スズメのお宿はどこだ?
日本で最も身近な鳥、といえばやはりスズメでしょう。都会にも田舎にもいます。漫画やテレビドラマでも朝を表現する効果音としてスズメの「チュンチュン」という鳴き声が定番的に使われています。それほど身近な鳥ですが、その生態となると一般にはよく知られているとは言えません。例えば、スズメは何を食べるか? どこで寝るか? どこで子育てをしているか? 皆さん、ちゃんと答えられますか? スズメは人間のすぐ近くにいながら人間に慣れるということがほとんどないため、生態があまり知られていないのです。
今回はスズメが眠る場所、ねぐらの観察を紹介しましょう。スズメのねぐらといえば、「雀、雀、お宿はどこだ」の歌で知られる「舌切り雀」の話が有名です。いや、最近はこういう昔話も忘れられつつあるかもしれませんが。この話の中ではスズメのお宿=ねぐらは竹やぶということになっているようです。実際、竹やぶがねぐらになっているという例は珍しくありません。しかし、どこでも竹やぶがあるというわけではありません。都会ではどこをねぐらにしているのでしょうか?
実は、そのあたりにある普通の樹木をねぐらにしているのです。しかも、意外なことにうるさい大通りに面した街路樹でもねぐらにしているのです。例えば、私の近所では高円寺(東京都杉並区)の青梅街道、東京メトロの駅名から「新高円寺」と呼ばれる場所の街路樹のイチョウをねぐらにしています。ここは交通量も多い通りです。また、高円寺の西隣の阿佐谷ではJR中央線・阿佐ケ谷駅の駅前ロータリーの街路樹がねぐらになっています。もっと都心の例を挙げると、神保町(千代田区・古書店街で有名)の靖国通りの街路樹にねぐらを見つけたことがあります。スズメのねぐらは「集団ねぐら」といって、多数のスズメが集まってきます。そのため、見つけるのは比較的簡単なのです。スズメはどこででも見かける鳥ですから、探せばあなたのご近所にも必ずねぐらがあるはずです。では、そのねぐらの見つけ方を紹介しましょう。
まず、ねぐらになりそうな場所を事前に探しておきましょう。街路樹、雑木林、竹やぶ、公園など樹木のある場所に目をつけておきます。といっても、そういう場所はあちこちにあるので絞り込むのは難しいでしょう。都会にお住まいの方は、街路樹に対象をしぼった方が見つけやすいかもしれません。
場所の見当をつけたら、次は実際の観察になります。ここで重要なのは時刻です。スズメは日没時刻になるとあちこちからねぐらに集合します。どんなに曇っていても正確に日没時刻前後に集まってきます。新聞などで日没時刻を事前に確認し、10〜20分前ぐらいから現場を探してみましょう。スズメが集まってくると「チュンチュン」と鳴く声が聞こえるのですぐにわかるはずです。街路樹がずっと続いている場所でも、ねぐらになるのは特定の数本に限られていたりしますので、歩きながら探してみてください。インターネットで調べてみると、ねぐらに集まる羽数は数十羽ほどの小集団から数千以上の大集団までさまざまなようです。平均的には数百羽の集団が多いらしいとのこと。また、繁殖期には集団ねぐらが解消されるとか、冬に葉の落ちる広葉樹は冬のねぐらには使われない、といった記述も見られますが、私の観察では必ずしもそうとは言えないようです。私の近所のイチョウの街路樹では葉が落ちた冬もねぐらになっています。周囲に他に適当な場所が無い場合はこういうことも起こるのでしょう。
このようにスズメのねぐらといった身近なことでさえまだよくわからないことがいろいろとあるのです。いかがでしょう、こういう自然観察なら誰でもできることと思います。近所でなくても、外出先で日没時刻になったら樹木などに注意を向けてみたりしてください。運良くねぐらを発見できるかもしれません。
スズメに関してもうひとつ、不思議な現象を紹介しておきましょう。それは昼間からスズメが集まる木がある、ということです。私の自宅のすぐそばにそういう場所があったのですが、集まる理由がよくわからないのです。最近は集まらなくなったのですが、以前は通年でスズメが集まっていました。よく注意してみると、主に住宅地でいろいろな場所に「スズメが成る木」があることに気づきました。昼間に集合する理由のひとつとして、食べ物があるから、ということが考えられますが、それが唯一の理由というわけでもなさそうです。なぜ昼間なのか?、ねぐらとの関係は?などこれもまた謎だらけなのです。
どうです? スズメという鳥、これは本当に奥が深そうですぞ。