2003年版 東京都内編
今年の某公園でのトンボ探索についてはVol.199に書きました。この公園で見られる種類はだいたい見てしまったと思われるので、今年は他所へも行ってみることにしました。主に東京都23区内ですが、それでも収穫はありました。
ギンヤンマ
(写真はオス)
トンボを注意して見ていない人にとっては、ギンヤンマは珍しい種類と思われるかもしれません。しかし実態は逆で、東京都23区内でも普通に見られるトンボです。ある程度の大きさの池があれば確実に生息している種類です。例えば、代々木公園、日比谷公園でも目撃できました。どちらも都会のど真ん中にある公園で、そんなにトンボがいるとは思われていないでしょう。
ところが、ギンヤンマが捕まえやすいかというと、そうではありません。上の写真は、東京都23区内某公園で、暑い暑い夏の炎天下で1時間近くねばってやっと捕まえたものです。こんなにも大変だとは思いもしませんでした。ギンヤンマ捕りには伝統的な方法がいくつかあるのですが、来年はそれも試してみようと思います。
ギンヤンマの「ギン」は「銀」のことで、腹のつけねの下部の白い部分を指している、と言われているようです。体全体のほんの小さな部分ですので、この説が本当かどうかははっきりしません。ただ、かなり遠くで飛んでいるところを肉眼で観察すると、胴体全体が明るく、白っぽく見えるのは確かです。ある程度近づかないと、緑や青の色まではなかなか判別できないものです。オニヤンマ
(写真はオス)
ギンヤンマとは逆に、東京都区部(とその隣接地域)ではかなり数が少ないのがオニヤンマです。というのも、ヤゴの生息環境が限られるからです。まず、小川であること(水深は浅い)。水質はある程度良いこと。川底は砂利か小石、砂であること。日当たりが良いこと。そのような場所をヤゴは好むのです。たとえば、側溝のようなところや三面コンクリート張りの場所ではまったくダメなのです。さらに、ヤゴの期間は3〜4年とされており、流量は安定している方がさらに良いと言えるでしょう。こんな場所は東京都23区内にどれほどあるでしょうか?
上の写真は調布市内某公園で捕獲したものです。ここにはわき水があり、そこにオニヤンマがいたのです。最初その場所を見た時、「ああ、ここはオニヤンマが好きそうな場所だなあ」と思ってしばらく待ってみたら、本当にオニヤンマが流れに沿って飛んできたのでした。このわき水が川に注ぐまでの距離はかなり短いのですが、確かにオニヤンマは生息しているのです。
ところで、オニヤンマは日本最大のトンボです。全長は10cmにもなります。この大きさは、明らかに他のトンボから飛び抜けたものです。全長8cmのギンヤンマも大きいと感じるのですが、それと比べてもかなり大きな印象です。あまりにも大きすぎて、写真に撮りにくかったほどです。
しかし、翅の長さはギンヤンマと比べてそれほど大きくはありません。その代わり、他のトンボと比べると、腹がかなり長いのです。オニヤンマは全体にひょろ長い感じに見えます。ナツアカネ
都会でも比較的普通に見られるはずなのですが、なぜか今まで見る機会がなかったのがナツアカネです。ようやく見つけたのは葛飾区内某公園にて。アキアカネに似ているけれど、胸が赤く、眼の上面も赤が強い、それがナツアカネ♂です。
ナツアカネ♀はアキアカネ♀と非常によく似ていて、いくつかの判別方法を知っていなければいけません。胸の模様、腹部の太さ、腹部の模様、といったところで判別します。
さて、アキアカネ属(アキアカネはどこにでも普通にいるので除外する)に注目してみると、この葛飾区内某公園はノシメトンボが多く、ナツアカネも普通にいます。一方、いつも私が定点観察をしている某公園ではコノシメトンボが多く、ノシメトンボがかなり少なく、ナツアカネはまったくいません。何か特別な環境の違いがあるとも思えないのに、現れる種が違っているというのは不思議なことです。アキアカネ属は局地的に生息分布がかたよる傾向があるのかもしれません。マイコアカネ
(写真はオス)
これまた葛飾区内某公園で捕獲しました。
その公園の舗装された小道を歩いていた時のことです。道の上に赤いトンボがいました。アキアカネかと思ってそのまま無視しようかと思いましたが、たまたまトンボの顔がこっちを向いていて、青い額がはっきり見えたのです。おおっ、これがあのマイコアカネ! すばやく捕獲しました。マイコアカネ♂の特徴は青い額、これが舞妓に例えられて名付けられたそうです。でも、顔が青いのはメスではないんですよね。
それにしても、顔に気付かなければ見逃すところでした。全長4cm以下のトンボの顔を瞬間的に判別したのですから、私の目もなかなかのものです(自画自賛)。
ただ、最初に見た時にもっと注意するべき点があったのも確かです。まず、アキアカネよりわずかに小さめだったこと。ほんの数mmの差ですが、わずかに小さいという印象はありました。また、赤味がアキアカネとは異なり、赤黒い感じでした。そして、アキアカネは地面にとまることはありません。こういったことは最初に見た時に瞬間的に気付いていたのですが、それを未知のトンボとは結びつけられませんでした。このマイコアカネが向こうを向いていたら、おそらく見逃していたでしょう。
地面にとまっている、というのもよく考えると不思議な生態です。捕獲したマイコアカネを逃がした後、どこに行くだろうかと追跡してみると、地面に生えている草にとまっていたりしていて、高いところに行こうとしません。手元の文献にもこのような行動については何も書かれていません。本に載っている写真を見ても、まわりの環境がよくわからないのでなんともいえません。次に出会う時にも行動を注意して観察してみようと思います。
場所を変えてみると、見られるトンボの種も変わってきます。コシアキトンボやシオカラトンボはどこででも見られるのですが、上に書いたアキアカネ属のように局地的に生息種が違っている場合もあります。
また、トンボのヤゴは特定の水環境を好む傾向もありますので、いろいろな場所で観察をした方がいろいろな種に遭遇できる可能性も高くなります。
というわけで、来年もあちこち歩き回りたいと思っています。が、ねえ…(T_T)。