Vol. 288(2005/10/23)

[今日の事件]足指食いちぎりネコ事件、または「猟奇的なネコ事件」

新聞などで話題になったこの事件のことをご存知の方は多いでしょう。まずは事件のあらましを時系列に整理しましょう。(朝日新聞10月8日付け夕刊、15日付け夕刊の記事の内容に基づいています。)

事件があった場所は埼玉県北埼玉郡の特別養護老人ホームです。
10月6日午前5時10分ごろ入所者の認知症の女性が「隣の方がうなっている」とナースコールをしました。職員はすぐに部屋に駆けつけました。
そのうなっていた女性(認知症で会話が難しい状態という)は仰向けに寝ている状態で、右足の指すべてが第1関節から失われていました(地元警察によると、ケガの状態からみて人によるものではない(刃物によるものではない)、とのこと)。また、左足甲にひっかき傷がありました。女性のベッドシーツや近くの床にはネコらしい足跡まありました。
この時、窓は30cmほど開いていて、網戸にネコが通れるぐらいの穴が開いていました。この窓は中庭に面しています。
職員は119番通報し、被害者の女性は近くの病院に搬送されました。
(そのすぐ後?)別の職員が中庭で、口のまわりが血で染まっているネコを発見しました。保健所に連絡して、保健所職員が到着。中庭に捕獲檻を置くと、数時間後によく似たネコが捕獲されました。そのネコは雑種のおとなで、毛並みは荒れていたとのことです。

以上が事件の概要です。
まあ、なんとも猟奇的な事件です。とりあえず映画のタイトルをもじって「猟奇的なネコ事件」と私は呼ぶことにしています。

まずは、ネコが人を食うことがあるのか、ということについて考えてみましょう。
ネコという動物は動物食(肉食)の動物です。イヌやクマやイタチなどを含めた食肉目全体の中でも最も動物食に適応しているのがネコ科の動物なのです。例えば、ライオンやトラ、ヒョウといった動物を思い出してください。ネコ(いわゆるイエネコ)は、キャットフードを食べますがその成分はだいたい動物由来です。つまり、食性から言うとネコなら人間を食べる可能性はありうることなのです。
しかし、ネコの生態・生活から考えると、人間を襲うことは考えにくくなってしまいます。まず、自分より大きな相手に立ち向かうリスクをとるとは思えません。もちろん今回の事件のような無防備な相手に対しては別でしょうが。
また普通の場合、人間は食べ物を貢いでくれる相手ですので、人間を敵視しても利はありません。とりあえず愛想よくしておくのが得策です。よって、人間慣れしているネコなら人を襲うようなことはありません。
ネコの中には人間にあまり依存しない野猫(ノネコ)といったものもいます。人間にまったく依存しない完全な野猫ならば、人間に特別な感情は持っていないので襲うこともあるかもしれません。今回の事件のネコの場合、週刊誌の記事によると施設の中庭に住み着いていたそうです。それならば人間から食べ物をもらうこともたびたびあったはずで、完全な野猫とは考えにくいのです。
以上を総合すると、現在捕まっているネコが犯人である可能性は低いように思えるのです。他のネコが真犯人だった、という説は否定しません。

となると、疑うべきはやはり人間なのではないでしょうか。この「いきもの通信」では人間犯罪は対象外ですのでこれ以上追求はしません。ですが、人間が犯人だとしてもこれまた非情に理解に苦しむ猟奇的な行動です。犯人はおそらく施設内部の者の可能性が高くなりますが、それにしても動機が不明確です。

ネコでも人間でも決定的証拠が無い。ではそれ以外に考えられる犯人はいるのでしょうか? 私は他の動物を疑うべきかもしれないと考えています。それはどんな動物なのか想像がつくでしょうか。食べ方や食べる分量、そして現場に生息していてもおかしくない動物…といった条件に合う動物。
例えばネズミが考えられるのではないでしょうか。ネズミは雑食性で、主に夜行性です。小さいなすき間から容易に侵入します。ネズミが犯人という可能性は十分にあると思われます(食べた分量から考えるとおそらく複数犯)。そういえば容疑者のネコの口についた血も、ネズミを食べてついたのかもしれません。

このような推理をしてみたものの、私は現場やその近辺の状況は知りませんし、容疑者のネコを見てもいません。限られた情報で犯人探しをするのは無理な話で、これ以上書くと風説の流布とかになりそうです(笑)。
ただ、ネコが犯人とは考えにくいのも確かです。傷害は立派な犯罪なのですから、人間が真犯人である可能性を考慮して警察は真相解明にもっと真剣になった方がいいのでは、と思います。


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