今年の夏はそれほど暑くないのですが、私の方は暑さにダウンしてしまいました。8月の前半はずっと湿度が高く、熱中症寸前になるほどでした。
そんな時に思い出したのが、猛暑の日差しの中にいたトンボのことです。
昆虫というものは基本的には外気温に左右され、暖かいと活発に、寒いと不活発になります。夏になると昆虫が増えるのはそのためです。冬はどこかに隠れてじっとしていたり、卵や幼虫や蛹の形で越冬することもあります。
昆虫が暖かいところが好きといっても暑すぎる環境は苦手です。例えば猛暑の直射日光下のような状況は暑すぎる環境で、そのような場所を動き回る昆虫は多くありません。
そんな猛暑の公園でトンボを見かけました。
これはウチワヤンマというトンボです(7月撮影)。竹の棒にとまっている姿、奇妙ではありませんか? 腹を上に突き上げた格好をしているのです。普通のトンボなら、いやウチワヤンマでもたいていは腹を水平にしてとまるものです。
なんだあれは? と思いながら、私は気がつきました。どうやらトンボの腹は太陽の方向を向いているようです。つまり、太陽の日射にさらされる面積を最小限にしようとしているのです。その結果、体温の上昇も最小限に抑えられるでしょう。
これは猛暑対策としてかなり有効なはずです。
しかしあらゆるトンボがこんなことをしているわけではありません。例えばノシメトンボなどは林の中で過ごします。直射日光を避け、涼しい場所で過ごすのも正しい対策です。
ウチワヤンマもそうすればいいはずですが、そうはしません。これは習性によるものとしか言いようがありません。ウチワヤンマは開けた見通しの良い場所を好みます。写真のような棒の上とか、木や街灯のてっぺんによくとまっています。そのような場所は当然、直射日光にさらされることになります。それに対抗するための方法が、腹を太陽に向けることなのでしょう。
ノシメトンボもいつまでも林の中に隠れているわけではありません。秋になって気温が下がってくると開けたところを活発に飛び回るようになります。猛暑を耐えて、涼しくなってから活動をする、というのもひとつの戦略でしょう。
赤トンボの代表であるアキアカネは別の暑さ対策をします。アキアカネは6月から7月に平地で羽化し、すぐに高地へと移動して涼しいところで避暑をするのです。なんとも優雅なバカンスですね。でも自力で長距離を飛んでいくわけですからこれはこれで大変なのです。そして、秋になって涼しくなると平地に戻ってくるのです。アキアカネというとその名のように秋に現れるトンボと思われることが多いのですが、実際は夏には平地にいないということなのです。
秋が深まると、さらに気温は低くなってきます。そうなると体を暖める必要が出てきます。例えばこれはコノシメトンボの写真です(10月撮影)。
この2匹は偶然同じ方向を向いているのではありません。仲良しだから向きをそろえているのでもありません。
お分かりでしょうが、猛暑の中のウチワヤンマとは逆に、太陽にあたる面積を最大にして体を暖めようとしています。パイプの上はすべりやすいのか、太陽に対して最大面積になっているわけではないようですが、彼らも努力しているのです。
ただ、ロープのような細い場所の上だと、太陽の向きに関わらずロープに沿ってとまるようです。これも着地の体勢の安定を保つためでしょうか。
昆虫は何も考えていないように見えるかもしれませんが、彼らも生きていくために適切な戦略を選びながら行動をしています。人間が思っている以上に昆虫たちは賢いのです。