Vol. 287(2005/10/9)

[今日のいきもの]ヘビはみんな毒ヘビか?

最近たてつづけに逃走ヘビ関係のニュースが相次ぎました。飼っていたヘビが逃げ出した、捨てられたヘビが発見された、家にヘビが現れた、そういったニュースです。捨てられる動物は別にヘビに限った話ではないはずなのですが、ヘビ、あるいはサソリといった動物はニュースになる確率が高いようです。逃走動物の中でもニュースになりやすい種類に何か共通点はあるのかというと、「凶暴」「有毒」といったあたりになるようです。つまり、危険だから近くの人は気をつけてね、という類のものです。そりゃ人身事故が起こったら大変ですから報道する価値があるということなのでしょう。
でも、ここで私は疑問を持つのです。ヘビは危険なのか?、と。「そりゃ危険だよ毒を持ってるじゃない」と思われる方は多いことでしょう。それが誤解なのです。


ヘビは全世界に3000種以上いるといわれています。数が正確でないのはまだまだ新種が潜んでいる可能性があるからです。ヘビは爬虫類の中ではトカゲと共に最も繁栄しているグループです。カメワニが危機的な状況にあるのとは対照的です。ヘビとトカゲは分類上は非常に近く、同じ「有鱗目(ゆうりんもく)」に属します。で、トカゲは「トカゲ亜目」、ヘビは「ヘビ亜目」に分類されます。つまりトカゲとヘビは同じ祖先を持っているということなのです。ヘビはトカゲ類から分岐してきた、爬虫類の中でも新しいグループです。新しいといっても中生代の頃になるのですが。
ヘビの分類についてはさまざまな主張がされていますが、14科から成るというのが通説でしょうか。種数が多い科を挙げてみると、ボア科(ニシキヘビ)、メクラヘビ科(地中生)、ナミヘビ科(おそらくヘビの半数以上はここに含まれる。アオダイショウ、ヤマカガシなどもナミヘビ科)、コブラ科(ウミヘビが含まれる)、クサリヘビ科(いわゆる「ヴァイパー」。ハブ、マムシ、ガラガラヘビなど)などがあります。
さて、ではこの中に毒をもつヘビはどれだけいるのでしょうか。まさかヘビのすべてが毒をもっていると思っている方はいませんよね? そう信じていた方は動物学を初歩から学び直してください。
毒をもつヘビとしては、クサリヘビ科、コブラ科の大半がこれにあたります。ガラガラヘビとかコブラとかマムシとかハブとかウミヘビとか、おなじみの毒ヘビたちがそろっています。また、ナミヘビ科の一部も毒をもちます。日本ではヤマカガシ、ガラスヒバァ(南西諸島のみ生息)が該当します。ヤマカガシの場合は、毒牙を持つだけでなく、頸部背面(頭部背側のすぐ下あたり)にある頸腺(けいせん)を圧迫すると、毒液が飛び散るためこれも要注意とされています。このような例はあるとしてもナミヘビ科のほとんどは無毒の種類です。他の科のヘビはすべて無毒です。
結局のところ、有毒なヘビは全体の20〜25%程度となるようです。種数にすると600〜700種ぐらいになります。
さらに言うと、有毒といっても毒性が弱い種類もあれば、小型であるため毒の絶対量が致死性にまでならないこともあります。有毒種すべてが同じように危険であるわけではないのです。
こういったことを総合すると、ヘビの多くは無毒であり、有毒であっても必ずしも命にかかわるわけではない、ということになります。もちろん危険なやつもいるのは間違いありませんが、ヘビならなんでも危ないと見なすのはかなり無理があるのです。

ちなみに、最近のニュースで話題になったビルマニシキヘビ、ボールニシキヘビ(ボールパイソン)といったニシキヘビ類はいずれもボア科で当然無毒です。
ただし、ボア科には非常に大きくなる種類がいて、例えば上記のビルマニシキヘビは最大6.5mにもなりますし、世界最大のオオアナコンダでは12mという記録があるそうです。このように大きなヘビは獲物を絞め殺す力が強いので、無毒だからといって安心してもいられません。埼玉県上尾市の事件のビルマニシキヘビは4mもあったそうで、捕獲した警官の方は本当にお疲れさまでした。

逃走ヘビを捕獲しなければならない警察関係、自治体関係の方のためにちょっと助言をしておきますと、ヘビを安全に取り扱うための道具として「スネークフック」というものがあります。金属棒の先端がフック状に曲がっているもので(とがってはいないので安全です)、専門家はよく使っているものです。必要ならばこれを使った方がいいのですが、使い方は専門家にきちんと教わった方がいいですし、ヘビの大きさによってスネークフックの大きさも変えなければなりません。そうそう使う機会があるものではないので、常備するというのは難しいでしょうね。結局、もしもの事態には専門家に協力を求めるのが確実ですが、それには日頃から専門家と仲良くしておかなければなりませんよ!
ちなみに私は爬虫類の専門家ではありませんのでスネークフックは使えません。ヘビを捕まえてくれ、などと私には依頼しないように(笑)。

まあ、毒が無いとわかっていてもヘビが苦手な人が多いのは理解できます。脚が無いという異様なフォルム、むやみに長い胴体(アオダイショウなんかは2m近くにもなりますしね)、くねくねとトリッキーに動く胴体、毒は無くても鋭い牙。普通の人が持て余してしまうのも仕方のないことです。
では、ヘビに出くわしたどうすればいいか? これは「刺激しない」に限ります。ヘビというものはよほど危険な事態にならない限りは自分より大きなものを襲おうとはしません。ヘビをつついたりたたいたりすると逆襲されることがありますので絶対やめましょう。
道端で普通のヘビに出くわしたならば、知らん顔して通り過ぎましょう。それで問題ありません(私は喜んで近づいて観察しますがね…。見るだけならヘビも攻撃はしませんし)。見たこともない、明らかに外国産のヘビだったならば、自分だけでどうにかしようとは考えずに、警察なり自治体なりに連絡しましょう。あなたはヘビから離れてそっとしておきましょう。

毒ヘビは「猛獣」扱いされることが多いのですが、他の猛獣、例えばトラとかワニとかに比べれば体は小さいですし、大暴れするような動物ではありません。慎重に扱えば被害が発生することはまずないはずです。実際、最近の事件でもけが人は発生していませんよね。
ヘビが不人気なのもわかりますが、マスコミはヘビだヘビだと騒ぎ過ぎのような気がしないでもありません。もちろん、外国産ヘビがうろうろするような状況は好ましくありませんが、それならばワシントン条約とか危険動物の飼育に関する各地の条例(飼育の届け出制)といった線から報道してほしいものです。


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