「飼い犬を捨てた主婦を書類送検」という新聞記事が最近ありました。ペットを捨てるのは犯罪なの?と驚いた人もいるでしょう。そうなんです、立派な犯罪なんです。
事件の概要はこのようなものです。新聞に載ったのは9月20日です。
今年7月、主婦が転居した際、転居先ではペット飼育禁止だったため、飼い犬3頭を捨てることにした。公園で首輪をはずして放し、自転車で振り切って逃げた。3日後、転居前の住宅前に2頭がいるのが発見され、警察に拾得物として届けられた。大阪府警鶴見署は「動物愛護法」違反で主婦を書類送検した。
主婦は「保健所に連れて行けば殺される。誰かに拾ってもらったほうがいいと思った。」と供述した。
ちなみに犬種は3頭ともコリー。
この事件、容疑は「動物愛護法」(動物の愛護及び管理に関する法律)違反です。ペットを捨てるのはダメ、とちゃんと法律に書いてあるのです
第二十七条 愛護動物をみだりに殺し、又は傷つけた者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
2 愛護動物に対し、みだりに給餌又は給水をやめることにより衰弱させる等の虐待を行つた者は、三十万円以下の罰金に処する。
3 愛護動物を遺棄した者は、三十万円以下の罰金に処する。
4 前三項において「愛護動物」とは、次の各号に掲げる動物をいう。
一 牛、馬、豚、めん羊、やぎ、犬、ねこ、いえうさぎ、鶏、いえばと及びあひる
二 前号に掲げるものを除くほか、人が占有している動物で哺乳類、鳥類又は爬虫類に属するもの
ほら、書いてあるでしょ。「捨てる」以外にも、「殺す」「怪我をさせる」「食べ物を与えない」といった虐待行為はダメなのです。
ただ、「捨てペット」が警察沙汰になった例は珍しいはずで、私の記憶にもありません。なぜ珍しいのかというと、捨てられたペットを発見しても飼い主を特定することは難しいからです。また、イヌやネコの場合は、野良犬、野良猫との区別が難しいということもあります。本当の野良なのか、元ペットなのか、区別はつきませんからね(外国の品種ならばおそらく元ペットだろうとの推理はできますが)。また、「捨てた」のか「逃げた」のかはっきりしないこともあるでしょう。実際は捨てたのに、「逃げ出したんです」と主張してごまかすこともできるからです。
警察沙汰になることは少ない「捨てペット」事件、これまでは私は「警察が本気で扱っていないのでは?」と思っていました。しかし今回の事件で明らかになったように、容疑者が特定できれば警察も動くということが示されました。ただ、すべての警察署が正しく対応できるかというとそうでもないような気もします。「捨て犬は警察じゃなくて保健所に持って行ってね」と言われるような気がするのですよね。警察の皆様もこの法律をきちんと正しく理解されるようお願いするしかありません。ところで、上に引用した法律の後半、「愛護動物」の定義についてですが、よく読むと「愛護動物」という言葉はこの条項だけにしか適用されないんですね。同法では、他では「動物」とだけ書かれています。その「動物」の定義は第八条に「動物(哺乳類、鳥類又は爬虫類に属するものに限り、畜産農業に係るもの及び試験研究用又は生物学的製剤の製造の用その他政令で定める用途に供するために飼養し、又は保管しているものを除く。以下この節及び次節において同じ。)」とあります。「愛護動物」の定義とだいたい同じと考えてよさそうです。
ここで確認しておきたいのは、「動物愛護法」における「動物」とは、人間の管理下にある動物のことである、ということです。つまり、人間の管理下にはない「野生動物」はこの法の適用外であることに注意してください。これを理解しておかないと混乱するだけです。「動物愛護法」のひとつの大きな要素は「動物取扱業者」についてです。「動物取扱業者」とは、動物の販売、保管、貸出し、訓練、展示などを行う業者と定義されています。主にペットの卸、小売り業者が対象です。
そのような業者に対してではなく、「捨てペット」のように個人が罰せられる行為を他にも探してみました。
第十五条 都道府県知事は、多数の動物の飼養又は保管に起因して周辺の生活環境が損なわれている事態として環境省令で定める事態が生じていると認めるときは、当該事態を生じさせている者に対し、期限を定めて、その事態を除去するために必要な措置をとるべきことを勧告することができる。
2 都道府県知事は、前項の規定による勧告を受けた者がその勧告に係る措置をとらなかつた場合において、特に必要があると認めるときは、その者に対し、期限を定めて、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。
3 都道府県知事は、市町村(特別区を含む。)の長(指定都市の長を除く。)に対し、前二項の規定による勧告又は命令に関し、必要な協力を求めることができる。第二十九条 次の各号のいずれかに該当する者は、二十万円以下の罰金に処する。
三 第十五条第二項の規定による命令に違反した者動物の愛護及び管理に関する法律施行規則
第十一条 法第十五条第一項 に規定する環境省令で定める事態は、次の各号のいずれかに該当するものが周辺地域の住民(以下「周辺住民」という。)の日常生活に著しい支障を及ぼしていると認められる事態であって、かつ、当該支障が、複数の周辺住民からの都道府県知事に対する苦情の申出等により、周辺住民の間で共通の認識となっていると認められる事態とする。
一 動物の飼養又は保管に伴い頻繁に発生している動物の鳴き声その他の音
二 動物の飼養又は保管に伴う飼料の残さ、動物のふん尿その他の汚物の不適切な処理又は放置により発生している臭気
三 動物の飼養施設の敷地外に飛散する動物の毛又は羽毛
四 動物の飼養又は保管により発生する多数のねずみ又ははえ、のみその他の害虫
これには思い当たる人もいるかもしれません。「イヌやネコを大量に飼育して、近所に騒音や悪臭などの迷惑を及ぼしている」という事件は過去にもいくつか例があることです。これは「ちゃんと世話をしている」ので「捨てペット」ではありませんし、「虐待」とも証明しにくい状態です。先に紹介した第27条には当てはまらないのです。わざわざ独立した条文に書かれているのはそのためなのです。
「動物愛護法」に書かれている、個人がやってはいけないこと(罰則をともなうもの)は以上で全部のようです。
まとめると、
「殺す」「怪我をさせる」「食べ物を与えず衰弱させる」「捨てる」「たくさん飼育して近所迷惑」
は法律違反です。発覚すれば警察のお世話になります。
これらは飼育動物に対してのものですが、野生動物についても「鳥獣保護法」で「殺す」「怪我をさせる」は禁じられています。