Vol. 297(2006/1/1)

[今日の事件]外来生物法は外国人排斥?!

2005年の動物関連のニュースで最も盛り上がったことのひとつは外来生物法の施行でしょう。外来生物法については既に何度も取り上げましたのであらためて説明はしませんが、簡単に言うと
「生態系に大きな影響を与える(または与えると予想される)生物が国内に入ってこないようにする。既に入ってしまった生物は駆除をする。」
ということを定めた法律です。

同法を巡っては、特にオオクチバスについて非常に多くの賛否の議論がありましたが、その中にはかなり的外れな声がありました。それは、
「外国人が日本に来ることもいけないのか」
「外国のモノを輸入することもダメということか」
という意見です。これは外来生物法とはまったく関係のないことを持ちだしているもので、はっきり言って暴論、非科学的意見です。しかも学者を名乗る人がこのようなことを言っているのでなおさら始末が悪いです。これにはきちんと反論しておかないと多くの人を誤った方向に誘導しかねません。

私たち人間は動物学的には「ヒト=Homo sapiens」という1つの生物の「種」です。それ以上の細分類はありません。亜種もありません。「人種」という区分は確かにありますが、各人種の境界は非常にあいまいです。例えば人種間での結婚は珍しいことではありませんよね。それぞれの人種の定義も非常にあいまいなものです(「日本人は単一民族」などというのも単なる妄想や思い込みにすぎません)。そのため当然、人種間に優劣など存在しません。人種によって得意不得意は多少あるでしょうが、それは遺伝的なものだけではなく、文化的、経済的な要因に左右されることも少なくないわけで、人種だけを取り上げて優劣をどうのこうの言うのはあまり意味がありません。人種の優劣をあれこれ言うことは人種差別と見なされるでしょう。
さて、外来生物法で対象となっているのは特定の生物種(あるいは生物亜種)です。この種はダメ、この種はOK、と判定しているのです。「外国人が日本に来ることもいけないのか」という意見は、この判定基準をヒトにあてはめるということです。つまりこれは、外国人はヒトではない別の動物種だと言っているのと同じことです。一見もっともらしく聞こえて、実はとんでもない人種差別発言なのです。こういうことを言う人は、はっきり言って思考レベルが低いです。

「外国のモノを輸入することもダメということか」というのもまったく意味のない議論です。無生物と生物を同等に扱うことはできないのですから。これまたレベルの低い意見です。

ついでにもうひとつ別の意見についても取り上げておきましょう。それは「日本には過去にも大陸から生物はやって来ていたではないか。そういう動物も駆除するというのか?」というものです。これはわかりやすい例でいうとドバトがそうですし、イヌやネコも過去に人間が連れてきた動物です(クマネズミ、ドブネズミもそうですが、これらは鳥獣保護法でも保護されていない動物なのでおいておきましょう)。
厳密に解釈するとあれもこれも外来生物ということになってしまいますので、「外来生物」の定義をきちんとしなければなりません。外来生物法に明記しているわけではありませんが、同法では「明治以降に移入されたもの」を外来生物と定義しているようです。明治より前の江戸時代は鎖国政策によって生物の移入は事実上閉ざされていました。つまり鎖国時代の約200年間は日本の生態系は(相対的に)安定していたわけで、そのころの生態系・自然環境をひとつの基準にするというのは悪くないと思います(もっとも、当時と比べると現在の自然環境は復元不可能なほど破壊されていますが)。
そうすると、鎖国時代よりも昔にやってきたドバト、イヌ、ネコなどは「セーフ」ということになるわけです。これらの動物は日本の自然環境の一部と見なしてもいいだろう、ということなのです。
あまりにも単純な定義のようですが、これは日本の地理的・歴史的な偶然によるものです。もし日本が大陸とつながっているならば、鎖国時代が無かったならば、外来生物問題はもっと複雑な話になっていたことでしょう。

私は外来生物法については、詳細では疑問を持つ部分はあるものの、大枠の方向性については賛成です。
特に日本は陸地の国境線がなく、海を越えての生物種の移動が難しく、独特の生態系になっていると言えます。外来生物はこの生態系を混乱させるものであり、できる限り予防的措置をするべきものと思います。
なんてことを書くと、おまえはナショナリストか?国粋主義者か?などと言われそうですがそんなことはありません。私が心配しているのは人間の思想闘争ではなく、そこにある自然環境なのです。私は日本だけでなく、世界各地の自然環境も同様に心配をしています。動物問題に右翼だとか左翼だとかいう論理を持ち込まないでください。
「生態系なんて時代によって変化するものだ」という外来種容認論もありますが、現在はあまりにも無秩序に生物が移入されており、通常の変化よりもはるかに速い速度で生態系が変化させられています。これからどのような変化が起こるのか、予想もできないほどです。生態系は確かに変化するものですが、あまりにも急激な変化は問題があるのではないでしょうか。

外来生物法に関しては、それを何とか否定したい勢力があれこれ論理をひねり出して宣伝していますが、それらを鵜呑みに信じるのは勧められません。もちろん、賛成意見に盲従しろと言いたいのではありません。できれば両方の意見に目を通してそれぞれが判断すればいいのです。

私は外来生物法に賛成の意見ですが、同法を全面的に了承しているわけではありません。残念ながら法律の条文やその運用について、いくらかの疑念を持っているということも付け加えておきます。これを論じるとまた長くなりますので、いつかあらためて取り上げたいと思います。


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