先日、私は狩猟免許を取得しました。
「いきもの通信」ではこのところ例の「子猫殺し」を取り上げてきていて、私も動物愛護の立場から意見を述べてきたのですが、それが一転、動物を殺す狩猟なんて、いったいどういうつもりなんですかー!!という抗議の声があがるかもしれません。動物愛護と狩猟は対立するもののように見えるかもしれませんが、しかしこれらはまったく別の話です。
なぜ狩猟がかまわないのか、なぜ私が狩猟免許を取ったのか、そのあたりのことからお話ししましょう。
まず、現在の日本での狩猟について説明しましょう。
野生動物についての基本的な法律は「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護法)」です。この法律では野生動物の保護の他、狩猟に関するさまざまな手続きについて定められています。鳥獣保護法はもともと「狩猟法」が由来ですので、狩猟に関する項目がかなりの部分を占めています。
その「狩猟(=鳥獣の捕獲)」には2つの種類があります。
ひとつは、狩猟免許を取得して行う「登録狩猟」。
もうひとつは、行政が許可をして行う「許可捕獲」です。こちらには有害鳥獣駆除、学術研究といったものが含まれます。許可捕獲には狩猟免許は必要ありませんが、そもそも行政の許可が必要なわけですから何でも自由にできるというわけではありません。
「狩猟」というと、「鉄砲をかついで山奥に狩りに行く」姿を想像された方もいるでしょう。まあ、それも間違いではありませんがね。
実際の狩猟免許には3つの種類があります。
・網・わな猟免許(網、わなのみ使用)
・第一種銃猟免許(ライフル銃、散弾銃、空気銃)
・第二種銃猟免許(空気銃)
私が取得したのは「網・わな猟」です。つまり、私が猟銃をかかえて、なんてことにはならないのです。
※「網」とは網を使った鳥類の捕獲装置のこと。「わな」とはとらばさみ、箱わななど網以外の仕掛けを使った哺乳類の捕獲装置のこと。混獲の可能性はありますが、鳥類=網、哺乳類=わな、となります。
狩猟には法律レベルからマナーのレベルまで、さまざまな制限があります。いつでもどこでも猟銃をばんばん撃てるというものではないのです。
網・わな猟の場合、かすみ網を使ってはいけない、というのは有名なことです(無差別・無制限に捕獲してしまうため)。とらばさみも鉅歯(ノコギリ歯)や直径12cm以上のものは使用できません。網・わなは、基本的には動物を殺さずに捕獲するようなルールになっているのです。
銃を所持するにはさらに「銃砲刀剣類所持等取締法(銃刀法)」が関わってきます。
実は、猟銃を購入・所持するには銃刀法による許可が必要なのです。これは狩猟免許とは連動しません。猟銃を所持している場合、堅固なロッカーに保管すること、銃と弾薬は別々に保管すること、など管理にも厳重なものが求められます。さらにさらに、弾薬は「火薬類取締法」で規制されています。
実際に狩猟を行うにもさまざまな制限があります。
まず、期間が限定されています。狩猟期間は原則10月15日(北海道は9月15日)から
4月15日まで。つまり夏の間は狩猟はできないのです。また、狩猟期間も実際には鳥獣の種類や地域によってかなり制限されていて、3〜5ヶ月ほどしか狩猟できません。
狩猟できる場所も限定されています。例えば住宅地で猟銃をぶっぱなすなんてことは危なすぎますよね。狩猟が禁止されている場所には、鳥獣保護区、休猟区、社寺境内・墓地といったものが含まれます。そして、公道での狩猟も禁止です。また、住宅が接近している場所では危険防止のためにやはり制限があります。
狩猟できる動物の種類も限定されています。鳥獣保護法で指定された、狩猟してもいい鳥獣のことを「狩猟鳥獣」と言いますが、これには現在、鳥類28種、哺乳類20種が指定されています(それ以外は狩猟禁止)。狩猟鳥獣であっても、生息数が減少している種類、地域によっては狩猟不可になっているものがあります。
狩猟できる数量も限定されています。これは主に鳥類についての制限なのですが、1日に捕獲できる上限が定められています(制限がない動物もいます)。
そうそう、猟銃を使用してもいい時刻も定められています。使用していいのは日の出から日没までの昼間だけ。夜は猟銃は使ってはいけないのです(網・わなは仕掛けておく性質のものなので時刻の制限はない)。
つまり狩猟には、期間、時刻、場所、動物の種類、捕獲数といったさまざまな制約が課されているのです。これらのルールをすべて踏まえて行わなければならないのですから、狩猟というのはお気楽な娯楽などではありません。
ちなみに、銃の扱いにも細かい制限やルールがたくさんあります。例えば、猟銃の持ち方・運び方、休憩時の置き方、撃つ方向の制限、運搬の方法、等々。これまた覚えることが多くて大変です。
なぜこのような制限があるのかというと、狩猟で事故があったり、銃が犯罪に使われた場合、世間から非難されるのはハンターたちであり、猟友会であるからです。そして、ますます制約が強くなることになるでしょう。そのような事態を回避するため、猟友会は問題が起こらないようにかなり真剣に取り組んでいます。また、自然保護にも協力するなど世間でのイメージアップにも努力しています。
以上のような制約があることもあり、日本における狩猟は大々的なものではありません。レジャーとしての狩猟(ハンティング)も定着していないので、狩猟が自然環境に与える影響はかなり小さいと考えていいでしょう。ブレーキが十分機能している状態と言えます。自然保護関係者でもこの程度なら十分許容範囲内ではないでしょうか。
ただ、実際の数字を見るとそうも思えないかもしれません。実際の捕獲数は、平成15年度は
鳥類 1,207,708羽 (上位はカモ類、ヒヨドリ、スズメ類)
獣類(哺乳類) 307,773頭 (上位はシカ、イノシシ、ノウサギ)
でした。ちょっと気の遠くなりそうな数ですが、狩猟によって動物が絶滅したという話は近年は聞かないので、やはり許容できるものとも考えられます。この数字が多すぎると思われるのなら捕獲数制限を求める運動を起こすべきでしょう。
ついでに有害鳥獣駆除の数字は、やはり平成15年度で
鳥類 652,464羽 (カラス類、スズメ類、ムクドリ類他)
獣類(哺乳類) 143,978頭 (イノシシ、シカ、ニホンザル他)
となっています。狩猟は有害鳥獣駆除の約2倍ということになります。
(以上の数字は「狩猟読本」(大日本猟友会)より)
狩猟に嫌悪感を持つ方がいるのは私もよく理解できます。だからといって、完全に狩猟を禁止するのは賛成できません。例えば、クマ騒動やイノシシ騒動などが起こった場合、やはり有害鳥獣駆除は選択肢のひとつとして持っていなければならないでしょう。有害鳥獣駆除の実行方法は狩猟と同じですから、狩猟の技術は必要なのです(実際、クマやイノシシを駆除するのは猟友会の人たちです)。有害鳥獣駆除は警察や自衛隊に任せればいいのだ、という意見があるかもしれませんが、う〜ん、警察・自衛隊と狩猟とではやはり畑違いというか、シチュエーションがあまりにも違いすぎて、一定のレベルを維持するのはちょっと苦しいのではないかと思います。
なお、大日本猟友会は個人会員が約13万5千人いるそうです。狩猟免許所持者もそれとほぼ同数でしょう。レジャーとして狩猟をする人だけでなく、狩猟が生業(なりわい)という人たちも含んだ人数なのでしょう。意外と多いようにも思えますが、全体では高齢化が進んでいるという話を聞いたこともあります。
最後に、私が狩猟免許を取得した理由を書きましょう。
まず第一の理由は、会社の仕事で持っていた方が都合がいい場合があるからです。私の勤務先は、前にも書きましたが、害獣・害虫駆除をやっています。そして、時々害獣・害鳥の相談が持ち込まれることがあります。実際に動物を捕獲するような事態になったことは私はありませんし、今後もそういうことがないことを願いますが、相談が持ち込まれたならばそれなりの解決方法を示さねばなりません。その時に、狩猟免許を持っていれば、法律のこともわかっている、実際の捕獲方法もわかっている、その上での最も適切な解決方法を提示できる、ということでちょっとは説得力を持たせることができるというわけです。
もうひとつの理由はタヌキ調査です。「東京タヌキ探検隊!」で紹介していますが、私は現在、東京都23区内のタヌキを調査しています。いずれはタヌキに電波発振器をつけて行動範囲を調べたいと思っているのですが、それにはまずタヌキを捕獲しなければなりません。そこで狩猟免許、というわけなのです。タヌキ調査は学術研究扱いになるでしょうから本当は狩猟免許はいらないのですが、捕獲にあたっては自治体との調整が必要になりますし、猟具についてのノウハウを持っている人がいた方が役に立つでしょう。実際、狩猟免許の受験勉強はかなり有用なものだったと思います。
このように私の目的はレジャーとしての狩猟ではありません。それどころか、実際に狩猟免許を使っての狩猟を行う機会はないだろうと思います(有害鳥獣駆除はあるかもしれないが)。狩猟免許を持っているからといって、私が動物を虐殺したがっているなどとは勘違いしないでください。
そもそも、「網・わな」というのは動物を生きたまま捕獲するための道具です。殺して捕獲するような方法は禁じられています。一方、猟銃の方は、殺してしとめることを前提にしています。ですので、網・わなと猟銃は同じ狩猟でも様相は違っています。私が猟銃ではなく網・わなを選んだのはこういう理由もあるのです。
次回は、狩猟免許の取得の方法について、私の経験を元に書いてみようと思います。