「エサ=餌」という言葉があります。この「いきもの通信」ではこの「エサ」という言葉は慎重に避けるようにしています。それでも文脈の流れで使わざるを得ない場合や、話をわかりやすくするために使う場合もありますが、とにかく避けるべき言葉なのです。では、その替わりの言葉は何かというと「食べ物」なのです。「食べ物」も「エサ」も同じようなものだと思っているようではいけません。これを区別できないようでは「動物に詳しい」なんて自慢はできません。
「エサ=餌」は、辞書を見ると次のように載っています。
(1)飼っている動物に与える食物。え。
(2)動物を誘い出して捕らえるための食物。え。
(3)人を誘惑するために用いる金銭や品物。え。
(4)食べ物・食事の俗な言い方。普通は(1)の意味で使うことが多いでしょう。つまり、エサとは動物、特に飼育動物に対して「与える」食べ物のことなのです。
文例をあげてみましょう正しい例
飼っているハムスターにエサを与える
飼い猫にエサを与える誤った例
野生のカブトムシのエサは樹液である
野生のパンダのエサは笹である誤った例では何がおかしいかというと、「野生動物」に対して「エサ」という言葉を使っているからです。しかも、この例では「与える」ものではありませんので(動物が自主的に食べているものだから)その点でも間違っているのです。正しくは「野生のカブトムシの食べ物は樹液である」という風に書かねばなりません。
飼育動物に対して「エサ」という言葉を使うのは問題はありません。ただ、これもつきつめると、「エサ」という言葉には動物に「くれてやる」という見下した意味をも含んでいます。ですから、ペットに対しての場合でも「ネコに食べ物を与える」と書く方がより適切だと私は考えています。
それでも、「エサ」という言葉を使った方が読みやすくなる、あるいは読み手にとってすっと読みやすい場合もあります。例えば、「野生動物に食べ物を与えないでください」よりも「野生動物にエサをあげないでください」という方が通りがよかったりするんですよね。どちらを使うのが適切かは私でも時々悩む難しい問題です。「いきもの通信」ではこんな細かい言葉のことまで気を使って書いているのです。
「エサ」という言葉はあまりにも普通の言葉であるため多くの人は気にもとめない言葉ではありますが、自然保護の立場からは非常にやっかいな言葉なのです。皆様も、特に動物好きを自認する方ならば気をつけて使ってください。
追記(2004/12/19)
念のため書き加えておきますが、「食餌」「採餌」といった言葉は用語として定着していますから使っても問題ないと思います。
私が問題にしているのは「餌」という漢字ではなく、「エサ」という言葉なのです。