夏といえばセミです(誰が何と言おうと)。
昆虫採集でセミを捕まえる、というのは定番過ぎて平凡でしょうか。セミの羽化を観察する、というのはちょっと高度なネタですね。その観察方法は、拙著「動物の見つけ方、教えます! 都会の自然観察入門」に既に書いたことなので今回はパスします。羽化の観察はなかなか面白いのでお勧めのネタです。
今回紹介するのは、「セミの抜け殻を数える」というものです。ただ、数えるだけでは芸が無いですよね。この調査の本当の目的は「地面の下には何匹のセミの幼虫がいるのか推理する」ということなのです。
セミの幼虫は、地面の下で何年も過ごす、ということは皆さんもご存知でしょう。セミの幼虫は、樹木の根から栄養を吸い取って生きています。つまり、例えばサクラの木があったとすると、その地面の下の根にはたくさんのセミの幼虫がぶら下がっているのです。では、地面の下にはいったい何匹の幼虫がいるのでしょうか?
以下では、最も普通に見ることができるアブラゼミを題材にして話を進めていきます。
アブラゼミの幼虫は、地面の下で5〜7年を暮らすとされています(各種条件によって期間が変わるようです)。そこで次のような計算方法が考えられます。
地面の下の幼虫の数=ある年に地上に出てきた幼虫の数×6
セミの幼虫は毎年地上に出てきて羽化する一方、卵からかえった幼虫も毎年地面の下に潜っていくはずです(セミの卵は樹木の地上部分に産みつけられます)。ある年に地上に出てきたセミの幼虫を数えて、それを6倍すれば、地面の下の幼虫の総数もわかるということです。
では、次は「地上に出てくる幼虫」を数えることにしましょう。
まずはセミの抜け殻探しです。抜け殻とは、幼虫が羽化した後に残るもの。つまり、抜け殻を数えれば幼虫を数えたことになるのです。抜け殻探しは慣れないとちょっと難しいかもしれません。一番いいのは、公園や並木道など樹木が多い場所を探すことです。セミの鳴き声がうるさい場所を探すのもいいでしょう。一番手っ取り早い方法は、桜並木を探すことです。アブラゼミはサクラが大好きですし、サクラは学校や公園などに普通に見られるので、効率良く探せます。
セミの抜け殻がある木を見つけたら、抜け殻の数を数えます。ただし、単純に数えるだけではいけません。夏の間に合計いくつの抜け殻が出現するのかを知りたいのですから。毎晩通って、羽化する幼虫の数を数えるのが最も確実な方法です。
ですが、毎日というのは大変かもしれません。となると、やはり抜け殻を数えるのが良さそうです。ならば、夏休みの終わりの日にまとめて数えちゃえばOK!となりそうですが、それだとちょっと正確さに欠けそうです。というのは、セミの幼虫が風や雨で自然に落下したり、私のような抜け殻マニア(笑)が取り去ったりするからです。
そこで、週に2〜3回調べに行くことをお勧めしますが、数が増えたか減ったかわからなくなるのは確実です。数を正確に数えるには、抜け殻をすべて回収してしまい、証拠として残すのが一番いいでしょう。手の届くところのものは手づかみで、高いところのものは脚立を使ったり長い棒で落としたりして回収します。地面もよく見て落ちている抜け殻を拾いましょう。毎回これを繰り返せば、確実に抜け殻=羽化した幼虫の数を数えることができます。
そして、夏の終わりに集計して(抜け殻を数えるだけのことです!)、それを6倍すれば、地面の下にいる幼虫の数がわかるのです。
答えを書くだけでは自由研究になりませんので、推理方法や調査方法を詳しく記録してそれもいっしょにまとめましょう。それに、抜け殻を数える作業は夏休みの最初からやらなければならないので、8月末にあわててやっても意味がありません!
例えば、ある木から合計50個の抜け殻を回収できたとしましょう(1日あたり1個ほどですので、ありえない数ではありません)。50個×6=300。つまりその木の根には300匹のセミの幼虫がぶら下がっているのです!
これはとてつもない数字のように聞こえますが、樹木の根というのは地上に見えている部分よりも広く、深く広がっているものです。数百匹ぐらい養うだけの余地もあるはずなのです。
かつて「桜の木の下には死体が埋まっている」と誰かさんが言ったそうですが、それは違いますよね。実際は、「桜の木の下にはセミの幼虫がたくさんぶら下がっている」のです!