Vol. 187(2003/8/17)

[今日の勉強]「種」って何? 「類」って何? 分類の話

これまで約200回も書いてきたのに、肝心のことの説明を忘れていました。それは分類の話です。今回の話は生物のことを解説する上で最も基本的な用語ですので、知識として知っておくべきことなのです。

生物の分類の最も基本的な単位は「種」(しゅ)です。
私たちが普通に呼ぶ動物の名前がおおよそ「種」の名前に相当すると考えていいでしょう。例えば「ネコ」「ライオン」「ウシ」「ヒツジ」「アゴヒゲアザラシ」「アブラコウモリ」といったもの、これらは種につけられた名前です(日本語名なので、「和名」あるいは「標準和名」という)。また、それぞれの種には学名もつけられています。
「種」は基本単位であるにもかかわらず、その定義は現在も完全に確定していないという非常にあいまいなものです。現在、多くの生物学者が最も妥当な定義と考えているのは、「種とは、交配し、子孫を残すことができる生物集団である」というものです。イヌとキツネは似ていても交配不可能ですし、ライオンとトラもそうです。マガモとカルガモはよく交雑することが知られていますが、交雑個体に繁殖力は無いので(=子孫を残せない)、それぞれ別の種と定義できます。
ただし、例外は非常に多く、イヌとタイリクオオカミの交配・繁殖は可能であったりするなど、この定義は完ぺきなものではありません。それでも、現在のところは最も妥当な定義なのです。
「種」の定義は、「形態的に他と区別されるグループ」と言うことも可能です。この定義は現在では多くの学者は重要視していませんが、現実的には最も有効な定義です。だって、種の区別をするために毎回毎回交配の結果を見なければわからない、というのでは何もできませんから。ほとんどの生物は種ごとに特徴的な外見を持っており、実用的にはそれで十分分類できるのです。

さて、分類においては「種」よりもさらに上位の分類階級があります。生物種はそれこそ無数にありますので、複数の種をまとめてグループ化し、階層化した方がわかりやすくなります。そのためにも分類階級が必要になります。
分類階級を上位から順に並べると、「界」「門」「綱」「目」「科」「属」「種」となります。

界(かい)

全生物を分類する最上位の分類階級です。昔は「動物界」「植物界」に二分されていただけでしたが、現在では「動物界」「植物界」「菌界」「原生生物界」「原核生物界」の5つに分類する説が有力です。これを「五界説」と言います。
ちなみに、キノコを植物と思っている人は多いようですが、この分類では「菌界」になります。私たちが普通「キノコ」と呼んでいる傘状の物体は、植物では実にあたるものなのです。キノコの本体は、地中や倒木の中に菌糸状になって存在しています。
ところで、上の分類には「ウィルス」が含まれていません。ウィルスは生物の範疇に入るのかどうか今も議論が続いています。というのも、ウィルスには何かを食べて活動のエネルギーとする「代謝」の機能がないからです。「代謝」は生物と無生物の決定的な違いと考えられるため、ウィルスは生物ではないとされているのです。

門(もん)

「門」は生物全体で70以上もあります。詳細は省きますが、例えば哺乳類など脊椎動物は「脊索動物門」に分類されます。

綱(こう)

例えば、脊索動物門に含まれる綱を全部挙げるとこうなります。

ホヤ綱
タリア綱
オタマボヤ綱
ナメクジウオ綱
メクラウナギ綱
ヤツメウナギ綱
軟骨魚綱
硬骨魚綱
両生綱
爬虫綱
鳥綱
哺乳綱

ホヤ綱〜ナメクジウオ綱はなじみのないものばかりです。詳しくは図鑑などで調べてください。
メクラウナギ綱〜硬骨魚綱の4つは私たちが普通「魚類」と呼んでいるものに相当します。メクラウナギ、ヤツメウナギは外見はウナギに似ていますが、アゴが無く、吸盤のような口をしています。軟骨魚綱は名前では何のことだかわかりにくいのですが、ギンザメ、サメ、エイが含まれるグループです。硬骨魚綱は、メクラウナギ綱・ヤツメウナギ綱・軟骨魚綱を除いた魚全般ということになります。私たちがよく知っている魚のほとんどはここに分類されます。
両生綱・爬虫綱・鳥綱・哺乳綱については、私たちもよく知っている名前でしょう。普通は「哺乳類」のように「類」で呼ばれることが多いのですが、学問的に正しく言うなら「哺乳綱」と呼ばねばならないのです。

目(もく)

例えば哺乳綱に含まれる「目」には、有袋目、食肉目、霊長目…といったものがあります。
この「目」のレベルでも「霊長類」のように「類」と呼ばれることがあるので注意が必要です。

科(か)

例えば哺乳綱食肉目に含まれる「科」には、イヌ科、クマ科、ネコ科…などがあります。
「目」「科」は比較的よく使われる分類階級です。

属(ぞく)

「科」の下の段階、「種」の上の段階の分類階級です。
意外となじみのない名前かもしれません。例えばイヌ属にはイヌ、コヨーテ、タイリクオオカミ、キンイロジャッカルなど9種が含まれます。学名の最初の語は属の名前がつけられます。つまり、イヌ=Canis familiaris、コヨーテ=Canis latrans、タイリクオオカミ=Canis lupus、といった具合になります。「Canis」の部分が「イヌ属」を意味します。

私たちが普通使っている恐竜の名前、例えば「ティラノサウルス」「ステゴドン」「トリケラトプス」などは、どれも種の名前ではなく属の名前です。一般的に、古生物の名前は属の名前が使われます。昔の生物は、証拠となる化石が不十分なことが多く、「属」「科」レベルの分類はできてもそれ以上のことはわからないことが多いためです。完全な骨格がいくつも見つかっている場合は、種の名前が付けられる場合が多くなります。


ところで、分類階級には「亜種」というものがあります。
これは「種」のひとつ下の分類です。「亜種」の定義はかなり明確で、「地理的に隔離されていて、他の亜種と外形的に区別できるグループ」というものです。「地理的に隔離されている」というのは特に重要で、どんなに外形に変異があっても、同じ場所で見られるものは亜種とは言いません(そんなことがあるのか?と思われるかもしれませんが、昆虫ではよくあることです)。

もうひとつ、進化と分類の関係についての説明もしておかなければなりません。現在の分類方法では、「同じグループに属するものは同じ起源を持つ」ということが原則になっています。これはどの分類段階でも言えることで、
・イヌ属のイヌ、コヨーテ、タイリクオオカミ、キンイロジャッカルなどは祖先が同じ
・食肉目のイヌ科、クマ科、ネコ科…などは祖先が同じ
・哺乳綱の有袋目、食肉目、霊長目、齧歯目…などは祖先が同じ
ということなのです。

分類階級は実際にはさらに細分化されていて、「亜綱」「亜目」「亜科」…とか「上目」「下目」とかいろいろあります。が、これらは専門的すぎるので無視していいでしょう。今回説明したものだけを、とりあえず頭に入れておけば実用上問題ありません。


さて、この「いきもの通信」を書いていると、ときどき分類階級の表現に迷うことがあります。
「哺乳類」と書くべきか、「哺乳綱」と書くべきか。この場合は、一般的な「哺乳類」という表現を使うことにしています。ただ「類」という言葉はあまりにも万能であるがために、どんな分離階級にでも使えてしまうという問題があります。例えば、「イヌ類」とあった場合、それは「イヌ科」のことなのでしょうか?「イヌ属」のことなのでしょうか? このようなあいまいな書き方は避けるために、「いきもの通信」では分類階級は正確に書いていくことを方針にしています。
同じように、「種類」も避けたい言葉です。最近も「都会にいるコウモリはアブラコウモリという種類です」とか「日本で見られるカメは、主にミシシッピアカミミガメ、クサガメ、ニホンイシガメの3種類です」とか書いてしまっていますが、どれも正確には「種」と書くべきところです。「種」でも「種類」でも意味は通じるのですが、書いている時にはいつも一瞬「どっちにしようか?」と迷ってしまうのです。今後は「種」に統一して書いていきたいと思います。


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