冬、池や川に行くと渡り鳥のカモたちがたくさんいたりします。その中をカイツブリが泳いでいたりすると、かなりよく「あ、カモの赤ちゃんだ!」と言われるものです。
あるいは、実際にはこういう光景はめったにありえないのですが、コサギとダイサギが近くに並んでいたら間違いなく「あ、シラサギの親子だ!」と言われることでしょう。
でも、
カイツブリはカモの赤ちゃんじゃありません!
コサギはダイサギの子供じゃないありません!
なんでそういう風に思い込んでしまうのかなー、と不思議でなりません。この誤解の最大の理由は「動物の名前を知らない」からでしょう。カイツブリという鳥を知っていれば、コサギとダイサギという鳥を知っていればこういう誤りは起こらないはずです。
それとは別の理由として、「小さいものは子供」という思い込みもあるのではないでしょうか。「大きいのと小さいのがいれば、それは親子」と思うのは人間の場合、あるいは哺乳類ならばおかしなことではありません。でも鳥の場合となるとそうは言えないのです。
一番わかりやすい例はツバメでしょうか。ツバメならみんな知っていますし、都会でも実際に観察して確認することができます。
ツバメのヒナは卵からかえった直後は明らかに体が小さいのがわかります。その後順調に成長していけば1ヶ月ほどで巣を離れて自力で飛べるようになります。この頃のヒナをよく見てください。その体の大きさは親とほとんど変わらず、ヒナと言うより若鳥と呼んだ方がふさわしいでしょう(若鳥は尾羽(いわゆる「燕尾(えんび)」)が短いので小さく見えるかもしれませんが、胴体本体は親と変わらない大きさです)。
つまり何が言いたいのかというと、「鳥の成長は無茶苦茶はやい」のです。たった数週間で大人と同じ大きさになり、飛ぶこともできるのですよ。都会でも観察しやすい他の鳥の場合、例えばカルガモは2ヶ月で親と同じ大きさになりますし、カイツブリも同じぐらいです(年が明ける頃までは親と色が違うので区別はできます)。世界中の多くの鳥の中には成長が遅い種類も無いわけではありませんが、一般に鳥の成長はこれぐらい速いものだと考えてください。ですから、体の小さなヒナが見られるのは繁殖の季節だけに限られるのです。日本の場合、それは春から初夏の季節ということになります(年に2回以上産卵するツバメやカイツブリなどは夏までずれこむこともある)。繁殖期ではない冬にカモ類の中に小さな鳥(カイツブリ)が混じっていたとしても、それがカモの赤ちゃんであるはずはないのです。
なぜ鳥は成長が速いのかというと、「飛ばねばならないから」ではないでしょうか。いつまでも巣から離れられないようでは、他の動物から狙われやすくなります。葉の茂っている夏ならまだ目立ちませんが、葉が落ちた冬は巣も丸見えです。また、カモ類のような渡り鳥は秋には南に向かって長距離飛行をせねばなりません。それまでに成長してしまって十分な体力を持たなければならないのです。成長に何年もかかるようではシベリアの氷雪の下で絶滅してしまうことになります。
「それなら飛ばない鳥なら成長は遅いのか?」という疑問があるかもしれません。長い例のひとつはオウサマペンギン(キングペンギン)で、親離れするまで1年以上かかります。これは鳥としてはかなり長い方です。どうも、成長する途中で冬になってしまうためにこのような変則的なことになっているようです。ところが、よく似たコウテイペンギンはもっと過酷な環境にすんでいるにもかかわらず成長は速いのです。こちらは秋に産卵、冬に孵化するため、夏には親離れができるのです。
他には、やはり飛べない鳥のエミューは親離れまでなんと1年半。エミューの近縁のダチョウは、資料がちょっと見当たらないのですが、親と同じぐらいの大きさになるには1年が必要なようです。
こういう例を挙げると飛べない鳥は成長が遅いように見えますが、これらは特殊な環境にすんでいたり、体格が大きかったりで一般的な鳥と同じように考えてはいけないのかもしれません。他の飛べない鳥の例を出したいところですがどうも資料がありませんねー。ニワトリはかなり品種改良されているので例にはふさわしくないでしょう。
ちょっと寄り道が長くなりましたが、一般論として「鳥の成長は非常に速い」ということはぜひ覚えておいてください。日本の場合、成長が極端に遅い鳥はいませんので、私たちがヒナを見ることができるのは春から夏の間だけと考えていいでしょう。
(ああ、でもドバトは年中繁殖していたっけ、ということを今思い出したりしました(笑)。)