今回の話は複雑な条件がいろいろとからんでくるので、哺乳類に限っての話であることを前提にします。
最強の哺乳類は何か、ときかれれば、たいていの人の答えは百獣の王・ライオンあるいはトラを挙げるでしょう。確かにライオンやトラの映像からは彼らが優れたハンターであることがわかります。しかし、その勇猛な彼らでさえめったに手を出さない動物がいます。それは例えばゾウやキリンです。ゾウもキリンも植物食動物ですので他の動物を襲って食べるわけではありません。一般には植物食動物は一方的に「食べられる」存在です。しかし、ゾウやキリンが狩られることはあまりありません。なぜでしょうか。
そのヒントとして、アフリカのサバンナで見られる動物を中心に体重のリストを作ってみました。なお、トラはアジアにしか生息しませんが参考として載せました。
動物食動物
ライオン | 150〜250kg |
トラ | 180〜240kg |
ブチハイエナ | 82kg |
チーター | 45〜65kg |
植物食動物
アフリカゾウ | オス4700〜6000kg、メス3200kg |
キリン | オス800〜1930kg、メス500〜1180kg** |
カバ | 1600〜3200kg |
ヌー | 230〜275kg |
サバンナシマウマ | 175〜385kg*** |
イボイノシシ | 60〜100kg |
トムソンガゼル | 15〜50kg*** |
他
ヒト | 50〜70kg |
データは世界文化社「決定版 生物大図鑑 動物 哺乳類・爬虫類・両生類」より(ヒトを除く)。
その他の文献は以下の通り。
**今泉吉典監修「世界哺乳類和名辞典」平凡社
***「小学館の図鑑NEO動物」小学館
このリストから読み取れることは、ゾウ、キリン、カバといった動物は体重がライオンよりもはるかに重い、ということです。ライオンがよく狩るであろうヌーやシマウマで同等の体重です。
ここから導き出せる法則、それは「重い方が強い」ということです。非常におおざっぱですが、余裕を持って相手を倒すには体重比で2〜3倍以上は必要になるでしょう。ほぼ同等の体重ならばかなり苦労しなければ倒せません。
もちろん、ライオンやトラには鋭い歯やツメがあるので有利に戦うことはできます。それでも相手の方がずっと重ければ逆襲されるリスクの方が大きくなります。カバもゾウもライオンの10倍以上の体重です。まともに戦って勝てる相手ではありません。ですからライオンは超重量級の動物を襲うことはないのです。
しかし、このハンディを克服する方法もあります。それは集団で戦いを挑むことです。ライオンが2頭いれば体重は2倍、3頭いれば3倍…となるわけですから数が多いほど有利に戦いを進めることができます。ライオンがヌーやシマウマを襲う時、単独でよりも複数でくらいつくのは、より重い体重によって狩りを有利にすることができるからです。シマウマやヌーが相手ならば、ライオンは少なくとも2〜3頭で襲えば確実に倒すことができるでしょう。より重いカバに対しては、ライオンは20頭はそろわないと有利になれません。これではなかなか襲えないでしょう。より重いゾウはなおさら戦いを挑みにくいわけです。
ライオンなどの動物食動物は植物食動物の大人よりも、小さな幼獣を狙う傾向があります。これも体重が軽い相手ほど狩りやすいからなのです。
単独行動のトラやチーターの場合は数に頼る戦法もできませんので、より軽い相手を狙うことになります。チーターがハイエナよりも弱いことはテレビなどでご存知の方もいるでしょう。これも体重で見ると、ハイエナの方が明らかに重いためで、1対1ではハイエナの方に分があります。また、単独行動のチーターに対し、ハイエナは集団行動ですのでますますハイエナ有利です。チーターがハイエナにけんかをしかけるというのはあまり起こらないことでしょう。
日本では毎年のようにクマに襲われたという事件が起こります。クマの体重を見てみましょう。
ツキノワグマ | オス110〜150kg、メス65〜90kg**** |
ヒグマ(エゾヒグマ) | 400kg |
ジャイアントパンダ | 100〜150kg |
****東京動物園協会「世界の動物 分類と飼育2食肉目」
この数字からもわかるように、クマはまともに戦って勝てる相手ではありません。成人男性とメスのツキノワグマが戦って互角、と言いたいところですが、ツメがあるためツキノワグマの方が有利でしょう。素手で戦うのは無謀です。何か武器があれば互角になるかもしれません。ヒグマはさらに重いのですから、絶対に人間は勝てません。
また、パンダも人間が勝てる相手ではないということを肝に銘じておいた方がいいでしょう。
ところで、金太郎がクマに勝った、というおとぎ話は有名ですが、体重比で考えても子どもがクマに勝てるはずがありません。なぜ金太郎が勝利できたのか、その理由を推測してみました。
1.クマが手加減した
2.金太郎は飛び道具を使ったり、ワナを使って袋だたきにした
3.クマも子どもだった
こういったあたりが真相なのでしょう。
ゾウよりも重い哺乳類といえばクジラ類です。
シロナガスクジラ | 130000〜160000kg |
ザトウクジラ | 30000〜40000kg |
これは文字通りケタ違いの重さです。クジラにはゾウでも勝てません。人間はまったく相手にもなりません。ザトウクジラの前脚(ひれ)で、ちょいとはたかれただけで即死してもおかしくありません。
テレビでアフリカのサバンナの動物たちが紹介されることがよくあります。その時は、この「重いほど強い」法則を思い出しながら見てください。その勝負が無謀なものか、楽勝なのか、よく理解できるはずです。
哺乳類以外の動物となると、「重いほど強い」という法則は必ずしも成り立たなくなります。例えばアリは小さな動物の代表とも言えるものですが、大きな昆虫に対して集団でよってたかって脚の関節を押さえ込んでしまえば、アリの勝利です。
また、毒を持つ動物も有利に戦うこともできます。
動物全体で考えると勝負の法則というのはかなり複雑になってしまいます。