Vol. 386(2007/11/18)

[今日の勉強]成虫と幼虫の違いとは

最初にクイズです。この写真の昆虫の名前は何でしょう?

昆虫に詳しい人には難しくない問題ですね。でもわからない人も多いでしょう。今回の話は、未知の昆虫の種類を推理するための知識です。これがわかれば分類学が少し理解できるようになるでしょう。また、害虫との不要なトラブルを避ける役に立つかもしれません。


昆虫の一生と言えば、

卵→幼虫→さなぎ→成虫 (完全変態の場合)

または

卵→幼虫→成虫 (不完全変態の場合)

であることは皆さん当然ご存知のことでしょう。小学校の理科で習うはずです。
では、成虫と幼虫の違いとはどういうものでしょうか。「幼虫はイモ虫…」というのは部分的に正解ですが完全ではありません。
成虫と幼虫の違い、実はこれはとても簡単なことなのです。それは、幼虫には翅が無いということです。もっとも、成虫にも翅が無いアリのような場合には当てはまらない法則です。「翅があるなら成虫」と言った方が正確ですね。
上の写真の昆虫は明らかに翅がありません。腹の部分がむき出しになっています。ですから、これは幼虫だということがわかります。では、これは何の幼虫なのでしょうか。

次は幼虫を形態で分類してみましょう。
まず、チョウやガ(鱗翅目)の幼虫はイモ虫・毛虫のような形をしています。これらは植物食ですので、植物の葉についている姿をよく見かけるでしょう。
カブトムシやクワガタムシやカナブンやカミキリムシやゾウムシなど多くの昆虫を含む甲虫目の幼虫はイモ虫型です。他にも、ハチ・アリ(膜翅目)やハエ・カ(双翅目)もイモ虫型です。これらは地中や水中・水際に生息しているものが多く、普通は人間の目にはふれません。例外はテントウムシ類で、植物についたアブラムシをばくばく食べているテントウムシの幼虫を見たことがある人もいるでしょう(他には葉を食べるチュウレンジバチの幼虫などもいます)。
ここまで挙げた昆虫は「完全変態」をするグループです。完全変態をする昆虫では、幼虫の形態と成虫の形態がかなり違っているのが特徴です。
上の写真の幼虫はイモ虫・毛虫とは違う形ですので、これらのどれにも当てはまらないことがわかります。そうすると、写真の幼虫は不完全変態の昆虫らしいということがわかります。

不完全変態の昆虫のわかりやすい例はバッタやカマキリでしょうか。幼虫は成虫によく似た形をしています。ですが幼虫は成虫とは違って翅がありません。同じような例にはナナフシがいますし、ご家庭などでおなじみのゴキブリもそうです(しっかり観察してみましょう!)。
不完全変態の昆虫の中には、幼虫と成虫でかなり形が違っているものもいます。セミとトンボがその代表です。セミの幼虫は「抜け殻」という形でよく見かけることでしょう。トンボの幼虫は「ヤゴ」です。幼虫と成虫で形が異なるのは、生活環境が変化するからと考えられます。セミの幼虫は地面の中、トンボの幼虫は水の中で生活します。そのため、その生活に適応した形をしているのです。

さて、またまた写真の幼虫に話を戻しましょう。
この写真の幼虫は地上を歩き回っているので、セミやトンボの幼虫ではありません(形も全然違います)。また、形からバッタ、カマキリ、ナナフシ、ゴキブリ…といったものでもないことがわかります。この写真の幼虫は大きさが1cm以上あり、小さいものではありません。これだけの大きさならば、それなりに大きな分類グループに含まれると推理していいでしょう。
ここまで来れば、図鑑(子ども向け図鑑でも可)をぱらぱらとめくって見当をつけるのもいいでしょう。これまでに取り上げていない、大きな分類グループというとカメムシの仲間が残っています。カメムシは「半翅目」というグループに含まれます。実はセミも半翅目で同じグループなのですが、形態にかなり違いがあるので別の「目」に分けた方がいいのではないか、という説もあるほどです。
カメムシの特徴は、甲虫のように硬い外殻を持つことです。ぱっと見るとカメムシは甲虫そっくりです(コガネムシとかハムシとかに似ています)。カメムシと甲虫の違いは、カメムシの口は針状になっていますが(これはセミと同じ)、甲虫は「かむ」構造になっています(その構造は種類によってさまざまですが)。また、翅の形も違います。甲虫の翅は、前翅は硬くて不透明、後翅は柔らかい半透明・透明のものです。カメムシは、後翅は同じように柔らかい半透明・透明ですが、前翅は基部が硬く不透明、先端部が柔らかい半透明・透明になっています。前翅が半分硬く、半分柔らかい、という形態から「半翅目」という名前がついたのです。
写真の幼虫は当然、翅はありませんが、その体は甲虫のように硬い外殻に覆われています。ということは、これはカメムシの幼虫であると結論してよさそうです。さらに指でつまんで口の形も確認すれば完璧ですが、カメムシといえばあのくさ〜いにおいです。カメムシらしいとわかったならばそれ以上のリスクに飛び込む必要はありません。

さて、ここまでわかれば後は図鑑を調べれば答えはすぐに見つかるでしょう。この昆虫はカメムシの中でも有名なものですので、載っていない図鑑はないと思います。答えを知りたい方は是非ご自身で調べてみてください。


今回のものは簡単な例ですが、実際には何が何だかわからない昆虫、あるいはその他の生物に出くわすものです。その時にどうやって調べるかは、上に書いたような分類学の知識を総動員して推理するのです。分類学というのは意外と実践的な学問なのです。


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