Vol. 357(2007/4/22)

[今日の動物探偵!]庭の池の魚泥棒は誰だ!?

注意
タイトルに「動物探偵」という言葉を使っていますが、私の本職は動物探偵ではありません。また、動物関係の事件を無条件に扱っているわけでもありません。特に、迷子ペットの捜索は一切やりません。動物探偵の仕事もタダでやっているわけではありません。ギャラは高いです。

今回の話は特定の事件があったわけではなく、私が現場に行ったわけではありません。時々耳にするちょっとした事件について考えてみたものです。


時々発生する事件、それは「池の魚がいなくなってしまった!」というものです。魚が死んだとしても死体は残るはず。その死体さえもないというのです。となると、魚泥棒の仕業なのでしょうか? 高級なニシキゴイならそうかもしれませんが、普通の魚の場合わざわざ盗みに来るほどではないでしょう。
こういう場合、容疑者として疑われるのは野良猫です。うむ、ごもっとも。ネコなら魚を狙いそうですしね。あるいは、タヌキが見られる地域ではタヌキが容疑者とされることがあります。動物が犯人とする推理は悪くないです。例えばベランダに置いた水槽の金魚をわざわざ盗みに来るような人間なんて考えられませんからね。
しかし、ネコやタヌキが真犯人なのでしょうか? これには疑問があります。まず、ネコは水の中に入りたがりません。なるべく水にぬれないようにしながら泳ぐ魚を狙う…そういうことが可能でしょうか? もうひとつの疑問は、ネコもタヌキも手先が器用ではないということです。人間なら手で魚をつかまえることができるのですが(それでも大変な作業です)、ネコやタヌキの前脚は物をつかむことはできません。もし彼らが魚をつかまえようとするならば、前脚で魚をすくい上げるようにしたり、前脚で魚を押さえつけたりといったことをしなければなりません。水深が浅いなら水に入った方がいいでしょう。ですが、そうやって魚をとろうとすると、バシャバシャと相当うるさい水音がするはずです。水の中はめちゃくちゃ、周囲は水びたしになることでしょう。小さい水槽だとひっくり返してしまうかもしれません。そんな大騒ぎをすれば住人も気づく可能性はかなり高いはずです。ところが、そういう騒ぎの気配もまったくないのに魚は消えてしまうのです。
誰にも気づかれずに盗みをする…まるで怪盗の技です。そんなことができる犯人は本当にいるのか…? ある日、そういう事例に思いを巡らせていた私は気がついたのです。「あ、犯人はあいつだ。」

その犯人とはゴイサギです。詳しくはこちらでも解説しています。ゴイサギとはサギの仲間で、青と白のツートーンカラーの美しい鳥です。
ゴイサギの容疑を検証するために、その生態をみてみましょう。ゴイサギは主に夜行性です。昼間に行動することも時々見られますが、昼間はたいてい睡眠中です。そのためゴイサギを観察するのは意外と難しいものです。ゴイサギを昼間見かける機会が少ないのは、林の中の木の上の方の枝にとまっていることが多いからです。都会にも普通に生息していて、珍しい種類ではありません。
ゴイサギは魚食性です。魚を捕らえる時はどうするかというと、まず、水面のすぐ上にはり出した低い枝、あるいは水辺ぎりぎりの岸に立ちます。そして、水面下を泳ぐ魚をじっと観察し、狙いを定めるとすばやく首を伸ばし、長いくちばしで魚をつかまえます。魚が遠かったり、体勢をくずしたりするとはばたいたり、水に落ちたりもしますが(すぐにはばたいて飛び上がりますので沈んだりはしません)、たいていの場合はくちばしを水に突っ込む時の水音しかしないでしょう。つまり音で気づかれるリスクも少ないのです。
夜に行動し、静かにターゲット(魚)を捕らえる、これぞまさに怪盗ではありませんか。

この怪盗にやれらないための対策はあるのでしょうか。
まず、ゴイサギを捕獲するのは不可能です。ゴイサギに限らず野生の鳥類・哺乳類は鳥獣保護法で捕獲(殺傷を含む)が禁じられています。捕獲するには狩猟免許が要ります。有害鳥獣駆除をするにはそれなりの損害が必要です。池の魚ぐらいの損害では野生動物をとっつかまえる理由にはなりません。
そのため、対策はもっぱら防御的な手段を使うしかありません。つまり、魚が捕られないように工夫をするのです。
最も確実な方法は、池にフタをすることです。昼間からフタをする必要はなく、日没時にすればいいのです。フタは木製、金属製なんでもかまいませんが、池の全面を覆うものでなければなりません。フタではなく、金網を使う方法もいいでしょう。網の目はくちばしが通らないほど細かいものを使いましょう。
なんとも消極的な方法かと思われる方もいるでしょうが、野生動物の無駄な殺生をせずに解決できるのですから自然保護にも役立つ合理的なやり方です。それにゴイサギは「容疑者」であり、実行犯であると確実に断言できるわけでもありません。やはりネコかもしれませんし、動物探偵が考えもつかなかったような未知の生命体が真犯人なのかもしれないのです!


私は魚泥棒の容疑者としてゴイサギを筆頭に挙げますが、ゴイサギを憎んでいるわけではありません。ゴイサギを悪役に仕立てたいわけでもありません。ゴイサギなどサギ類は見ていて面白い鳥です。彼らを追い払う気などまったく起こりません。願わくば、ゴイサギが怪しいことに気付く人があまりいないよう希望します。そして、ゴイサギが犯人だったとしても平和的解決方法を選ばれるよう望みます。


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