Vol. 430(2008/10/26)

[OPINION][東京タヌキ探検隊!]記録せよ!記録せよ!

私は「東京タヌキ探検隊!」のホームページで東京都23区およびその周辺のタヌキ目撃情報を集めています。これは新聞などでも紹介されたのでご存知の方も多いでしょう。最初に23区内でタヌキに遭遇してから10年が経過し、集まった目撃情報の累積は400件を超えました(これにはNPO都市動物研究会および佐々木洋氏からの情報も一部含まれます)。マスコミで東京タヌキが紹介される機会が増えたここ3年は情報収集の効率が上がり、多くの情報が来るようになりました。
皆さまから提供された目撃情報は、私が統一されたフォーマット(書式)に整理し、管理しています。統一フォーマットで整理することで、情報の検索や比較の効率を上げることができますし、情報が読みやすくなる利点があります。

目撃情報を記録・整理していると、自分でもよくまあ徹底的に執拗に記録しているなあ、と思うことがよくあります。他人から見ると、「そこまでやらなければならないことなのかね?」と思われることもあるでしょう。それでも執念を持って続行しているのは、以前くやしい思いをした経験があるからです。

2001年、東京都は「東京都カラス対策プロジェクトチーム」を発足させ、カラス退治に乗り出しました。私はその以前から「カラス問題の原因はゴミ問題にある」と指摘しており、カラスの殺処分よりもゴミの扱いを変更する方が有効だと主張しました。その辺りの経緯は過去の記事などを見ていただきましょう
当時、カラスにとってとても不利だなと思ったのは、カラスの生息数のデータでした。東京都の発表によると、東京都内のカラスの生息数は2001年(平成13年)に36500羽でした。ところが、それ以前の数字は1985年(昭和60年)の7000羽という数字があるだけなのです。カラスの生息数はいつ増加したのか、どの程度のペースで増加していったのかまったくわからないのです。これでは増加の原因の検証すらできません。そもそも、2つの調査方法が同等のものであったのか?という疑問もあります。状況証拠だけで、科学的検証が不十分なままカラスが悪役に仕立て上げられてしまった、と私は今でも思っています(カラス問題の根本の原因は人間活動にあると私は考えます)。
同じようなことが東京タヌキでも繰り返されることになったら…と思うとぞっとします。タヌキでさえ、「狂犬病を持っている」とか「床下に入り込む」とかのマイナス要因がクローズアップされると、一気に排除の対象になってしまうかもしれません。
それを防ぐには、さまざまな情報を収集し、積み上げていくことが有効だと思うのです。皆さまからいただいた情報の中には、疥癬症のタヌキについてのものもありますし、民家の敷地内にやって来るタヌキの話もあります。病気のタヌキの割合や、人間生活への実害の例を示すことで、逆にタヌキとの共存が可能であることを示すことができるのではないかと思います(現状で共存できないほどの事態が発生していないということは、共存が可能であるということなのです)。


東京タヌキについて、私が特に注目しているテーマのひとつが「東京タヌキは過去にどれだけいたのか?」というミステリーです。これは書籍「タヌキたちのびっくり東京生活」やこのホームページでも何度も取り上げてきました。明治時代から昭和前期(戦前)までは、東京都23区の各所にタヌキがいたことは確実です。そして、現在も推定1000頭のタヌキがいることもわかっています。では、その間の20世紀後半はどうだったのでしょう? いろいろな状況証拠からはその間もタヌキは間違いなく23区内に生息していたはずですが、その確実な証拠・証言はなかなか集まりません。これは非常にもどかしい状況です。
カラスの場合もそうでしたが、東京都23区のタヌキ(タヌキに限らず野生動物全般)の生息数・生息状況を調べた例はほとんどありません(精度が十分でない調査はある)。「大都会に野生動物はいない」あるいは「大都会の野生動物を調べても意味が無い」(研究者の関心をひかない)ということだったのでしょう。確かに、都会のタヌキを調べたところで経済的に貢献するわけではありませんし、実生活に役立つわけでもありません(おそらく学問の世界でも評価は低いのでしょう)。
現在では(私が主張するように)、タヌキは都市の自然生態系を象徴する役割を持ち、東京都23区の自然環境・生態系を考えるひとつのビューポイントになっていると言えます。これは環境問題が注目されるようになった時代だからこその現象でしょう。
ただ、20世紀後半の情報の欠落はかなり痛いところです。この情報が埋められれば、都市開発と自然環境の相互関係を明らかにすることができるのに…とつくづく思うのです。

だから私はタヌキの目撃情報収集に固執しているわけなのです。過去の情報が収集できないのは仕方がなくとも、現在の情報を集めれば後世で必ず役に立つだろう、と。そういう信念を持って続けているのです。


また、文字で記録するということには特別な意味があります。
それはつまり
 「記憶は記録しなければ残らない」
ということです。
人間の記憶というものはあいまいなもので、時間が経過すると情報の精度がかなり落ちてしまいます。タヌキとの遭遇などは個人にとってはそれほど価値があるわけではないので、過去になればなるほど記憶は不確かになっていきます。
情報の精度を落とさない方法、それは「記録すること」です。情報を頭の中に保存するのではなく、文字として(時には画像・映像として)記録するのです。こうすることによって情報は固定され、半永久的に存続できるようになるのです。私がタヌキの目撃情報を収集しているのは、個々人の頭の中に置いていたままでは劣化し、やがて消えてしまう記憶を、記録として固定するという意味があるのです。

記録せよ!記録せよ! とにかく、記録こそが最も重要なのです。


皆さまから寄せられたタヌキ(ハクビシン、アライグマも)の目撃情報はすべてデータベースに記録しています。データベースといってもその実体は普通のテキストファイル(プレーンテキスト)です。こういう場合データベース・アプリケーションを使うべきところなのでしょうが、それを使わない理由は、私がMacユーザーであり、データの互換性・汎用性を考慮するとテキストが最も確実という結論に落ちついているからです。集計が必要な場合のために、表計算アプリケーション(Numbers(iWork08))も併用していますので、だいたいのことはこれらで用が足りています。
テキストファイルがデータベース・アプリケーションに匹敵するなんて信じられないかもしれませんが、情報量が小規模で、内容が不定形の場合はテキストで十分に管理できるのです。しかし、タヌキの情報ものべ400件を超え、その記録スタイルも定まってきた現在、やはりデータベース・アプリケーションの導入を考える時期になっているのかもしれません。Macユーザーならば、その候補はBento(ファイルメーカー社)ということになりそうですが、いつ導入できることやら。

目撃情報を送っていただく際に必ず書いてほしいと私がお願いしているのは、「目撃年月日」「目撃時刻」「目撃場所」「目撃頭数」「その他目撃時の状況」の5項目です。これはつまり、5W1Hに対応しています。When=年月日・時刻、Where=場所、What=頭数(タヌキかハクビシンかの区別も含む)、How=「目撃時の状況」、となるわけです。「Who」ももちろん記録していて、情報を送付された方の名前やメールアドレスなどを記録しています。もうひとつ「Why」が欠けていますが、これはデータベースには特に関係がないので記録のしようがありません。

データベースでは、さらに詳しい項目を追加しています。例えば、場所の情報は軽度・緯度でも記録しています。こうすれば、地図アプリケーションでの正確な位置表示に使えます。残念ながら、目撃情報の中には場所がはっきりと書かれていないために数百mの誤差(丁目内のレベル)が出てしまうことがあります。せめて数十m(番地内のレベル)の誤差であればタヌキ調査には十分な精度になりますので、場所情報はできるだけ詳細に教えていただきたいのです。


記録せよ!記録せよ!

タヌキの目撃情報の収集はこれからも続きます。皆さまのご協力をあらためてお願いします。

東京都23区内での最新のタヌキ情報については
東京タヌキ探検隊!
のページをご覧ください。

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