1月31日、環境省は「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」について、「特定外来生物」の候補リストを発表しました。この法律に関してはオオクチバス(ブラックバス類)やセイヨウオオハナマルバチなどを指定するかどうかの論争がマスコミでも取り上げられることがあったため、どこかで耳にしたことがある方も多いでしょう。今回はこの法律について解説をしていきたいと思います。法律というと難しいものだと思われる方が多いでしょうが、なるべくわかりやすく解読してみようと思います。
法律の全文はこちらにあります。解説と合わせて読むと理解しやすいかと思います。また、環境省の外来生物法のページも参考になるかと思います(あー、ちなみにそのページの説明イラストは非常に下手くそです。ある意味一見の価値ありかも(笑)。予算をけちったに違いない。)。
法律の正式名「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」は長すぎるので、以下「外来生物法」とします。
法律の目的
法律というものは、まず最初にその目的が書かれています。第一条では次のように書かれています。
「この法律は、特定外来生物の飼養、栽培、保管又は運搬(以下「飼養等」という。)、輸入その他の取扱いを規制するとともに、国等による特定外来生物の防除等の措置を講ずることにより、特定外来生物による生態系等に係る被害を防止し、もって生物の多様性の確保、人の生命及び身体の保護並びに農林水産業の健全な発展に寄与することを通じて、国民生活の安定向上に資することを目的とする。」
なんだか難しい書き方をしていますね。まず「何をする法律なのか」というと「外来生物を飼ったり、栽培したり、所有したり、運んだり、輸入したりすることを制限する」ということ、そして「外来生物を駆除すること」ということになります。
では「なぜそうするのか」というと、「生物の多様性を確保するため=日本在来生物の保護」と「人間生活への被害、農林水産業の被害を防ぐため」ということになります。こう書くと少しはわかりやすくなるのではないでしょうか? 「国民生活の安定向上に資する」などという意味不明な文言がありますが、そういうのは無視してもかまいません(笑)。
以上をまとめると、「外来生物が増えるのをどうにかする」のが目的ということになります。外来生物の定義
法律は目的の次に各種の言葉の定義をするのが普通です。特殊な用語が頻出する法律ならば特に大切な項目になります。同法では第二条に定義がされています。
まず、「外来生物」は「海外から我が国に導入されることによりその本来の生息地又は生育地の外に存することとなる生物」と定義されています。そして「在来生物」は「我が国にその本来の生息地又は生育地を有する生物」と定義されています。簡単にいうと、「外来生物」=もともと日本にはいない動物で、日本に持ち込まれてきた生物
「在来生物」=昔から日本に生息している生物ということになります。
ここでもうひとつ大切な言葉が「特定外来生物」です。特定外来生物とは、外来生物の中でも各種の無視できないような被害をもたらしているものを指します。法律の名称に「特定外来生物」という言葉が入っていることからもわかるように、「特定外来生物」こそがこの法律の焦点になっているのです。基本方針
法律はただ定めればいいというものではなく、その目的を達するための方法についても定義しなければなりません。同法の場合それは「特定外来生物被害防止基本方針」になります(第三条)。この「基本方針」は環境省が定めるものです。その内容については、法律ががちがちに定めてしまうと運用上問題がありますので、かなり概論的な書き方しかされていません。
特定外来生物をどうするか その1
さて、第二章第四条以下がこの法律の核心となる部分です。ここでは特定外来生物について次のように書かれています。
・飼ってはいけない(第四条)
・輸入してはいけない(第七条)
・取引は禁止。無償譲渡も禁止(第八条)
・屋外に放したり、植えたりまいたりしてはいけない(第九条)
これはかなりきつい規制ですよね。もうペット店では扱えないということになりますし、個人で輸入して飼うのもダメです。
ただし例外はあって、研究目的の場合や、捕獲時に一時的に飼うことは認められています。
今回、報道などで話題になっているのは、「特定外来生物」にされると規制が厳しすぎて関連業界に影響があるからなのです。オオクチバス(ブラックバス類)の場合は釣り業界、セイヨウオオハナマルバチは農業(花粉の受粉に使用している)に大きな影響があるため特に大騒ぎになっているのです。もっとも、魚類の場合は釣りが禁止されるわけではないのでそれほど影響があるのか疑問です(このあたりの論争は複雑すぎるので省略します)。特定外来生物をどうするか その2
上記のような規制をしてもまだ対策は完璧ではありません。というのも、既に多くの外来生物が自然環境の中に存在しているからです(アライグマとかカミツキガメなど)。そのため、これらを駆除する施策が必要となります。それを定義しているのが第三章第十一条以下の部分です。ここは簡単にいうと「国が駆除します」ということです。しかし、実際の駆除作業は都道府県などの地方自治体や、駆除の実績のある民間企業・民間団体がやることになるはずで、これについては第十八条で書かれています。
ところで、駆除というと狩猟との関係が気になります。狩猟については「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護法)」でかなり細かく定められているのですが、これについては「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律の規定は、適用しない」(第十二条)とあっさり片づけています。とにかく鳥獣保護法よりも外来生物法の方が優先されるわけです。ただ、鳥獣保護法では都道府県が「鳥獣保護事業計画」というものを策定・実行しなければならないことになっていますので、実際の駆除ではこの計画と並立するような形で行われることになると思います。
ところで、同法には駆除の方法については具体的なことは書かれていません。そのようなことは対象となる生物によって異なりますし、地域事情とかいうのもあるでしょうから法律には書くことができないということです。そこまでは法律は面倒は見ないのです。「未判定外来生物」とは?
さあ、またまた新たな用語が登場してきました。「未判定外来生物」については第四章第二十一条以下から登場します。
「未判定外来生物」の定義は「在来生物とその性質が異なることにより生態系等に係る被害を及ぼすおそれがあるものである疑いのある外来生物として主務省令で定めるもの(生きているものに限る。)をいう」となっています。これまた難しい書き方ですね。簡単に書くと、「今のところは被害はゼロかそれに近いが、今後被害が発生する可能性の高い生物」ということになります。まだ日本にはあまり持ち込まれてはいないが、これからは持ち込まれないように規制する生物、とも言えます。
「未判定外来生物」については以下のように書かれています。
・輸入する場合には環境省が許可/不許可を判定する(第二十一条〜第二十四条)
これは事実上、輸入不許可にしてしまうための項目と考えていいでしょう。報道ではまったく触れられていませんでしたが、未判定外来生物の候補リストは非常に広範なものになっています。これについては次回あらためてとりあげましょう。
ところで、許可/不許可を判定して不許可になった場合、それは「特定外来生物」になってしまうのでしょうか? 同法を読む限りでは明記されていませんが、直ちに「特定外来生物」に指定されるようです。その他
第五章第二十五条以下は「雑則」として、こまごまとした決まりについて書かれています。ひとつだけ取り上げるとすれば第二十八条で、「国は、教育活動、広報活動等を通じて、特定外来生物の防除等に関し、国民の理解を深めるよう努めなければならない」と書かれてあります。ちゃんと実行されることを希望します。
また、第二十九条では主務大臣が環境大臣であることが書かれています。ただし、農林水産業がかかわってくると農林水産大臣も同等の立場となります。罰則
たいていの法律の最後に書かれているのが罰則です。同法の場合、罰則はかなり厳しいものとなっています。
例えば、同法の核心である「飼育・輸入・取引・屋外に放したり、植えたりまいたり」については「三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」(第三十二条)となっています。これは個人の場合についてであって、法人の場合はなんと「一億円以下の罰金刑」(第三十六条)という高額なものになっています。
同じような法律として例えば、「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護法)」では、無許可捕獲は一年以下の懲役又は百万円以下の罰金、「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護法)」では、動物虐待に三十万円以下の罰金となっているのに比べるとかなり重い罰といえるでしょう。
さて、以上が外来生物法の概要です。少しはわかりやすかったでしょうか。法律というものは、フォーマット化された文章と言えるもので、上記のように「目的〜定義〜各論〜雑則〜罰則」のようになっているものは多いのです。あとは、堅苦しい文言を解読していけば、法律を読みこなしていくことができるでしょう。
この外来生物法は、この文章を執筆時点ではまだ施行されていません。というのも、「特定外来生物」はまだ「候補」リストができたばかりで本決まりではないからです。それでも6月までには決定し、法律も施行されることになります。次回は外来生物法の焦点となった「特定外来生物」、そしてほとんど注目されていないが実は重要な「未判定外来生物」について解説します。そして、余裕があれば法律には明記されていない「種類証明書添付生物」と「要注意外来生物」についても説明することにしましょう。