[ON THE NEWS]
東京都墨田区の荒川河川敷で、ホームレスの男性が飼っているウサギが大繁殖をしている。堤防を管理する荒川下流河川事務所(国土交通省)は、ウサギが掘った穴で堤防が崩れるおそれがある、として2月22日からウサギが逃げないように柵を設置する工事を始めた
(SOURCE:朝日新聞(東京版) 2月21日付)[EXPLANATION]
これまた少し前の事件で、しかも東京ローカルだったので知らない方も多いかもしれません。事件といっても大したことはないのですが、いろいろな問題提起を含んだものだと私は思います。
まず、事件内容を補足しておきましょう。新聞記事によると、男性は7年前からホームレスになり、2年前からこの場所に住みつきました。その時、知人からウサギ7匹をもらい、飼いはじめました。最初は柵を作って囲っていたのですが、台風で壊れたためウサギは外に出るようになりました。ウサギは丁重に飼われていたようで、記事が書かれた時点では約70匹いたとのことです。
ちなみに、ウサギの品種はある情報筋によるとドワーフ種などちゃんとした(という表現でいいのか?)ものだそうです。さらにちなみに、家畜ウサギ(=カイウサギ)はすべて種アナウサギ(Oryctolagus cuniculus) が起源になっています。アナウサギは名前の通り地面に穴を掘って巣・ねぐらにします。その性質は家畜化されても残っており、野外で飼うとその事実がはっきりとわかります。今回の事件がまさにそうだったわけです。普通は室内でケージ飼いされることが多いので多くの人が忘れてしまっている生態です。
穴を掘るという生態の結果、堤防が破壊されるおそれもあるわけですが、荒川下流河川事務所は「動物は専門外」となぜか及び腰です。逃げ出したウサギでも飼い主を名乗る人がいる以上はその人の所有物であるわけです。そのためうかつに手が出せないという事情があるのかもしれません。しかし、あえて言えばこの状態は「動物の不適切管理」となるでしょう。動物愛護法でそれに近い条文を探すとこういうのがあります。
第五条 動物の所有者又は占有者は、命あるものである動物の所有者又は占有者としての責任を十分に自覚して、その動物を適正に飼養し、又は保管することにより、動物の健康及び安全を保持するように努めるとともに、動物が人の生命、身体若しくは財産に害を加え、又は人に迷惑を及ぼすことのないように努めなければならない。
しかし、これについての違反の罰則はありません。しかし、事態を放置するだけというわけでもなくて、このような条文もあります。
第十五条 都道府県知事は、多数の動物の飼養又は保管に起因して周辺の生活環境が損なわれている事態として環境省令で定める事態が生じていると認めるときは、当該事態を生じさせている者に対し、期限を定めて、その事態を除去するために必要な措置をとるべきことを勧告することができる。
つまり、今回の事件は東京都が扱う案件と言えるでしょう。
ウサギたちがその後どうなったかは続報がありませんが、引き取られたウサギもあるようです。この事件で考えさせられることは、「ペットを飼うことの責任」です。動物を飼育するのなら、飼い主はその動物を適切に管理すること求められるのは現在では常識的なことでしょう(その常識がわかっていない人もまた多いのですが)。
今回の事件は、必要以上に繁殖させたことや、野放しにしたといった不適切飼育だったことは否定できません。ホームレスであろうとなかろうと、このように管理をできない人が動物を飼うということに事件の核心があるのです。
ペットを飼っている人、飼いたいと思っている人は今回の事件を単なる珍事件とか他人事とか思ってほしくありません。これはあなたにも問われている問題なのです。