Vol. 360(2007/5/13)

[OPINION]街路樹って必要ですか?

都市に緑を!と叫ばれた時にまず最初に実行されることは街路樹を植えることでしょう。大通りに沿って延々と連なる街路樹、ビルの周囲に植えられる街路樹、そういったものを想像してください。
街路樹は都市緑化には欠かせないものと考えられています。しかし、街路樹は本当に必要なのでしょうか?
私は都市により多くの動物が生息するためにはもっと緑が必要だと考えています。ですが街路樹が必要だとは思えないのです。その理由とは…。


街路樹はホンモノの樹木であっても何となく人工物っぽい印象をうけるものです。その理由はおそらく、舗装された地面からにょっきりと伸びているからではないでしょうか。街路樹の根元は地面ががちがちに固められています。これでは下草の生える余地はありません。露出した土がまったく見えないようなこともあります。
本来の林や森では、樹木だけではなく、地面、下草、さらには枯れ葉やそこに住む小動物(微小昆虫を含む)までも含めた生態系を構成しています。だからこそいろいろな動植物が生息できるのです。東京のような都会でタヌキが生息できるのもそういった自然の生態系がまだ残っているからなのです。
街路樹の方はというと、それは自然生態系から樹木だけを取り出したものにすぎません。「自然=樹木」と単純に考えたために非常に作り物っぽいものになってしまったのです。樹木という一要素だけでは本物にはかないません。街路樹ではタヌキは生活できないのです。

街路樹はかなり長距離に渡って植えられることがあります。そういう所ではまるで自然が豊かにあるように見えてしまいます。しかしそれは錯覚です。人間は普通は道路しか歩かないわけですから、道路に沿って植えられている街路樹は常に人間の視界に入っています。実際には、街路樹は線状であり、面の広がりがありません。林や森は面の広がりを持つものですから、街路樹というのはこれまた「異常」なものと言えます。

街路樹では樹木の種類が貧弱なのもまた問題です。全国でまとめればいろいろな樹種が含まれるのですが、局地的に見ると同じ樹木だけが延々と連なっているだけというのは当たり前の光景です。例えば私の自宅の近くの大通りではイチョウの木ばかりがずーーーーーーっと続いています。その間には所々植え込みがあったりするのですが、実質イチョウだけと言っていいでしょう。これもまた自然には見られない奇妙な光景です。

それから、街路樹も必ずしも住民には歓迎されていません。花が散っては文句を言われ、毛虫がついては文句を言われ、葉っぱが散っては文句を言われ…。樹木が存在するということは、そういう現象が必ず起こるということなのですがね。

街路樹がまったく役に立たないのかというとそうでもありません。例えば、スズメのねぐらになります。ムクドリやハクセキレイのねぐらになることもありますね。カラスが巣を作って子育てすることもあります。他の鳥が巣を作ることもあります。チョウが繁殖することもあります。こう並べるとなかなか捨てたものではありません。
ところが、ムクドリが大量にやって来るとすさまじいフン害が発生してしまいます。これはテレビで紹介されたこともあったのでご存知の方もいるでしょう。これはスズメの場合も同じことで、樹木の下がフンだらけの現場を見たことがあります。スズメはムクドリより小さいのでフンも小さく、被害も小さいと言えなくはないのですが…。
ムクドリのフン害には効果的な防御法がないため、現地の方はとても困っているようでした。しかし、解決方法はあります!(おなじみ動物探偵の出番です!)。それは、街路樹を撤去することです。そんなことはできない? しかし、木があるからムクドリは来るのです。木がなくなれば問題解決です!
街路樹を撤去することに抵抗があるというのは、樹木を切るのはかわいそうとか、自然が減ってしまうといった理由があるのでしょう。では、ムクドリを追放するのはかわいそうではないのですか? ムクドリがいなくなることも自然が減ることではないのですか?
「街路樹=自然」ではなく、「街路樹=不自然」と考えれば、街路樹に執着する気持ちは起こらないでしょう。街路樹なんていらないのです!


都市に街路樹が必要でないとしても、緑がまったく要らないという意味ではありません。より質の良い緑を確保すべきです。「面の広がりがあり」「地面が露出し」「多様な植物がある」といった要素が必要なのです(街路樹とは正反対の性格であることにご注意ください)。これは例えば緑地公園のようなものになります。あるいは、小さな小さな規模であっても住宅の庭の緑が集合すれば緑地公園に近似した自然環境にすることも不可能ではありません。
屋上緑化も面を確保できる点では有望ですが、重量や水まわりの問題があるため植物の種類のバリエーションに限度が出てくるのが難点です。それでも街路樹よりはまだましであるかな、と期待してはいます。屋上緑化は建物の設計段階から計算に入れておいた方が面白いものができます。

巨大なビルを建てることだけが都市開発ではありません。こういった「緑地」からの視点を忘れないよう都市開発関係者にはお願いしたいものです。


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