Vol. 247(2004/11/28)

[今日の映画]クイール

映画「クイール」をDVDで見ました。原作は「盲導犬クイールの一生」(写真/秋元良平・構成、文/石黒謙吾・発行/文芸春秋社・ISBN4-16-357260-0)という本で、映画もそのタイトル通りクイールという盲導犬の一生を描いた作品です。監督は崔洋一。「月はどっちに出ている」や「血と骨」といった作品が有名なので、ほのぼのとした感じの「クイール」にはちょっと意外な感じがするかもしれません。
「盲導犬クイールの一生」はNHKでも同タイトルで2003年6〜7月に放映されています。これもDVDになっています。映画にもなることがわかっていたら、TVの方も見て比較すれば面白かったのですが、ついチェックを忘れていました。

さて、映画の内容ですが、「クイールという盲導犬の一生」との説明で十分です。もちろん、その一生の間には出会いあり、別れありの感動のストーリーがあるのですが、……泣けるかな〜?と思っていたわりには、粛々としていてあまり感動しませんでした。作品が悪いというわけではないんですがね〜。盲導犬を知ってもらうには格好のテキストになるでしょう。が、ある程度盲導犬を知っている人から見ると物足りない気分になってしまいそうです。

盲導犬の一生というと波乱万丈ありそうな雰囲気もありますが、その一生のレールはほぼ決められていて、どの盲導犬でもあまり変わりはありません。以下ではその典型的な一生を紹介してみましょう。
ところで、盲導犬協会は全国各地にあって、それぞれやり方や用語が微妙に違っていると思われますので、以下では日本盲導犬協会に準じて説明したいと思われます。

まず誕生の前に、盲導犬の犬種について説明せねばなりません。盲導犬の犬種はほぼすべてラブラドル・レトリーバーという種類です。まれにゴールデン・レトリーバーの盲導犬もいます。なぜラブラドル・レトリーバーかというと、まず体の大きさが理由のひとつです。小型犬では人間の手元からの距離が遠すぎますし、体力があまりありません。大型犬では大きすぎて人間の歩行の邪魔になります。もうひとつの理由は、性格の穏やかさ、従順さです。イヌにもいろいろありますが、その性格は犬種によってだいたい決まっています。人間への従順さが特に求められる盲導犬や警察犬の場合は、そういう性格が求められるわけです。中でもラブラドル・レトリーバーはおとなしく、従順なので盲導犬として選ばれたわけです。

さて、ラブラドル・レトリーバーならどの子でも盲導犬になれるというわけではありません。映画でも「血統が大事」と言われているように、盲導犬の血筋というのがあるようです。盲導犬候補の赤ちゃん犬は「ブリーディングウォーカー」(ブリーダー)と呼ばれる家庭で飼っているラブラドル・レトリーバーが産みます。
子犬は生後2ヶ月からはパピーウォーカーと呼ばれる家庭に預けられ育てられます。預かるのは1才の誕生日までです。
1才になった犬は訓練センターに入り、盲導犬としての適性をチェックします。ここで合格した犬が盲導犬の訓練に進みます。つまり、すべての犬が盲導犬になれるわけではないわけです。訓練は6〜10ヶ月あります。この間は盲導犬訓練士によって、必要なことがらをみっちりたたきこまれます。
一通りの訓練が終了したら、盲導犬を必要とする視覚障害者が訓練センターにいっしょに泊まり込んで4週間の共同訓練をします。こうして訓練に合格すれば晴れて正式の盲導犬になり、飼い主との生活が始まります。
さて、盲導犬にも当然寿命があります。犬の寿命は10年程度、最近は食事事情や医療技術のおかげでもっと長生きしますが、人間に比べると短いものです。そのため、10才前後を目処に引退することになります。人間でいうところの「定年」です。1頭の盲導犬が仕事をできる期間というのは長くて8年程度ということになります。盲導犬が引退したら、次の盲導犬が紹介され、再び共同訓練を経て新たなパートナーとなります。
さて、引退した盲導犬ですが、普通はリタイアウォーカー(退役犬飼育ボランティア)の家庭に引き取られ、余生を過ごします。あるいは、訓練センターで暮らす場合もあります。
これが盲導犬の標準的な一生です。出会いがあり、別れがあり。もうこれだけで感動しそうな話ができあがりそうです。しかも、クイールの場合はこの標準的な一生とはちょっと違った道を歩まざるを得なかった事情がありました(詳しくはDVDや本で確かめてください)。
盲導犬に興味のある方には「クイール」はおすすめの映画です。


さて、日本にある各地の盲導犬協会のホームページ一覧を以下に記しておきましょう。ホームページにはもっと詳しい情報も載っています。興味のある方はこちらもご覧ください。

財団法人日本盲導犬協会

財団法人 北海道盲導犬協会

財団法人 栃木盲導犬センター

財団法人 アイメイト協会

財団法人 中部盲導犬協会

財団法人 関西盲導犬協会

社会福祉法人 日本ライトハウス

社会福祉法人 兵庫盲導犬協会

財団法人 福岡盲導犬協会


「クイール」のような「感動モノ」の映画など普通は見ない私ですが、この映画だけはどうしても見ておきたかったのはある理由があったからでした。それは、音楽の担当が「栗コーダーカルテット」だったからです。栗コーダーカルテットは、その名前からも想像できるように、リコーダーを中心楽器にした4人組楽団です。実際は多重録音を使って、いろいろな楽器も盛り込んでいくので、とても面白く楽曲が仕上がっているのが特徴です。4人ともリコーダー以外の楽器を演奏でき、例えばピアニカ、サックス、ギター、トロンボーン、パーカッションなどなどとてもにぎやかです。テレビCMの曲をやっていたり、最近はNHK BSキャラクター「ななみちゃん」の音楽を担当したりしています。
で、私は栗コーダーカルテットの最初のアルバム発売当時からのファンなのでした。映画の音楽には初挑戦となるこの作品がどうなるか、とても気になっていたのです。結果的には、過剰な音響ではなく、ほのぼの感があふれるいい音楽になっていました。すべてが新曲ではなかった(一部、過去のアルバムの曲を再利用している)のがちょっと残念ではありますが。
「クイール」の音楽が気に入った方は、栗コーダーカルテットのCDもぜひ聞いてみてください。


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