Vol. 260(2005/2/27)

[OPINION]科学実験教室 VS 自然観察会

理科教育というと、10年ほど前からは「楽しい科学実験」が大きなトレンドになっています。科学の実験を面白く、より効果的に、より教育的にやってみようということで、各種の研究会(特にガリレオ工房の貢献は大きい)などがさかんに行われ、各種の本も出されています。「科学マジック」仕立てにした科学実験本が評判になったこともありました。「理科・科学離れ」が懸念される今、こうした「楽しい科学実験」がそれを食い止めてきた功績は評価されるべきです。
ただ、その一方で割を食ってしまったのが生物・地学の分野です。科学実験は物理・化学に関するものがほとんどで、生物・地学についての教育方法の研究はそれに比べて大きく後れを取っていると言わざるを得ません。

生物に話をしぼってみますと、生物学を教えるのが難しい理由はいくつか考えられます。
まず、地域差があるということ。日本は南北に長く、海や川や湖があるかないかなどといった非常にローカルな地域差がたくさんあります。極端な話、校区が違えば生息する生物も違ってくるのです。そのため、あまり一般化してしまった教育方法では地域事情に十分応えられないのです。
都会の場合、周囲に適当な自然がないというのも問題かもしれません。実際は、私がいつも言っているように都会にもたくさんの自然は存在し、多くの動物が暮らしています。これは工夫次第で解決できることです。
それから、先生に生物体験が少ないということ。先生自身が昆虫とか鳥とか植物に興味を持っていればいいのですが、必ずしもそうではありません。特に小学校の先生はあらゆる教科の面倒を見なければならず、生物のことばかり考えるわけにもいかないでしょう。
生物学はアウトドアが原則、というのも教える場合には問題になるでしょう。物理・化学の実験はインドアでできますが、生物学は外に出て観察しなければなりません。これって、時間はかかるし、生徒の行動も監視しないといけないので先生の負担は大変なものであろう事はよく理解できます。
物理・科学実験との違いといえば、生物学では「必ずこうなる」という正解が無いことも教える側にとってはやっかいなことでしょう。実験ならば、条件をそろえれば結果は必ず同じになります。ところが生物の場合は、「どこそこに行けば、あの動物が見れる」という情報があっても、100%間違いなく見ることができるかというとそうではないのです。何らかの事情で見ることができないということは普通にあることです。観察情報を蓄積していけばかなり情報の確度は高くなりますが、それでも100%というのはありえないことです。ただ、これは逆に意外な予想もできない生物を目撃できる可能性もあるということでもあります。それはそれでうれしいことですが、事前に予習ができないわけで先生にはやっかいなことでしょう。結局、生物を教えるにはかなり広い知識が要求されるわけです。

科学教育に話を戻しますと、最近は子供向けの科学実験教室というものが少しずつですが各地に登場しつつあるようです。また、各地の科学館などでも同様のものがあるようです。私が住む近所にも科学実験教室があるようで、新聞に折り込み広告が入っていたことがありました。ただ、当然のことながらそのカリキュラムはインドアの物理・化学実験ばかりのものでした。やっぱり生物・地学はこういうものには向かないようですね。
しかし、一方で自然観察会といったものも各地で開催されているのも事実です。有名なものでは日本野鳥の会などがあります。自然観察会はどちらかというと大人を相手にするものが多いのですが、子供が参加しても楽しいものでしょう。また、子供向けの自然観察会というものも可能です。つまり、子供向けの生物学教室というのも不可能なものではないのです。

科学教育の中では生物分野は遅れているのは確かですが、今後もっと工夫の余地のある面白い世界であるのは確かです。先生たちや専門家たちが協力しあって、科学実験にも負けないような教育メニューを作っていくことができればいいですよね。
私もこの「いきもの通信」で、学校教育でも役に立つような観察方法を紹介していきたいと思っています。


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