アニメ番組やその他のテレビ番組のCGなどで、時々チョウが飛んでいるシーンがあります。その映像は、私から見ると非常に違和感を感じるものです。例えば、そういった映像の中ではこんな風にチョウが飛んでいます
「これのどこが問題なの? これで正しいでしょ?」
と、普通の人は思うことでしょう。アニメやCGではこういう映像ばかりですので、皆さん何の疑問を持っていないようです。
では、実際のチョウがどのような飛び方をするのかというと、こうなります。違いがわかりますか? わからない?
前翅と後翅の位置関係を注意して見てください。「間違った飛び方」では、前翅と後翅が重ならないようになっています。「正しい飛び方」では、前翅と後翅が一部重なるような位置になっています。
実際にチョウが飛んでいる姿はなかなかじっくり観察できないものです。そこで、チョウがとまっているところですが、証拠写真もご覧ください。どのチョウも翅を開いた状態はこれと同じようなものになります。この写真を見て、「この姿は図鑑に載っているチョウの写真やイラストとは違う」ということに気がついた方がいるかもしれません。図鑑などでは、例えばこんな感じの写真やイラストになっているはずです。
実は、この形は「展翅形(てんしけい)」と呼ばれるものなのです。チョウを標本にする時に、前翅、後翅の全体が見えるように翅の位置を動かした形、それが「展翅形」です。ですから、これは「チョウの翅の模様全体を見せる」という意味では正しい形状であり、標本としては正当な見せ方なのです。
しかし、チョウをこの展翅形のまま飛ばすのは誤りです。それはつまり「標本が飛んでいる」ことになるからです。
アニメやCGの製作者は、図鑑に載っている通りに作画しているのでしょう。「図鑑は正しい」と思いこんでしまうために、こういう誤りをしてしまうのです。もちろん、図鑑も間違っているわけではありません。ですが、「本物をよく観察する」という自然観察の基本があったならばこんなことにはならないでしょう。さて、なぜチョウは前翅と後翅を重ねるようにして飛ぶのでしょうか。
まず、前翅の前縁に注目して見てください。前縁が胴体からほぼ真横にのびているのがわかります。翅全体の中で、最も強度が強い部分はこの前縁の部分です。実際にさわってみると、この部分には固い軸が通っているのがわかるはずです。これは他の昆虫もそうですし、鳥やコウモリの場合は腕・手の骨がこれにあたるわけです。これらの動物はこの軸を動かして羽ばたいているのです。最も効率良く羽ばたくには、この軸=前縁を真横の位置に持ってくるのが一番いいのです。これは力学的な証明ができると思うのですが、私には無理ですので省略します。
また、チョウが前翅と後翅の一部が重なるように羽ばたくのは、2つの翅を一体化して、空気を効率良くとらえるためではないかと思われます。
これからアニメやCGでチョウが登場したら、その飛び方に注意して見てみましょう。間違っている例の方がずっと多いことがわかるはずです。
そして、本物のチョウも観察して、その飛び方を自分の目で確認してみてください。