Vol. 246(2004/11/21)

[今日の事件]「クマにドングリ作戦」は「大失敗」である

私は朝日新聞を購読しているのでしばらく気がつかなかったのが今回の事件です。どうも読売新聞だけで盛り上がっているみたいで、記事原文を探すのに手間取ってしまいました。一連の記事は読売新聞中部支社発のものですが、全国的に掲載されたのでしょうか? 事件の記事は下記にリンクしておきましたので、経緯を知るためにもざっと目を通してください。


さて、この事件の発端は10月18日付けの記事でした。
食べ物が不足しているツキノワグマのためにドングリを寄付してください、と自然保護団体「日本熊森協会」(兵庫県西宮市)が呼びかけている、という内容です。
ところが、20日にはこんな事態になってしまいました
各地からドングリが大量に送られてきた上、問い合わせも殺到。ドングリ集めを中断することになりました。それでもこの時点ではドングリを奥山に運ぶことは行うつもりでいました。
その後さらに事態は変わり、23日にはこのような記事が載りました
専門家からの指摘により、福井県でドングリをまくことは中止したのです。しかし、富山県ではまいています。
その後、このような記事も出ています

「日本熊森協会」のホームページには今回の件についてのコメントが載せられています(2004年11月現在)。


「クマにドングリ作戦」にはさまざまな賛否が論じられています。ここで整理してみるとこうなります。

賛成側

・極端な食べ物不足となっている今年のような場合は、緊急的な措置として必要である。
・過去にも実施しているが、特に問題は起きていない。
・「生態系を破壊する」との指摘については、既に人間によって生息環境が破壊されている現状では意味がない。
・ドングリは煮沸消毒することで、害虫などの影響は抑えている。

反対側

・ドングリをまいてもネズミやリスの食べ物となる可能性が高く、効果は薄い。
・他地域の植物を持ち込むことは遺伝子の撹乱になる。
・豊作不作は人間が調整できることではなく、自然にまかせるべき

賛否それぞれもっともなご意見です。
そこで、読者の方は私の見解が気になるでしょう。私の見解はいたって明解です。それは、

「野生動物に食べ物を与えてはいけない」

ということです。これは以前にも言っていることです(「Vol. 101(2001/8/26) [OPINION]動物にエサをあげてはいけません!」)。つまり私は反対側の立場になるわけです。また、本格的なクマ対策についての提言は、「Vol. 241(2004/10/17) [今日の事件]クマ被害相次ぐ/殺せば問題解決か?」で言っていますのでここでは繰り返さないことにしましょう。
ただ、「食べ物を与えてはいけない」では直近の危機には対応できないのは確かです。もし容認できるとすれば「専門家の指導の元、実行者が現状をよく把握しているフィールドで、少量ずつ試していく」という方法です。実は、これは日本熊森協会が兵庫県(とその周辺?)でやっていることです。この程度なら私もうるさくは言わないでしょう。ところが今回は、彼らのフィールドを離れた北陸で、しかも多量のドングリをまくというのですから話は違ってきます。これは容認できないものです。

ツキノワグマを保護するための根本的な方法は「生息環境を回復させる」ということにつきるでしょう。例えば、クマが食べ物とする果実がなる樹木を山に植える、など山の植生を整えることです(これも「間接的に食べ物を与えている」ことにはなりますが、人間が破壊した環境を元に戻すのは容認できる範囲です)。こういうことは日本熊森協会も認識していることと思います。
「限られた範囲で少しずつ試すのは許容範囲」「生息環境を回復させる」という私の意見、これは実は日本熊森協会の意見とあまり違っていないのです。ただ、今回の「クマにドングリ作戦」は失敗であることを彼らははっきりと認識してほしいと思います。
その理由は、
「クマにドングリを与えれば問題解決=野生動物にエサをあげてもいいんだ」
という誤解を広く世間に与えてしまったからです。

これは短絡的な考え方で、長期的には何の役にも立ちません。今回の騒動を日本熊森協会が喜んでいるとしたらそれは大きな誤りです。取り返しのつかない誤解を広めてしまったことを反省すべきなのです。(そしてまた、全国紙に載るということの影響の大きさも認識してほしいです。)

私が思うに、自然保護系のNPO法人がすべきことは、専門家との協力、地道な調査活動、行政当局へのアドバイス・交渉、世論への啓蒙といったことです。どれも地道で大変なことです。今回の「クマにドングリ作戦」のように「何かせずにはいられない」という気持ちはわかりますが、短期的な問題解決方法ではなく、長期的な視野に立った解決方法を行うべきなのです。
日本熊森協会には冷静な反省を求めます。


ところで、日本熊森協会によると今回の「クマにドングリ作戦」は「専門家にも相談しながら」やっていると弁明しながら、同ホームページの『「特定外来生物による生態系等に係わる被害の防止に関する法律案」に対する見解』では「学識経験者は、自己の研究関心から発言しているだけ(中略)彼らだけに任せると国は道を誤る」という矛盾した文言が載っていたりします。日本熊森協会は「専門家」を都合よく使い分けているようですね。結局、彼らは自分たちに心地の良い見解しか採用しないのではないか、と疑ってしまいたくなります。


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