今さら言うことでもありませんが、日本での小型犬ブームはもう完全に定着してしまっていて、飼い犬というとダックスフンドとかチワワといった室内飼いができる品種がすっかり定着してしまいました。「飼い犬とは庭の犬小屋で暮らす番犬」という昔の定義は(特に都会では)もはや少数派でしょう。それにともなって多く見られるようになったのが、イヌに服を着せることです。昔、例えば昭和の頃ならばイヌに服を着せるなんて過保護だ、ぜいたくだ、という意見も多かったことでしょうが、今では服を着せるのが小型犬の場合は当たり前になりつつあるような勢いです。それでも服着用の流行に対しての批判は今現在もなくなっていません。確かにイヌに服を着せるという行為はまるで人間の子供のように過保護にイヌを扱っているように見えますし、エスカレートするとどんどん華美に、豪華になってしまうこともあります。確かにそういう批判もごもっともなことです。しかし服は必要ない、全然いらないものかというと、そうとも言い切れない事情もまたあるのです。
あれは数年前の冬のことでした。東京都内の某公園に例によって自然観察に出かけた時のことです。公園にはイヌ連れでやって来る人も少なくありません。そんな中にイタリアン・グレイハウンドがいました。グレイハウンドというとイヌ・レース(ドッグレース)が行われるほど体格のいいイヌなのですが、イタリアン・グレイハウンドはその小型版といった別の品種で、パピヨンよりちょっと大きいぐらい、ビーグルとあまり変わらないほどの体格です。ですがとても細い体格のためとてもきゃしゃな印象です。脚なんかはもう細くて細くて折れそうなほどです。最初見るとその線の細さにびっくりするかもしれませんが、スマートな体型には美しさも感じられます。さて、公園に来ていたそのイタリアン・グレイハウンドなんですが、その日はとても寒い日で、よく見ると体が小刻みに震えているではありませんか。あまりの寒さにこごえているようなのでした。当然ながら服は着ていません。これを見て、私もさすがに服を着せてあげた方がいいんじゃないかと思わざるをえませんでした。
童謡にもあるようにイヌは雪がこんこんと降っても喜んで庭を駆け回るというイメージが一般にはあると思いますが、それをすべてのイヌにあてはめるのは正しいとは言えません。一般的に小型犬は寒さに弱いということを知っておくべきでしょう。単純化していうと、体積が大きい動物と小さい動物を比較すると、大きいものの方がより多くの熱を発生します。つまり、体が大きいほど寒さに有利ということです。さらに、大型になるほど体積の割に表面積が小さくなるため、体熱が放出しにくい状態になります。これもまた寒さに強い理由です。逆に、小型になると体積の割に表面積が大きくなるので体熱の放出が多くなります。こちらは温暖な気候に適した仕組みといえます。ちなみに、この体積と表面積の関係は「ベルクマンの法則」という動物学では有名な法則です。これらをまとめると、小型犬は寒さに弱い、ということになります。このことを考えると、冬に小型犬に服を着せるのは過保護でもなんでもなく、むしろぜひ着せてやってください、ということになるのです。小型犬の飼い主の方は批判をおそれず服を着せてあげてください。
ただし、どんな犬種でも服OKかというとそうでもなくて、毛が長い品種の場合は服は必要ないんじゃないかとも思います。ヨークシャー・テリアとかトイ・プードル(肌を露出させないトリミングの場合に限る)は服はなくても大丈夫ではないかと思います。ダックスフンドの長毛種やパピヨンなんかも服不要かもしれません。逆に短毛種は寒さが苦手と考えるべきでしょう。先の話に出ていたイタリアン・グレイハウンドも短毛の品種です。小型で短毛ならば寒さ対策は必須です。
また「小型犬は寒さに弱い」を逆に言うと、「中型・大型犬は服はいらない」「小型犬も夏は服はいらない」ということになります。このような場合に服を着せるのには私も同意できません。
ただ、服を着せる着せない基準というのは何か決まった法則とか規則があるわけではなく、その土地の気候とか(北海道と沖縄を比べると当然基準は違ってくる)、それぞれのイヌの寒がり度などから個々に判断するべきことだと思います。飼い主がそれだけイヌのことを気にして判断しているのなら、それはとても良いことだと思うのです。
一方、「イヌに服を着せるのはけしからん」などといっている方はもっとイヌの勉強をせよ、と言いたくなります。「けしからん」と言う人は、おそらく昔の飼い犬のイメージで語っているのでしょう。ですがここ10年ほどで犬もネコも飼い方はずいぶんと変わってきました。動物の飼い方にも時代の流れというものはあるもので、それをふまえて批判をしてほしいものです。