[2004年4月26日 朝日新聞(東京版)夕刊]
厚生労働省研究班の推計によると、狂犬病予防ワクチンの接種率が5割を切った。イヌを飼う時には市町村に登録しなければならないが、最近のペットブームでは登録を怠っている人が多いと見られる。接種率が低いとイヌの間で狂犬病が流行する可能性もあるという。
[2004年4月27日 朝日新聞(東京版)夕刊]
自民党の「動物愛護に関する小委員会」では、ペットの皮下にマイクロチップを埋め込むことを飼い主に義務づけることを動物愛護法改正案に盛り込むことを検討している。
マイクロチップは直径2mm、長さ11〜13mmのガラスカプセルにICチップとコイルが内蔵されている。読み取り機を近づけると、チップに記録されている15ケタの数字を読み取ることができる。
朝日新聞の夕刊に、2日続けて似たような記事が登場しました。しかも両方とも1面トップです。普通ならこんないい扱いは受けない内容ですし、1つにまとめられてしまうこともあるでしょう。それをわざわざ2日連続で、トップで詳しく紹介しているわけですからなかなかの待遇です。
では、順に記事の解説をしていきましょう。まず、狂犬病予防接種率の低下について。
「イヌを飼う時は、飼い主は必ず市町村に登録しなければならない」ということをご存知でしょうか。そして、「飼い主は飼い犬に狂犬病予防注射を受けさせなければならない」ということもご存知でしょうか。困ったことに、知らない人、けっこう多いみたいなんですよね。これは「狂犬病予防法」という法律で決められていることです。罰則もあります。登録しなかった場合、予防注射を受けさせなかった場合、いずれも罰金20万円以下となります。ええ〜っ、と驚く人もいるでしょう。登録してない人そして予防注射をさせていない人は気をつけてください。行政当局から訴えられた場合はまず勝ち目はありません。いますぐ登録しましょう!予防注射やりましょう!
ですが、冷静にこう考えた人もいるでしょう。「でも罰金払ったって話、聞いたことないぞ」と。
そうなんです。私も聞いたことありません。実は、この「狂犬病予防法」、関係者の間では「ザル法」として有名な法律なのです。記事によると、日本のイヌの飼育頭数は推定約1000万頭(きちんとしたデータがないので推測するしかない)。イヌの登録数は578万頭。40%以上のイヌは登録されていないわけです。さらに、狂犬病ワクチンを接種したのは461万頭。登録しても予防注射をしない人がいるのです。
接種率の低下は、日本国内ではこのところ狂犬病の発症例がないため、危機感が薄れてしまっているのが主な原因です。また、厳格に罰則を適用していないことも事態を助長させています。
ただ、世界的には毎年約5万人の死者がおり、撲滅にはほど遠い感染症なのです。いつ日本でも発症例が現れるかわかりません。そして、予防接種率が現在のように低いままだと感染が拡大する危険性も高くなるのです。狂犬病に感染するのはイヌだけではありません。人間にも感染しますし、ネコなど哺乳類全般に感染します。日本の現状は非常に危険なのです。では、どうすればいいのか。
それは予防接種を強制することです。
そして、それを可能にするには、まずすべての飼い犬を登録させることです。
これが2番目の記事「マイクロチップの義務化」につながるわけです。マイクロチップを扱うことになる法律は「動物の愛護及び管理に関する法律」(動物愛護法)です。先ほどの「狂犬病予防法」とは異なりますが、飼育動物に関すること全般を扱うという点では動物愛護法の方がふさわしいといえるでしょう。狂犬病以外の感染症にも対応できるのですから。
こちらの記事で重要なのは「義務化」という点です。「狂犬病予防法」の実態をふまえると、強制力の無い法律では意味がありません。おそらく、罰則の強化や、販売店(業者)、病院などを通じての飼育状況の捕捉(例えば証明書などの発行によって)といった事が検討されているのではないかと思います。今度ばかりは「ザル法」にさせないための方策を練ってくるでしょう。登録していない飼い主さん、覚悟しておきましょう!
狂犬病予防法との関係は不明ですが、何らかの方法でリンクされるのではないかと思います。そうしないともったいない制度です。
このところ、ダックスフンドやチワワのブームが続いたせいで、イヌを飼う人がかなり増えてきました。動物を飼育するということについての責任感が薄い人というのはいつの時代にもいるものですが、最近はそのような人がいっそう増えているように見えます。
イヌを飼う前に本や雑誌で情報収集しない人はかなり多いようでしょう。また、その本や雑誌でも登録や予防接種のことをちゃんと書いていないものがあります(けっこうありそうな感じ)。その結果、ちゃんとした心構え無しにイヌを飼ってしまうのです。これこそ「衝動買い(飼い)」です。
イヌでもネコでもどんな動物でもそうなのですが、動物を飼うということは生命を預かるということです。半端な知識、半端な心構えで飼育してほしくないのです。厳しいことのようですが、本当に動物のことを思うのならこの程度は当然のことなのです。
動物はおもちゃではありません。癒しの道具でもありません。