この答えは、実際に骨をよく見ることで確認しましょう。
上の写真の左はサギ類(種類不明、幼鳥と思われる)、右はハシブトガラスの頭骨です。いずれも私自身が採集し、きれいに標本に仕上げました。サギ類の方は下顎骨(下あご)を省略していますが、ハシブトガラスの方には下顎骨付きです。
両方共に、くちばし部分に大きな穴があいていることがわかります。しかし、生きている鳥にはこんな大きな穴はありません。また、頭骨標本を実際に作ってみると、採集した時と比べてくちばしがずいぶんと細くなってしまうことがはっきりとわかります。骨だけでは非常にきゃしゃで、簡単に折れてしまいます。
これらのことから、骨の上をさらに何かが覆っていることは明らかです。
くちばしの骨を覆う「何か」はとても硬い物質です。そのため骨そのもののようにも思われてしまいますが、骨ではありません。
その正体は、角質(ケラチン)というタンパク質です。実は、サイの角も同じく角質です。そして人間のツメも角質でできています(哺乳類の体毛や爬虫類の鱗も角質です)。鳥のくちばしは、骨のまわりを角質が覆う構造になっています。まるで骨のように硬いためになかなか想像しにくいのですが、くちばしの角質の中には血管も神経も通っています。つまり触覚もあるのです。
角質でできているのはくちばしだけではありません。鳥の足指のツメも同じく角質です。これもまた、骨格標本にはしっかりとツメの骨があるため、ツメ=骨と思っている人は多いことでしょう。しかし、やはりくちばし同様に、骨のまわりを角質が覆ってツメ全体を構成しているのです。これは例えば哺乳類のネコやイヌのツメも同じ構造です。ツメというのは骨そのものが露出しているのではないのです。
よく考えてみると、人間のツメもそうです。指の骨は完全に皮膚の下にあり、ツメとは関係ありません。ウマのひづめ(蹄)も同じで、骨そのものではありません。
こういう知識は、骨とつきあってみるといつかは実体験で体得できるものです。が、実際にはそういう経験はなかなかできないものです。
骨にはいろいろな情報がつまっています。生きている動物だけを見るのが動物学ではありません。「骨」についての本も少数ながらありますので、興味ある方はまずそういう本から入門してはいかがでしょうか。