはいかにも行政的ではありますがね。

ところで、発表をよく見るとゴミ集積所の被害率が減少していることが書かれています(11,000ヶ所→7,000ヶ所に減少)。カラスの生息数が減っていないのに被害率が減っているのです。これは「ゴミ出しの方法を工夫すれば被害は防げる。カラスの数は関係ない」ということを示しているのではないでしょうか。つまり「カラスを殺しても意味はない」ということでもあります。
ここで、そもそもカラス問題とは何かを思い出してください。カラスの被害とは、

・カラスがゴミをあさって散らかす
・繁殖期にカラスが人を襲う

の2つに限られます(もうひとつ挙げるならば「鳴き声がうるさい」)。「人を襲う」については現状のまま巣の撤去で対処するとして、「ゴミをあさる」についてはゴミ出し対策をすれば十分に減らすことができると考えられます。そして、わざわざ捕獲して殺すという意味の無い方法は完全に税金の無駄づかいと言えるのです。
以前から言っていることですが、本当に捕獲は必要なのか、問い直さねばなりません。
カラスの捕獲は今年も9月から始まります。今年度の捕獲目標数は13,000羽です。


[いきもの通信 HOME]